
信託銀行と言うとドメスティックなイメージが強いのですが、弊社では外国籍の社員の比率が45%に上り、粗利益つまり一般事業会社で言う売上高の海外比率も間もなく50%に届きそうなところまで来ています。
売り上げの半分が海外というのはすごいですね。
2013年頃から海外企業の買収に着手し、これまでで約10社に上っています。結果として、社員や粗利益の構成比において、海外が半数近くを占めるに至ったわけです。
海外展開には、何かきっかけがあったのですか?
はい。日本の人口減は金融資産全体の減少に直結しますから、金融業の場合、この先、国内マーケットを拡大していくのはなかなか難しい状況です。
一方、私ども信託銀行の資産運用や資産管理ビジネスでは、株式や債券といった伝統的資産に加え、それ以外のオルタナティブ(代替資産)も扱っているのですが、これから先はオルタナティブの運用・管理が大きく伸びていくであろうというシナリオの下、10年前から海外企業の買収を進めてきた経緯があります。
実際にこの領域は大きく成長しており、今後の拡大も期待できます。さらに伸ばしていけたらと考えています。
まさに予見的中じゃないですか。
そういう意味では、非常にいい流れに乗れたと思っています。
素晴らしいことですね。

真田さんは『SHOGUN 将軍』でプロデューサーデビューされたわけですが、強者揃いのチームのマネジメントはなかなか大変だったのではないかと推察します。海外のスタッフと協働する際に必要な資質や心構えなどはありますか?
日本人と外国人では、価値観も歴史的背景も異なります。そうした異文化が交流するわけですから、一番避けたいのは、どちらかが一方的に自分の考えを押し付けてしまう形になることですね。
日本人としては、先方から何を求められているのかを正しく理解したうえで、「ここは譲れるけれど、ここは無理」といった折衷案を出していく必要があります。相手の言うことを頭ごなしに否定するのでなく、かといって要望を何でも受け入れるのでもなく、バランスを取っていくことが大切です。ここでも、コミュニケーション能力が求められますね。
なるほど。一方で、日本人ならではの強みもあるかと思います。ハリウッドで仕事をされている中で感じていらしたことがあれば、お聞かせください。
勤勉さですとか、奉仕の精神ですね。日本人スタッフには、ビジネスライクではない、職人気質的なものを感じます。日本人特有の粘り強さや辛抱強さが、『SHOGUN 将軍』の現場の支えになっていた気がします。 金融業界ではどうなのでしょう?
非常に真面目で誠実、そして勤勉。それと、協調性があり、他者に協力的なマインドを備えた人が多いですね。
確かに、周囲と協調しながら職場環境を良くしていこうという姿勢は、日本人の強みですね。どの業界でもそうかもしれません。
私自身が経営者ということもあり、真田さんには是非、マネジメントの話もお伺いしたいと思っていました。そもそも、俳優をなさりながらプロデューサー業の知見をどのように蓄積されたのですか?
『SHOGUN 将軍』は最初、俳優としての契約でした。クリエーターが変わった際に、オーセンティックな(本流の)日本を描きたいということで「プロデューサーも兼務してくれないか」とオファーを受けたんです。そういう経緯なので、もともとプロデューサー業を学んだり、修業したりしたことはありません。プロデューサーの打診に二つ返事でOKしたのは、自分がプロデューサーの肩書を得て権限を持てば、これまで以上に日本の表現についてコミットしていけるのではないかと考えたからです。もっとも、20年以上に亘り、自分の出演する作品についてはコンサルタント的な立場で助言をしてきたわけですが。
そうなのですね。
とはいえ、いち俳優として言えることの限界も感じていました。誰に、どういうタイミングでどんな伝え方をすればプライドを傷付けずに済むか。そんなことばかり考えていた20年だったので、『SHOGUN
将軍』で初めてプロデューサーになって全ての経験が生きましたね。プロデューサーの肩書が付いたことで、皆が自分の意見を聞いてくれるようになりましたし、初めて日本のスタッフをハリウッドに招聘することもできました。俳優だけでなく、衣装も、かつらも、小道具も、美術もです。
今まで一人でやってきたことがチームで分担できる。そのうえ、意見する権利もある。そういう意味では、これまでより負担は小さく、純粋に制作作業を楽しめました。特に日本から呼んだ若手の俳優たちがいい演技をしてプロデューサー陣から絶賛された時は、自分のこと以上にうれしかったですね。まさに今まで経験したことのない喜びで、毎日現場に行って皆の芝居をチェックするのが待ち遠しく、全く疲れを感じませんでした。
プロデューサーとして得難い経験をされたわけですね。リーダーシップを取るうえで意識されていたことはありますか?
