スタートアップ経営者のための優先株式解説
株主名簿管理人による5つの視点
スタートアップが資金調達を行う際、多く利用されるのが「優先株式」です。種類株式の一種である優先株式は、資金調達の柔軟性を高める一方、経営に大きな影響を与える可能性があります。
この記事では、株主名簿管理人の視点で優先株式をご説明します。
種類株式は、会社法第108条に基づいており、株式会社は以下の事項について異なる内容の株式を発行することができます。
スタートアップでは、普通株式と比較して、配当金や残余財産分配等で優先される株式(本記事では、「優先株式」と記載)を発行することが多くみられます。
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剰余金の配当(第108条第1項第1号)
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残余財産の分配(第108条第1項第2号)
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議決権の有無や制限(第108条第1項第3号)
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譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項等(第108条第1項第4号〜第7号)
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拒否権や役員選任権(第108条第1項第8号〜第9号)
1.優先株式のメリット
優先株式の活用は、創業者、投資家双方にメリットがあります。
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創業者のメリット:優先株式の株価を高めることで資金調達時の希薄化を抑制。優先株式の株価が高まることで、
資金調達に必要な株式数を少なくし、創業者持分の希薄化を抑制。 -
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投資家のメリット:残余財産の優先分配条項(M&A時の優先分配)、希薄化防止条項、役員選任権の規定による
投資リターンや影響力の維持および強化。
副次的なメリットとして、株主間契約でM&Aによる売却時の優先分配条項を規定する場合等、優先株式が金銭面で優先される場合、普通株式の価値が相対的に低く算定されることがあります。これにより、ストックオプションの権利行使価格の設定等、将来の資本政策を柔軟に実行できる可能性があります。
2.優先株式の留意事項
優先株式を利用した資金調達はメリットがある一方、投資家保護を目的とした条項が含まれることがあるため、経営の自由度とバランスに留意が必要です。
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創業者側の留意事項:株主総会議案の内容ごとに種類株主総会の要否を確認する必要があり、形式的な対応が求められる。
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投資家の留意事項:ラウンドごとに投資家間での利益調整、拒否権を設定する場合等は将来の資金調達への影響、
種類株主総会への参加等形式的な事務負担等。
優先株式の内容は、スタートアップの人的リソースや成長フェーズに考慮して、投資家と十分協議、専門家と相談して設計する必要があります。
3.希薄化と経営権のコントロール
優先株式の発行内容次第では、意思決定に時間を要す、創業者の持分の希薄化を加速させるといった可能性があります。中でも注意すべき事項として、以下の点が挙げられます。
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希薄化防止条項:次回の資金調達がダウンラウンドとなった場合、優先株式を保有する株主の持分が保護される一方で、
普通株式を保有する創業者の持分がさらに希薄化。 -
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種類株主総会:定款で拒否権の有無を確認。更に会社法で開催が義務付けられている種類株主総会にも留意。
特に定款で特別な定めがない限り、ストックオプション発行は普通株式に係る種類株主総会が求められるため注意。 -
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取得条項による転換:新規上場(IPO)時に、優先株式を普通株式に一括で転換する「全部取得条項」を利用する実務が一般的。
会社法第108条第1項第6号に基づき、上場申請の取締役会決議等、事前に定めた条件を満たした場合に、会社が優先株式を一括して
取得し、普通株式を交付する仕組み。 -
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(ご参考)IPOラチェット条項:IPOに伴い優先株式を普通株式に転換する際、IPO時の公募価格が一定水準を下回った場合に、
転換比率を調整することで、既存投資家の経済的利益を保護する仕組み。既存投資家側はリスクヘッジの手段となり、投資の動機を高める一方で、上場前後で株主構成が大きく変動する可能性があるため、慎重に設計する必要あり。
4.失敗を防ぐための専門家の役割
優先株式の設計において、考慮すべき事項は広範です。一度実行した資本政策の内容を変更するのは至難の業となるため、専門家への事前相談が重要です。
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投資家(ベンチャーキャピタル):出資条件の交渉だけでなく、資本政策の計画を共有、長期的な関係を構築。
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スタートアップに強い弁護士:優先株式の内容、投資家との契約書レビュー。
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IPO関係人:株主名簿管理人(信託銀行)、監査法人、主幹事証券と優先株式の内容について共有。特徴的な内容があれば、指摘を依頼。
5.株式実務の観点
優先株式は、「全部取得条項」により、株式上場時には普通株式へ転換されることが一般的です。IPO時期のタイミングを考慮した転換の時期の決定、優先株式に関する定款の内容を削除するなどの対応があるため、株主のほか、主幹事証券、証券取引所、証券保管振替機構、株主名簿管理人等とのスケジュール調整が重要です。
6.まとめ
優先株式はスタートアップの成長資金を得るための有力な手段ですが、設計次第で経営に大きな制約をもたらします。遠慮せず、専門家の力を借りながら慎重に進めることが成功への近道です。
優先株式の発行前後問わず、ご相談事項があれば、是非、弊社へご連絡ください!お待ちしております!
また、株主総会議案の内容によっては、優先株式ごとに種類株主総会の開催が求められることがあります。定時株主総会だけでなく、種類株主総会を含めた複数の株主総会を開催するために効率的な管理ツールである「MUFG FUNDOOR」のご用意もありますので、お気軽にお問い合わせください!