聴覚や視覚に障がいを持つ個人株主も
情報格差のない株主総会を実現
最新AIを活用した「株主総会アクセシビリティ向上サービス」

私は1986年の入社で、銀行業務に携わった後、資金為替のディーリング部隊に移り、2009年の株券電子化の際に証券代行部門に異動しました。以降15年、証券代行業務に携わっています。

私は2022年にキャリア採用で入社しました。前職はNHKで10年間、番組制作のディレクターをしていました。そこで培ったいろいろな映像を視聴者にお届けする知見を、信託銀行で、たとえば株主総会の配信事業などで活かせたらと考え、転職してきました。法人マーケット統括部で外部事業者との業務提携を担当し、企業さまから個人株主さまに向けた新しいサービスを作っています。

証券代行について簡単にご説明すると、東京証券取引所の規定で上場企業は自社に代わって株式事務を担う「株主名簿管理人」を置く決まりになっていて、当社はその株主名簿管理人の立場です。上場した後は個人投資家や機関投資家など、さまざまな方に株主になっていただくことになるので、企業さまとIR(投資家向け広報)やSR(株主対応)を一緒に行い、株主さまとの関係構築に努めています。全体としては、企業さまと伴走しながら株主対策を担う「株主戦略パートナー」といった位置付けですね。

そうした証券代行業務の中でも、年に1度開催される株主総会は、失敗が許されない最重要イベントです。

基本的に決算月から3か月以内に開催する必要があり、3月期決算企業だと6月中旬以降の開催が多いですね。例年1〜2月からスケジュールの相談を始め、4月には株主に送る招集通知などを作って各種発送物の準備をし、5月末くらいに郵送しています。6月に入ると総会を運営する議長の方にレクチャーをしたり、総会全体のリハーサルや株主とのコミュニケーションのサポートをしております。

コロナ禍を経て株主総会は大きく変わっています。映像配信によるバーチャルな総会を開催できる環境が、法律も含めて整備されました。当社も株主さま向けに提供しているオンラインサイト「エンゲージメントポータル」を通して、動画配信で株主総会を開催できるようになっています。遠方にお住まいで株主総会に参加できないという株主さまもいらしたので、これによって総会参加のハードルが格段に下がりました。近年はこうした株主さまとのコミュニケーション施策のデジタル化が急速に進んでいますね。

一方で、コロナ後はリアルな株主総会に回帰する動きもあります。コロナを機にDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めた企業さまはそちらに大きく舵を切っていますが、「やはり我々は株主と直接対話をしたい」と考える企業さまもいます。対話の手段としてはリアル、バーチャル、あるいは両方のミックス、いろいろありますが、そこは企業さまのお考え次第ですね。
株主総会は「株主全員が等しく参加できる場」であるべき


こうしたデジタル化による利便性向上の中で取り残されていたのが、聴覚や視覚などに障がいをお持ちの株主さまです。株主総会は株主全員が等しく参加できる場でなくてはなりませんから、株主総会に手話通訳を用意される企業さまもありますが、実は、手話ができる聴覚障がい者の方はそう多くないんです。一方で、視覚障がい者の方は株主総会の招集通知が送られてきても読むことができません。本来なら内容をしっかり読み込んだうえで議決権行使という大変重要なプロセスがあるわけですが、読めないからそこまで進めない。点字がついている招集通知はないですし、仮にあったとしても点字がわかる視覚障がい者の方もそれほど多くありません。
私たちが今回、聴覚障がいや視覚障がいの株主さまに向けた株主総会のアクセシビリティ向上の取り組みを行った背景には、こうした課題がありました。

企業にとっては、2024年4月の改正障害者差別解消法の施行により「事業執行上の障がい者に対する合理的配慮」が義務化されたことが大きかったですね。私の場合はお客さまから「障がいをお持ちの株主さまが株主総会にご来場くださった際に何もできないというわけにはいかない。かといって大きな予算も割けないので、妥当なコストで導入できるいいサービスはありませんか?」と相談され、原田さんが担当しているメジャメンツさんのリアルタイム字幕提供サービスを紹介したところ、「この金額でこのレベルのサービスが提供できるなら」と採用につながったんです。

