米国の退職給付会計基準
1.米国の退職給付会計基準の概要
米国の退職給付会計基準は、米国財務会計基準審議会(FASB)により編纂されたASC715号(Compensation-Retirement Benefits)に規定されている。ASC715号は、それまでの財務会計基準書(FAS)87号、88号、132号、158号をまとめたものである。
企業会計基準の国際的なコンバージェンスが進み、退職給付会計においても米国基準と国内基準、および国際基準(IAS19号)間の違いはほとんど解消されている。残されている違いの一つとして数理計算上の差異の処理方法がある。数理計算上の差異はその他の包括利益で一時に全額処理されたのち、いわゆるリサイクリングがされ損益計算書上一定年数にわたって遅延認識されるが、米国基準では数理計算上の差異の累積額がPBOまたは年金資産いずれか大きい方の10%以内であれば費用処理不要(コリドールールと呼ばれる)となっている。国内基準では当該ルールはなく費用処理は必ず行う必要がある。国際基準ではその他の包括利益で一時に全額処理されたのち、リサイクリングは行われず損益計算書に反映されることはない。
<バランスシートの計上方法>
基本的に国内の連結基準と同様であり、PBOと年金資産の差額が全額計上される。
<費用処理方法>
基本的に国内の連結基準と同様であるが、上述のとおり数理計算上の差異については、コリドールールに基づき費用処理の要否を判定のうえ、一定年数による遅延認識で費用処理される。
(*)コリドー部分(=PBOまたは年金資産のいずれか大きいほうの10%)は費用処理の対象外とすることが可能
2.日米基準の比較
日本の退職給付会計基準と比較すると、コリドールールの有無の他、年金資産の評価(費用算出時)と開示が異なっている。
米国基準(ASC715) | 日本基準 (退職給付会計基準) |
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基本的な考え方 | 退職給付に関する制度について、統一の基準で給付債務を評価し、発生主義で費用処理を行う | 同左 | |
債務の評価 | 予測給付債務(PBO)を使用 | 退職給付債務 考え方はPBOと同様 |
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年金資金の評価 | 公正価値(時価)を使用 | 公正価値のみ | |
未認識債務の種類 | 数理計算上の差異、過去勤務費用 会計基準変更時差異 |
同左 | |
費用処理方法 | 費用の算出 | 勤務費用+利息費用-期待運用収益+未認識債務の処理費用 | 同左 |
未認識債務の 費用処理 (遅延認識) |
一定年数にて費用処理 (遅延認識有り) |
同左 | |
数理計算上の差異 の処理の対象 (コリドールール) |
コリドールール有 (PBOまたは年金資産のいずれか大きい方の10%以内であれば費用処理不要) |
コリドールール無 (数理計算上の差異は全て費用処理の対象) |
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貸借対照表への 負債の計上 |
PBOと年金資産の差額が積立不足の場合は負債、積立超過の場合は資産に全額計上 | 連結決算は同左 単独決算は退職給付債務から年金資産 及び未認識項目を控除して負債を計上 |
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損益計算書への 費用計上 |
勤務費用は営業費用、その他の費用(利息費用、期待運用収益、数理計算上の差異及び過去勤務費用)は営業外費用に分割計上 | 退職給付費用は要素毎の分割計上は行わない | |
開示 | 債務・資産、費用、基礎率に加え、資産構成、将来の給付額見込み等、詳細な開示が必要 | 債務・資産(期首〜期末残高調整表含む)、 費用、基礎率、資産構成 等 |
3.最近の改正
2017年のASU(Accounting Standards Update)2017-07において退職給付費用を分割計上する改正が行われ、2017年12月15日以降に開始される事業年度から適用されている。
具体的には、費用要素を勤務費用とその他(利息費用、期待運用収益、数理計算上の差異、過去勤務費用)に分け、勤務費用は通常の給与等の人件費と同様に営業費用に計上し、その他は営業外費用に計上することになった。