日本と西洋のクルー、キャストの橋渡し役になれればという思いがありました。自分の渡米時を振り返ると、皆が直面するだろう課題が思い浮かぶんです。先回りして、しらみ潰しに消していきました。悩みごとを聞いたり、時には間に入って文化的な話題の通訳をしたりと、東西のクルー、キャストがうまく譲り合い、学び合い、リスペクトし合ってベストな調和を生み出すことに腐心しました。とにかくピースフルに。一番心掛けたのはそれですね。
そして、日本人であろうと、アメリカ人であろうと、うまくいった時はその人たちに手柄を渡しました。目一杯アプローズ(拍手喝采)して。それを少しずつ積み重ねていく中で、皆からどんどんやる気が出てくるのが手に取るように分かりました。こうした経験ができたのも、プロデューサーの醍醐味ですね。
とてもいいお話ですね。弊社も海外企業の買収を進める中で、こちらが100%の株式を持つ親会社であったとしても、相手の意見や想いを尊重しながら、日本人も海外の人も分け隔てなく接していくことが非常に重要であることを、この10年間で学びました。それが徹底できなければ、グローバル企業にはなれないと考えています。ですから、真田さんのマネジメントスタイルには大変共感するとともに参考になりました。
グローバルビジネスという意味ではお互い共通点が多いですね。

『SHOGUN 将軍』では日本人のキャストやクルーがいい形で活躍されていたというお話でしたが、さらにこの先、日本人や日本のエンターテインメントがグローバルでもっと評価されるためには何が必要だと思われますか?
そうですね。ドメスティックなマーケットだけを意識していては、成長や飛躍は難しいように思います。マーケット自体が小さいので予算がかけられませんし、また、欧米ナイズしようとか、若者を意識して現代ナイズしようとすればするほど、本来の日本らしさが薄れてしまいます。
やはり、日本人のグローバル市場に向けた最大の武器は“日本人であること”だと思うんですよ。ハリウッドが日本人に求めるのは、現代物であっても日本らしさです。中途半端に西洋文化を真似た日本人や日本作品ではないんです。ですから、本気で海外に出るなら自国の文化をしっかり勉強して、自分たちの強みを再確認する必要があります。
世界に向かって作品を制作できるようになれば、予算の規模も大きくなります。アジアや日本に向かって大きな門が開かれてきた今は、チャンスだと思うんですね。日本人であることに誇りを持ち、どんどん世界に打って出てほしいですね。
おっしゃる通りですね。金融にも真田さんのおっしゃった東西の壁はあり、例えば、海外だと銀行に求めるサービスの水準が異なります。文化や習慣、考え方の違いですね。ですから、日本流のきめ細やかなサービスを海外で導入しても、コストだけかかって顧客満足度はそれほど上がらない可能性があります。一方で、海外では地域特有の業務が発生することもあり、グローバル化を進めていくのはなかなか難しい面もあると感じています。
とはいえ、信託銀行業界も国内市場が伸びていかない中で成長を続けるには、海外に打って出ざるを得ません。先ほどお話しした勤勉性や協調性など、日本人の強みを生かして、活路を見出していきたいと思います。
実は私も日本を出てからずっと葛藤してきました。自分らしさや日本人らしさをどこまで貫けるのか。それで、どこまで上がっていけるのか。ただ、“らしさ”を消してハリウッドに寄り添って成功したとしても、それは自分の人生じゃないと思ったんですね。その中で、ハリウッドのシステムを学び、いい折衷案を見出す技術を磨きながら、自分を失わず、日本人らしさを失わずに共存していく方法を身に付けたという感じでしょうか。
なるほど。大変示唆に富んだお話をありがとうございます。