当社のエンゲージメントポータルを通して株主総会の配信をご覧になる際に、音声認識AI(人工知能)によって議論の音声を全てリアルタイムで書き起こしていくサービスです。これを使っていただければ、聴覚障がいの株主さまも他の株主さまと同一時点で、同一内容を知ることができます。こうしたサービスが難しいのは、全ての音声が必ずしもクリアではなく、さらに固有名詞や専門用語が多いとAIがそこまでフォローできない場合があることです。そこで、このサービスではAIが誤変換を起こした瞬間に、間違いを人の手で修正してお届けしています。熟練のスタッフさんがタイピングする技術力はAIをも凌駕するものです。人の手とAIを組み合わせて、より安価に正確な情報を届けられるようなサービス内容になっています。

障害者差別解消法の改正で企業さまが何か対応策を探してみようという時に、原田さんの部署でそうしたサービス紹介をあらかじめ準備できていたのは良かったと思いますね。

メジャメンツさんは当社のオープンイノベーションプログラムから出てきた会社ですが、株主総会に字幕サービスを使うという発想を提案いただき、こういうサービスは収益に関係なくインフラとしてやらなければいけないという強い想いで開発を支援してきました。
メジャメンツさんは、障がい者の就労支援を行うサニーバンクというサービスを提供していることもあり、障がい者の方々の実態や本音にも大変詳しいです。私は障がい者に対して社会的弱者のようなイメージを抱いていましたが、実際は普通に就業している方もいますし、私たちが想像する配慮が正しいとも限らない。そうしたメジャメンツさんの知見には大いに助けられました。

私自身もこの証券代行事業に来てから5年ほどIPO(新規公開株)チームで過ごし、ベンチャー企業の大変さを理解しているつもりなので、メジャメンツさんに対しては「こういう志のある会社が伸びてほしい」と内心で想い、お客さまに紹介していた面もありました。

平山さんたち営業の方が、担当する企業さまにご紹介してくれたおかげで、2024年には3社でリアルタイム字幕提供サービスを採用していただきました。ただ、たまたま3社とも同じ総会日だったんですよ。

そうそう、株主総会の集中日でもないのに、なぜか3社とも同じ日だった。メジャメンツさんは不安だったと思いますが、そこはしっかり発破をかけて(笑)。
後で文字データをいただいて読んでみましたが、違和感はありませんでした。お客さまに納品したら、「ありがとうございます。これが議事録になりました」と感謝されました。

リアルタイム字幕提供サービスについては、まだまだ改善すべき箇所があるので、
より多くの株主さまに使っていただけるようにバージョンアップしています。
リアルな株主総会のアクセシビリティも向上させていきたい


メジャメンツさんでは視覚障がいの株主さまに向けたサービスも用意しています。企業さまが自社サイトに招集通知をHTMLデータの形で掲載し、そこにアクセスすれば内容を音声AIが読み上げて正しく内容を理解できるというものです。
こうした障がいのある株主さまへの対応は非常に重要だと考えており、今後はリアルな株主総会の場でのアクセシビリティを向上させるようなサービスもニーズに応じて各社にご紹介していきたいと思っています。たとえば、補聴器を付けた株主さまがご来場された場合に周囲の音を拾いやすくするサービスですとか、紹介サービスのバリエーションを増やしていきたいですね。

証券代行は株式市場のインフラを支える仕事ですから、最優先事項は何があろうと事業を止めないことだと思っております。その意味で今の大きな課題は、数年後には会社法が改正され、バーチャルオンリーの株主総会が普通に開催できるようになる可能性があることです。となると、株主名簿管理人として、しっかりとしたインフラ投資をできればと思っています。

私が最近考えているのは、NISA(少額投資非課税制度)の拡充で個人株主さまが急速に増えてきている中で、株主さまから「この会社を応援したい!」と思われるような企業さまの情緒的価値を伸ばしていくサービスを提供することです。それが安定株主の確保につながり、企業さまが本業に集中できるような基盤を作るお手伝いができたらいいなと思います。
応援したくなるような会社を増やしていくことは社会のためにもなります。私が新しい商品やサービスの開発を続けることが、企業さまの価値の向上、ひいては日本経済の発展につながっていったらうれしいですね。

なんだか、スケールの大きな話になってきた(笑)。
私もこれまで証券代行業務では株式の発行体である企業さまの代理人として、委託されたことを正確かつ迅速にやり遂げることを重視してきましたが、やはりこれだけ個人株主さまが増えてくると、個人株主さまとの向き合い方も考えていく必要があります。発行体の企業さまが株主さまと向き合う機会はあまりないのですが、株主名簿を持つ当社なら株主さまに何かしらのアプローチができます。
将来的には株主戦略パートナーとして、あらゆる株主さまへのサービスを拡充していければと思います。