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株式実務と株主間契約の実践的運用

スタートアップが急成長を遂げ、ステークホルダーが多様化する中で、株主間契約(Shareholders Agreement:SHA)は、スタートアップの機動力を担保するルールブックとしての役割を担うようになっています。
SHAの内容に則った正確な実務がスタートアップの堅確な株式実務に結実します。
本稿では、発行会社における株式事務の観点からSHAの要諦をご案内します。

1.はじめに:スタートアップにおけるSHAの役割

スタートアップにおいて、上述のとおりSHAは「株主同士のルールブック」です。
単なる投資家による監視ツールではなく、発行会社の経営、情報開示、資金調達、Exitに関するマニュアルであり、スタートアップの存在感に比例して、その重要性もますます増しているように感じます。
特にIPO(新規上場)だけでなくM&AによるExitも増加する中で、全株主の一体性を契約で担保することが不可欠となっています。

2.SHA の主要条項と最新のトレンド

現代のSHAにおいて、株式実務と密接に関係する事項は以下のとおりです。

  • (1)

    事前承認・事前通知・事前協議事項

会社法上の「株主総会決議」が必要な事項であっても、SHAにおいて株主への事前の書面による通知、書面による事前の承認が義務付けられることがあります。

事前承認事項の例として、定款変更、新株発行、役員の選解任、合併等、株主総会の決議事項であっても、事前に株主の承諾がなければ議案として提出できない設計が多く、種類株式の「拒否権」と同様の効果を持ちます。
一方、重要であるものの事前承認までは不要と判断できる内容は、事前通知事項として株主へ連絡をすれば足りるとすることも実務上見られます。

特に事前承認事項は、慎重に検討する必要があると共に、事前承認に代わって「事前協議」の制度を導入することも一考です。投資家にとって優先度合いが相対的に低いと判断できる事項については、スタートアップとしての機動力の低下を防ぐため、誠実に協議すれば実行可能とする内容を盛り込むなど、発行会社ごとに適切な設計を選択することが理想です。

また、いずれの場合も対象事項については、対象事項を決議する取締役会や株主総会の●日前までに連絡する、承認を得るといったスケジュールに関する定めがあるため、特に株主総会を開催する場合は、法定期限のほか、株主間契約の定めによる手続きにも留意が必要です。更に共通した論点として、承諾、通知の方法は、書面、または電磁的方法(メール等)の両方を採用できるように定めておくと便利です。

  • (2)

    取締役指名権

株主が発行会社の情報取集、経営へ自らの意向を反映させるため、法人である株主の社員等を取締役として送り込む規定です。
具体的には、外部から資金調達をした会社は取締役会を設置することが多くなりますが、取締役会での決議に際して、経営陣のみの判断でなく、株主の目線を反映できる仕組みとなります。種類株式の内容として、取締役選任権を定めることと比較すると、SHAに定める場合は取締役を選任しなくてもよいという運営が可能であり、柔軟な運営が選択できます。

SHAで取締役指名権を設定する場合、「どの株主」に対して、「何名の取締役の指名権」を認めるか、慎重な検討が必要です。複数の株主がいる場合、持株比率に応じて優先的に権利が付与されることが多く見られますが、同時期に出資した株主については複数の株主が共同して取締役指名権を有するという設計もあります。

株主の意向を持つ取締役が派遣されることで、株主の持つ経営ノウハウを獲得できるメリット、一方で参加しているだけという取締役の場合は安易に権利を与える必要は無いため、十分な検討のうえ、決定することが肝要です。

また、経営判断をモニタリングするという目的で取締役指名権ではなく、取締役会に陪席できるオブザーバー指名権を設定する運営も採り得ます。決議には参加できないものの、必要性に応じて選択可能です。

  • (3)

    ストックオプション(SO)プール

SOの発行は、既存株主の持ち分を希薄化させるため、SHAで厳格に規定されます。
株式、新株予約権の発行に関しては、「事前承認事項」とされることも多くみられます。ただし、発行会社の役員、使用人に対してSOとして発行する新株予約権は、「発行済株式総数の○%以内であれば投資家の承諾不要」といった発行可能枠(SOプール)をSHAで規定することが一般的です。

