コラムVol.154 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 令和の新常識:どこに住むかで人生が決まる?

2022年11月11日
コラム執筆者の写真
森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

令和の新常識:どこに住むかで人生が決まる?

筆者は群馬県の出身なのですが、2022年に入って4人もの方から、県内の市町村に移住するという話を聞かされました。1人はUターン、残りの3人は首都圏からのIターンです。

正直、驚きました。故郷をディスるわけではありませんが、ブランド総合研究所が毎年発表している「都道府県『幸福度』ランキング」で近隣の県と壮絶な最下位争いを繰り広げていたのは記憶に新しいところです(2022年は47都道府県中24位に急上昇)。

ところが、そんな筆者の思いとは裏腹に、4人が4人、口を揃えてこう言うのです。東京からアクセスがいいのに土地が広くて安い。生活インフラも整備されている。自然が豊かで、地元の人は義理人情に厚い。食べ物もおいしい……。

中でも高評価だったのが、「災害が少ない」ことです。何かエビデンスがあるのかと調べてみたら、地元紙の上毛新聞にこんな記事が掲載されていました。

気象庁の「地震データベース」を元に県が独自に作成した1919年1月から2022年3月末までの震度4以上の地震の発生回数は、近隣都県の中で突出して低い73回(東京都573回、千葉県229回、埼玉県161回、神奈川県118回)だった、と。

別の記事によれば、国土交通省の「水害統計調査」でも2020年までの10年間の被害額は約559億円に止まり、これは関東の他の6都県のほぼ半分以下だと言います。

こうした低災害リスクを背景に、個人だけでなく、企業による群馬県への本社移転や進出も増えているようです。例えば、日本ミシュランタイヤは2023年夏に本社機能を研究開発拠点のある太田市へと移します。2022年8月には、NTTが本社機能の一部を高崎市に移転すると報じられました。

コロナ禍を機に表面化した個人や企業の「脱・都会」の動きが、ここに来て加速しているように見受けられます。2022年8月の都心5区のオフィスビルの空室率は6.49%の高水準。大規模物件の完成が相次ぐ2023年を前に、不動産業界は戦々恐々としています。

一方、個人住宅にはインフレの波が押し寄せています。国土交通省が9月に発表した住宅地の基準地価は31年ぶりの上昇。日本不動産研究所の「住宅マーケットインデックス2022年上期」によると、1u当たりのマンション賃料は新築・既存の標準(40u以上80u未満)・大型(80u以上)物件で調査開始以来の最高値を記録しました。首都圏の新築分譲マンションの平均価格も6000万円台で高止まりしていて、住宅ローン金利の上昇が懸念される中では手を出しづらい状態です。かくして、かつてはセカンドライフの舞台を求めるシニア層が中心だった地方移住マーケットに、住宅の一次取得者層である30〜40代が流入しているのです。

昭和や平成の時代は「どの会社に入るかで人生が決まる」と言われましたが、令和の今はむしろ、「どこに住むかで人生が決まる」ように思えます。就職支援のマイナビが2021年末、就活生を対象に行ったアンケートで「ファーストキャリアで定年まで働きたい」と答えた人は3割に過ぎませんでした。一方で、かつてはほぼ横並びだった自治体のサービスやサポートには明らかに差が生じています。好きな自治体を選んで税金の一部を寄付に回せる「ふるさと納税」の制度が、そうした差別化を後押ししているように見えます。

コロナ禍の巣ごもり需要の高まりを受け、2021年度に地方自治体が受けた寄付金の総額は過去最高の8302億円に達しました。先の群馬県の2022年度一般会計予算に相当する金額です。寄付金の使途は寄付者によって指定されますが、自治体によっては従来の予算を大きく上回る“活動資金”を手にすることになります。

例えば、北海道上士幌町は寄付金を原資に国内で初めて認定こども園(保育園)を無料化し、さらに子供が高校を卒業するまでの医療費も全額負担、中学生以下の子供1人につき住宅の新築補助金を100万円支給といった積極的な子育て支援策を次々と打ち出しています。子育て中の方なら、「こんな自治体に暮らしたい」と考えるのではないでしょうか。

勤務先でリモートワークが定着し出社は月1〜2回程度、さらには遠隔地への居住が許容されているのであれば、自分や家族が利用しやすい補助金やサービスが充実した自治体に住まいを移すというのも、ライフプランを考えれば悪くない選択です。それに伴う住居費、生活費、子育て費用など細々としたコストの変化を積み重ねていくと、人によっては20〜30年間で数千万円の余裕資金を創出できる可能性があります。その一部をiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)で運用すれば、老後資金も補強できます。

自然やインフラ、地縁、子育てなどの環境、さらには前述した災害の少なさなど移住先選びのポイントは幾つかありますが、移住経験者の話を聞くと、最も注意すべきは医療だそうです。地方では小児科や産婦人科の医師が慢性的に不足していて、定期妊婦健診に車で1時間以上かかる隣の自治体まで通っていたという人もいました。半面、教育や文化は“リアルな場”にこだわらなければオンラインなどで都市部と変わらないコンテンツを享受できます。懸念されていた地域に溶け込めない問題も、「移住者の多いエリアでは移住者のコミュニティが形成されていて、新参者が環境に適応するためのサポートがあり、地域住民との交流も比較的スムーズ」と聞きます。

最近は自治体の移住者支援策も手厚くなり、住居支援に加えて引っ越し費用を負担するとか、地元企業に就職したら世帯に100万円を支給するといった補助金の大盤振る舞いも散見されます。今こそ、「どこに住むか」を真剣に検討する好機なのかもしれません。

ご留意事項

  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。