IAS19号(国際会計基準第19号)

日本の退職給付会計に相当するIFRSの基準が「IAS19号 従業員給付(Employee Benefits)」。
ただし、IAS19号は従業員給付全般を取り扱っており、日本の退職給付会計基準よりも広い範囲をカバーしている。
退職給付制度に関する大きな違いは、1:アセットシーリングの有無、2:期待運用収益の有無、3:リサイクリングの有無、4:費用の表示方法。

項目 IFRS基準(IAS第19号「従業員給付」) 日本基準(企業会計基準第26号「退職給付に関する会期基準」等) 債務 割引率 根拠 原則として優良な社債を基準に設定 安全性の高い長期の債権利回りを基準に設定 例:長期国債、政府機関債、優良社債等 重要性基準 なし(割引率は毎年見直し) あり(割引率を変更してもPBO額に重要な変動を与えない場合は、割引率を見直さなくてもよい) 死亡率の改善の織り込み 将来の改善を織り込む 織り込まない 退職給付の期間帰属方法 給付算定基準 期間定額基準または給付算定式基準 資産 アセットシーリング(BS資産計上額の上限) あり なし 費用処理 表示 通常分解表示 通常、勤務費用、利息純額等をそれぞれ計上 総額表示 「勤務費用+利息費用−期待運用収益+−数理計算上の差異の処理費用」の金額を計上 勤務費用 純損益として認識 純損益として認識 利息費用等 利息純額は純損益として認識 利息純額=(DBO−年金資産)×割引率 利息費用、期待運用収益は純損益として認識 利息費用=PBO×割引率 期待運用収益=年金資産×長期期待運用収益率 予定と実績の乖離等 「再測定」という 発生時:その他の包括利益で認識 その後:なし(リサイクリングしない) 「数理計算上の差異」という 発生時:その他の包括利益で認識 その後:リサイクリングする=一定期間に亘り純損益へ振替

  1. 1:アセットシーリング
    貸借対照表への資産計上額に上限がある。
  2. 2:期待運用収益
    日本基準においては、費用算定上、期待運用収益(=年金資産×長期期待運用収益率)を減算するが、IFRSには期待運用収益という概念はない。IFRSにおいては、年金資産×割引率を減算する。
  3. 3:リサイクリング
    一旦その他の包括利益に計上された再測定は、その後、損益計算書には計上しない。
  4. 4:費用の表示方法
    勤務費用と利息純額は費用計上を通じて当期利益に反映され、再測定はその他の包括利益として計上される。
    勤務費用と利息純額は合算せず、損益計算書上それぞれ計上するが、表示区分や勘定科目等は示されていない。
  5. 5:その他
    • 割引率に関する重要性基準
      割引率に関する重要性基準は存在しない。
    • 退職給付債務の期間帰属計算
      給付算定式基準とする必要がある。
    • 過去勤務費用の計上方法
      当期に発生した過去勤務費用を全額勤務費用に含めて計上する。
      つまり、制度改訂に伴う退職給付債務の増減は、一括して費用処理する。
    • 開示
      感応度分析等、日本基準より広い範囲の開示が求められる。

(参考1)
IFRSの再測定は、日本基準の数理計算上の差異と同様、主として実績値と予測値の差額。
退職給付債務から発生する差額については、日本基準とIFRSに違いはない。
年金資産から発生する差額については、日本基準とIFRSには本質的な違いがある。
日本基準:実際の運用収益率と長期期待運用収益率の差に相当する額
IFRS:実際の運用収益率と割引率の差に相当する額

(参考2)
現行IFRSにおいては、勤務費用と利息純額にかかる損益計算書上の表示について、表示区分や勘定科目等の定めはない。
しかしながら、2024年4月に公表されたIFRS18号「財務諸表における表示及び開示」において、損益計算書に3つの区分(営業、投資、財務)が新設され、利息純額については「財務区分」に表示することとされた。IFRS18号は、2027年1月以降に開始する事業年度より適用(任意の早期適用も可)される。