SOプールの範囲を超えるSOの発行には投資家の同意が必要となり、場合によっては種類株式の希薄化防止条項の内容にも影響を及ぼすこともあるため、慎重な対応が必要です。

また、SOプールのほか、発行するSOの内容に制限を設ける定めがある場合もありますので、SHAの規定に合致したSOが発行できるよう、ご留意ください。

  • (4)

    優先引受権

新株式が発行されるイベントに関連して「優先引受権」が規定されることがあります。具体的には、スタートアップが新たに株式を発行する場合に、株主の持株比率を維持するために必要な株式数を優先的に引き受ける権利です。(1)で述べた事前承認の権利や単独で1/3超の議決権を有しない株主は、自らの意図と反していても持株比率が低下する可能性を免れません。

このような状況にそなえて、株式が新規発行される場合に株主へ通知し、当該株主が希望する場合は、持株比率を維持できるよう新規発行される株式を引き受ける権利が「新株引受権」です。
なお、SOプールで規定された範囲内のSO発行であれば、優先引受権の発行対象外とすることが一般的です。

  • (5)

    みなし清算

M&Aによる会社売却を「会社が解散・清算した」とみなして、売却代金を株主間でどう分けるかを決める規定です。
種類株式に残余財産分配権が規定されている場合、残余財産分配の内容を準用する構成とする規定も見受けられます。

例として、分配方法として一般的な「1倍・参加型」をご説明します。
種類株主が「投資した金額と同じ額」を最優先で回収します。これが「1倍」と呼ばれています。
投資家が元本(「1倍」に相当する部分)を回収した後、残りの売却代金を全株主で、各株主の持ち分比率に応じて分配します。これは「参加型」と呼ばれる部分です。

売却価格が低い場合は、普通株式を有する経営者や創業者のリターンが限られるリスクがあります。交渉時には分配バランスの慎重な検討が必要です。

みなし清算の効果として、株式の種類によって、期待できるリターンに差が生じます。種類株式を持つ株主が多くリターンを受領し、普通株式を持つ株主のリターンは相対的に低くなる可能性が高くなります。
この期待リターンに応じて、株式の種類ごとに株価にも差が生じるという考え方を取ることもでき、SOを発行する際に合理的な範囲で、種類株式の株価よりも低い権利行使価額を設定できる根拠となることがあります。

また、M&Aに関連して、全株式の譲渡によるM&Aの際に効果を発揮する「同時売却請求権」(ドラッグ・アロング)もあります。たとえば、あるスタートアップを買収しようと考える企業があり、大半の株主は賛同しているものの、一部の株主が拒否した場合、原則は当該株主への株式譲渡を強制することはできず、100%の株式を取得したい意向が企業にあった場合にはM&Aが成立しない可能性があります。ただし、特別支配株主による株式売渡請求等、会社法上の例外もあります。
こういった場合にそなえ、SHAにおいて一定の条件を満たした場合には全株主が全株式を売却するという規定を設けることができます。これが「同時売却請求権」です。一定の条件として、「株主の過半数および創業者の承諾」といった複数の関係者の意思を反映する設計となるものが大半です。

3.そのほか留意点「少数株主のマネジメント」

持株比率の低い個人投資家やIPO前にSOを行使した従業員等の少数株主についても、株主間契約を締結する、または、株主間契約の一部を適用するといった運営の検討が必要です。
ただし、投資背景の異なる全株主との株主間契約締結は、情報開示の観点からそのすべてを適用する必要性が乏しいことから、2.(5)みなし清算の適用等、特に重要な事項を盛り込んだ契約(例:財産分配契約、株主分配等の合意書)を締結することが考えられます。
契約条項の抜粋例として、2点あります。

  • みなし清算の適用

  • 同時売却請求権への同意

4.まとめ

株主間契約は、会社法上の手続きを実質的に補完し、株主総会議案の事前承諾・通知、Exit時の利益分配、SOの設計を左右する極めて重要な契約です。
多様な論点を確認したうえで、必要な通知を実施することとなりますが、弊社のMUFG FUNDOORによる株主あての連絡効率化もご提案可能です。
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