企業年金と税
1.はじめに
厚生年金基金制度、確定給付企業年金制度および確定拠出年金制度へ拠出する事業主掛金は法人税法上、損金として取り扱われる。また、加入員が掛金を拠出する場合も、一定の範囲で所得控除される。このように、それぞれの根拠法令等の規制に適合するものについて、税制上の恩典を与えられている。これは、国民の老後所得保障と生活の安定のために、公的年金を補完する制度として、企業年金の健全な普及・推進を図るという理由からである。
税制上の取扱いは、掛金拠出、積立金運用、給付金支払といった時間的な経過のそれぞれの段階によって変化し、課税対象となる主体(事業主、加入者)によってもその取扱いは異なる。
本稿では、厚生年金基金、確定給付企業年金及び確定拠出企業年金(企業型)の税法上の取扱いの概要について述べる。
2.掛金に関する取扱い
企業年金制度に拠出する掛金は税法上、制度の種別、負担する主体によって以下のように取り扱われる。
事業主掛金 | 従業員掛金 | |
---|---|---|
厚生年金基金 | 全額損金算入 | 社会保険料控除 |
確定給付企業年金 | 全額損金算入 | 生命保険料控除(注1) |
企業型確定拠出年金 | 全額損金算入(注2) | 小規模企業共済等掛金控除 |
個人型確定拠出年金(iDeCo) | − | 小規模企業共済等掛金控除(注3) |
- (注1)年間40,000円が限度。ただし契約日が2011年12月31日以前の契約に係るものについては、年間50,000円が限度となる。
- (注2)他の企業年金がある場合は、月額5.5万円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額が拠出上限となる(経過措置あり)。
- (注3)他の企業年金がある場合は、月額5.5万円から「企業型DC事業主掛金とDB等の他制度掛金相当額の合計額」を控除した額かつ上限2万円までが拠出上限となる。なお、企業年金未加入者および国民年金第3号被保険者は月額2.3万円まで、国民年金第1号被保険者は月額6.8万円が上限である。
3.積立金に関する取扱い
厚生年金基金の積立金については、代行部分に相当する額の3.23倍を超える部分に対して、毎年1.173%の特別法人税が課税される(それ以下の部分については非課税)。
確定給付企業年金、確定拠出年金(企業型・個人型)に関しては、その積立金に対して、毎年1.173%の特別法人税が課税される。
なお、2026年3月31日までの期間は租税特別措置法により、特別法人税の課税は凍結されている(課税されない)。
特別法人税は掛金相当額を従業員の所得とみなし、給付(退職時)までの間、課税が繰り延べられることに関する延滞税として1962年(昭和37年)の税制適格退職年金制度の導入時に創設された税である。
4.給付金に関する取扱い
企業年金制度からの給付金に関しては、給付形態(年金または一時金か)、採用している制度の種類、および給付の発生事由(老齢、障害または遺族)によって取扱いが異なる。具体的には以下のとおりである。
- (1)老齢給付金
- 年金
全額雑所得として課税される。また、確定給付企業年金で従業員拠出がある場合には、従業員拠出分を控除した残額に対して雑所得として課税される。なお、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金からの年金給付は、公的年金等控除の対象となる。 - 一時金
確定給付企業年金および厚生年金基金では、退職に起因する場合は退職所得、退職以外に起因して支払われる場合は一時所得として課税される。確定給付企業年金で従業員拠出がある場合には、年金と同様に従業員拠出分を控除した残額に対して退職所得または一時所得として課税される。確定拠出年金(企業型・個人型)では、一時金での受け取りは、退職に起因しなくても退職所得として課税される。(老齢年金の受給要件に該当し、その全部または一部を一時金で受け取りが可能である旨を定めてある場合に限る)
- 年金
- (2)障害給付金
年金、一時金ともに非課税扱い。 - (3)遺族給付金
厚生年金基金の場合、年金、一時金ともに非課税扱いとなる。
確定給付企業年金の場合、年金、一時金ともに相続税の課税対象となる。
企業型確定拠出年金の場合、死亡一時金として相続税の課税対象となる。