年金ALM
1.年金ALMはどのようにして発展してきたか
ALM(Asset - Liability Management)とは、主に金利変動のミスマッチを管理することにより、期間収益の安定化を図る目的で発展してきたリスク管理手法であり、1970年代後半以降米国の金融機関において資産・負債の両面を総合的に管理する手段として発達した。
従来、資産構成割合と給付設計・受給権の保護等は別個の問題として取り扱われ、資産・負債の両面から年金制度運営上の問題を検討することは比較的少なかったが、米英の年金基金は、金融機関のALM手法にならい年金資産・負債の総合的管理手法として「年金ALM」を導入するようになった。
日本においては、1994年の厚生年金法改正で、年金経理から年金ALM手数料の支払いが認められたため多くの年金制度で実施されるようになり、また、2000年には退職給付会計導入が導入されたことを契機に、年金財政だけでなく退職給付会計上の負債(Liability)を対象とした年金ALMも広く活用されるようになっている。
2.年金制度運営における「リスク」とは何か
年金制度運営におけるリスクとは、年金財政が悪化すること(剰余金減少・不足金増加)あるいは退職給付会計上の積立不足が発生・拡大することであり、資産・負債サイドそれぞれで以下の点が考えられる。年金制度運営にあたっては、これらのリスクが許容される範囲内であるかどうか定期的に把握、検証することが必要となる。
- (1)資産運用リスク(=運用収益のブレ)
収益率が予定利率に届かないリスク。収益率の変動幅は、資産構成割合に大きく依存すると考えられる。このため、年金ALM分析を活用して、適切な長期資産構成割合(=政策アセットミックス)を策定することが重要。 - (2)負債変動リスク
割引率・死亡率・退職率・昇給率等、負債を計算するための前提(計算基礎率)が変動するリスク。資産運用リスクが運用方法等で一定程度コントロール可能な一方、負債変動リスクはコントロールが困難であり、過去の傾向や将来の見通しなどによりその影響を把握しておくことが必要。
3.年金ALMの実際
年金ALMとは、年金資産と年金負債の将来シミュレーションを行って年金制度運営上のリスク(資産運用リスク・負債変動リスク)を把握し、最適な政策アセットミックスを策定することであり、以下の流れで進める。
- (1)効率的フロンティアの算出
効率的な資産構成割合(それぞれの目標収益率に対して、最小のリスクとなる資産構成割合)を算出し、複数の政策アセットミックス候補を選定する。 - (2)年金制度運営上のリスクを把握
年金資産・年金負債・キャッシュフロー等の将来シミュレーションを実施し、積立比率・掛金・費用・成熟度等から年金制度運営上のリスクを把握する。 - (3)政策アセットミックスの策定
上記リスクや金利急騰・株式急落等を想定したストレステストの結果から、最適な政策アセットミックスを決定する。なお、DBガバナンス強化の観点から2018年4月1日以降、受託保証型DBを除く全てのDBにおいて、政策アセットミックスの策定が義務付けられた。
4.年金ALM実施の目的
年金ALMの目的は、今後生じる可能性のある様々なリスクを、具体的な数値で把握し、関係者(事務局や母体企業等)で協議・検討しながら、今後の財政運営について共通認識を形成することにあると考えられる。
関係者の間で協議を繰り返しながら、リスク許容度を踏まえた最適な政策アセットミックスを策定し、財政運営のベースとすることができれば、年金ALMはその目的を達したといえるだろう。