攻めのガバナンスをリードしていくことで、
日本の稼ぐチカラを取り戻す。
「稼ぐチカラの低下が、さまざまな問題を引き起こす」
2015年のコーポレートガバナンスコード(CGコード)が導入される前は、ガバナンスの意味を「企業統治」のように、守り的な意味合いが非常に強かったと思うのですが、今、CGコードでいわれてることは、稼ぐ力、成長戦略の一つとしてガバナンス体制を構築する、それを投資家が求めているということです。
2021年に公表された改訂CGコードでは、企業には社外取締役のダイバーシティ、スキルマトリクスの開示等がより求められてきています。多様かつ独立したメンバーで取締役会が構成されること、議論を活性化していくことは、様々な角度からの意見を踏まえてリスクテイクを図り、果敢に、そして迅速な意思決定に繋がるものと考えています。
守りと攻めは、連動していると、僕は思っているのですが、やっぱり稼ぐチカラが弱くなると、例えば会計上で数字を誤魔化すような方向に走ってしまう部分があるのではないでしょうか。だから、稼ぐ力を取り戻さないといけないというところが出発点なのかなと思ってます。
その稼ぐチカラを取り戻すために、海外投資家のマネーを取り込むことや、スチュワードシップ・コードで、株主と企業の対話を促し、エクイティガバナンスを高めていきました。
株式市場を活性化させるということですね。
日本は、まだ個人の貯蓄率がものすごく高いこともあって、株価を上げるには海外機関投資家の資金が入ってこないと難しいんですよ。残念なことですが、稼ぐ力は持ってるのに、投資家にアピールできない、エンゲージメントできないことで、結果、海外の赤字企業に将来性や成長性の観点から、時価総額で負けてしまうことが多くあります。やはり、海外マネーをどう日本に持ってくるのかで言えば、グローバル基準にガバナンスを引き上げるというところが、まず一つあるのかなと思います。
監査役制度は日本独自の良い制度であるとは思いますが、海外の投資家にはなかなか理解してもらえないということを耳にします。また、業務執行者中心の取締役会は、良い悪いの評価は別として、欧米のガバナンスの仕組みとは大きく異なっているように思います。
やはり米国と比較したときに、米国の取締役と呼ばれるポジションは業務執行ではなく、本当の意味での監督役としての役割で、ほぼ社外取締役で構成されていますからね。
ただ、日本でも、CGコードの制定以降、ほとんどの会社が社外取締役を選任するようになってきており、まだ時間はかなりかかるかもしれませんが、外形上は欧米の取締役会の姿に近づいていくのではないかという実感はあります。
そうですね。ただ、会社から独立したメンバーで、かつ多様な方をそろえるのは、人財が限られている中では難しいところもありますね。
これまでもそうかもしれませんが、今後はより一層、社外取締役には法令遵守についてチェックするだけの役割ではなく、例えばM&Aをしますとか、新たな事業投資をおこないます、というときに存在感を発揮するよう求められてくるのではないかと。
もともと社外取締役は、2人は必要と言われていて、それが3分の1になり、今後は過半数が求められてきます。形式や人数合わせではなく、本当の意味で、社外のメンバーを入れて、議論を活性化させ、意思決定も果敢にやっていく、投資をしていくことが必要だと思います。ちなみに三菱UFJ信託銀行は、機関投資家として国内でもいち早く、議決権行使基準で社外取締役を3分の1以上求めた会社です。
「速攻で、ガバナンスコンサルティングチームを立ち上げる」
2015年当時、CGコードの施行と会社法の改正という2つのトピックスがあって、ガバナンスの機運が非常に盛り上がっていました。その中で、当社として、ガバナンス関連の商品を強化していこうという話になったのが、ガバナンスコンサルティングサービスのはじまりです。証券代行業務はガバナンスと密接に関連している部分もあったので、社内でも非常にスピーディーに立ち上がりました。
そうですね。もともと株式実務や株主総会関連のサポートをおこなうために会社法務コンサルティング室があり、そこでは、証券代行の取引先に会社法や内部統制、ガバナンス等の情報提供をしていました。その後、CGコードという新しい制度が生まれ、企業側からガバナンスに関してわからないことも多いので、アドバイスしてほしいというニーズが出てきたのが、ガバナンスコンサルティングチームの立ち上げの経緯です。
それは、お客さまのニーズであったと同時に、これはある意味、社会課題を解決していくための大きな制度改革でもあったわけで、信託銀行としても優先的に取り組むべきだというジャッジがありました。
今思えば、まさにガバナンスコンサルティングのチームの立ち上げが転機ですね。日本の稼ぐチカラを取り戻すためのガバナンス改革、まさに社会課題を解決していくためのアクションでしたね。
当時、僕は転職してきたタイミングだったのですが、面接のときには、まだ部署ができあがっていなくて、配属になったら、法人コンサルティング部ができあがっていました。
あれは、早かったですね。(笑)
一般的に銀行って、新しいことをスタートするのに、すごく時間がかかるイメージがありますけど、信託銀行のビジネスモデル自体、常にお客さまのニーズ、世の中のニーズに対しては非常に敏感である必要があるので、ニーズに応えてアクションを起こすのは早いです。
いわゆる株主との対話とか、ガバナンスの構築の仕方といったものを、誰がサポートするのかを考えると、証券会社は株の売買や資本政策、監査法人はあくまでも会計や監査が中心です。
その中で証券代行は特異なサービスで、株主と企業の間に入って事務サービスを提供する、株主総会では企業の黒子として株主との対話をサポートする役割を昔から担っていました。エクイティガバナンスが進む中で、株主とどのように対話すればよいのか、投資家やマーケットが求めるガバナンス体制を作るにはどうすれば良いか等の課題に対して、代行機関である我々がやらなければいけないという責任感も大きかったと思います。
「会社が変わる。社会が変わる。未来が変わる。」
三菱UFJ信託銀行は、上場企業のうち、42%ぐらいのお客さまからお取引をいただいていて、その中の、時価総額のトップテンのうちの8社ぐらい、トップ20社のうち16社ぐらいは、実は我々のお客さまなんです。つまり、ガバナンスひとつとっても、我々のお客さまが変われば、8割の会社が変わる。そこにチャンスがあると思うんですよ。
確かに社会全体に対する影響力が大きいです。
それでも、今は海外の投資家からすると、ガバナンス上では、まだまだ日本は後進国とみられているので、改善の余地がありますよね。
そこで、飯澤さんのようなコンサルタントの出番が必要となるわけですね。ちなみに今は、どんな相談が多いですか。
最初は、CGコードができて、これは別に法律ではないのですが、これに対応するには、どうしたらいいか、という話が入り口になることが多いですね。例えば、取締役会の実効性評価のほか、機関設計の変更、任意の指名・報酬諮問委員会の設置等。その他、「役員トレーニング」とか。最近は、取締役会の機能向上そのものに関する相談、つまりアジェンダセッティングをどうしたらよいかとか、取締役会でどうやって社外役員の意見を引き出せばいいかなど、取締役会の機能や運営面の高度化についての相談が増えてきているように感じています。やはり、各社とも社外取締役をどう活用していくか悩まれているのだなと感じます。
やはりCGコードがひとつのキッカケになって、そこから発展してきているのは、間違いないですね。
お客さまのニーズが多様化・高度化しており、既存のサービスをベースにしながらも各コンサルタントのノウハウや知見等を組み合わせながらオーダーメイドで対応することが多くなっています。また、「取締役会の実効性評価」もアンケート型だけでなく、最近はインタビュー型にもかなり対応するようになっています。その他、面白い取り組みとして、ガバナンスで一歩先を行っている海外の知見やノウハウ等を取り込めないかということで海外の会社との連携も模索しています。我々のグループは、新卒で当社に入社した者のほか、弁護士、公認会計士、コンサルティング会社、証券会社、事業会社出身の方等、多様性のある優秀なメンバーが揃っているので、お客さまのニーズに合わせた対応が可能になっているのだと思います。
我々の証券代行関連の業務でいえば、ガバナンスコンサルティング以外にも、毎年、新しいニーズが生まれて、それに対して商品開発、サービス提供もどんどん進めている状況です。2021年度でいうと、いよいよバーチャル総会の時代になります。コロナの影響もあって、これまでは、株主との対話でもリアル前提で株主総会を開催してきましたが、それをオンラインに移行して、ウェブ上で対応できないかというニーズが一気に増えました。
こうやって改めて振り返ってみると、お客さまのニーズにひとつひとつ応えていくことで、新しい商品やサービスが生まれ、その先にある大きな社会問題の解決につながっているのが見えてきます。
攻めのガバナンスを日本の企業にしっかりと根付かせることで、グローバル企業として投資家から正当に評価されるとともに、「日本の稼ぐチカラ」を取り戻していきたいですね。