コラムVol.177 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 無償化は福音か?「教育費」のことを本気で考えてみた

2024年4月10日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

子育て終了世代がうらやむ異次元の少子化対策

岸田政権の「異次元の少子化対策」がいよいよ稼働します。2024年10月分から児童手当が高校卒業時まで支給されるようになり、親の所得制限も撤廃されます。2025年度からは子供の数が3人以上の家庭を対象に大学授業料の無償化も始まります。

ひと足早く、東京都では2024年4月から私立も含めた高校の授業料が実質無償化されました。私立の授業料無償化に700万円程度の年収の壁があるお隣の神奈川県や埼玉県の親世代からは、「子育てしていると年収1000万円だってそれほど余裕があるわけじゃない。東京だけズルイ」という怨嗟の声も聞こえてきます。

筆者の周りにはすでに子育てを終えた人たちが多く、皆が「学費だけでなく行政や企業の子育て支援策が充実している令和のパパ、ママはいいよね」と口を揃えます。こうした支援の力で、かつては「幼稚園からオール私立で約2300万円」などと言われていた子育て資金もだいぶ圧縮されるのではないかとうらやましがっているわけです。

「子供って、こんなにお金がかかるんだ」

でも、都内で子育て真っ最中のフリーランスの30代女性に聞くと、それほど余裕はないようです。「子供は幼稚園児なので、高校の授業料なんてまだ先の話。むしろ今は『子供って、こんなにお金がかかるんだ』と驚いている」と言います。

何にお金がかかるのか尋ねると、「幼児教育」という答えが返ってきました。女性の子供は地元密着型の私立幼稚園に通っていますが、並行して未就学児を対象とした幼児教室にも行かせていて、そこの月謝が2万円以上するのだとか。

言われてみれば、筆者の住む都内の私鉄沿線でも海外のメソッドに基づいた幼児教室の看板をよく見かけるようになりました。土日コースや春休み集中コースなど受験対策の予備校よろしく多彩なコースが用意されていて、「脳は3歳までに80%完成」「IQを伸ばす知能育成」といった惹句は親心をいたく刺激します。

自身も小学生のお子さんを持つあるお金の専門家は、「授業料や給食費などのベーシックな教育費の支援は確かに手厚くなったが、一方で、近年は幼児教育や塾、教材、知育玩具、習い事などの選択肢が増えていて、そちらにお金をかけやすい状況」と分析します。

大学生の2人に1人は奨学金利用の現実

一方で、この専門家は目先の“教育投資”に頭を悩ませるより、高等教育を見据えて長期的な教育資金の形成を考えるべきと指摘します。

「2020年度には昼間部に通う大学生の奨学金利用率が49.6%に上っており(独立行政法人日本学生支援機構「令和2年度学生生活調査」)、借金を背負って社会人のスタートを切る人がこれだけ多いという現実に目を向けないといけない」

奨学金の返済難や親の経済力による教育格差は社会問題となっており、近年は足立区や世田谷区などで経済的に厳しい家庭の大学生に向けた給付型奨学金の創設が相次いでいます。行政の支援は確実に広がっていますが、高等教育が義務教育のように完全無償化されるのは難しいでしょう。やはり、親やその親が子供の負担を極力減らしてあげる必要があります。

では、どのように準備していったらいいのでしょうか?

新NISAも教育資金作りの一つの選択肢

「学資保険」は一時、返戻率(受け取った学資金の総額÷払い込み保険料の総額×100%)が150%を超えていた時代もありましたが、長引く低金利の影響で今や100%割れが当たり前になっています。しかも、変化の多い今、大きなお金を解約が難しい保険商品に預けるのは得策とは言えません。

むしろ今なら、新NISA(少額投資非課税制度)が一つの選択肢になりそうです。子供の大学入学時を目標に、ランニングコスト(信託報酬)の安いインデックスファンドなどで積み立て投資をするのも一つの方法です。ただ、インデックスファンドは値動きのある金融商品です。世界の経済成長に合わせて長期的には値上がりしていくとしても、短期的には大きなアップダウンがあるかもしれません。

こうした価格変動リスクを考慮すると、新NISAは多くても教育資金全体の5割程度にとどめ、残りは確定利付き商品で積み立てていくのが現実的と言えそうです。

会社員の親であれば、有利な会社の積み立てを使わない手はありません。一つは「社内預金」、もう一つが「財形貯蓄」です(会社によっては扱っていないこともあります)。いずれも給与天引きで確実に貯められ、しかも、金利もメガバンクの普通預金よりは高めに設定されています。

裕福な祖父母世代に援助してもらう手も

裕福な祖父母世代に孫の教育費を援助してもらうという手もあります。たとえば、大学進学の際に祖父母に入学金や授業料を払ってもらったとしても、贈与税はかかりません。とはいえ、どうせなら早めに頂戴しておく方が安心ですよね。そこでお勧めしたいのが、贈与税の非課税枠(基礎控除110万円)を利用し、祖父母から孫へと教育資金を贈与してもらう方法(暦年贈与)です。

暦年贈与に関しては、贈与者が亡くなり相続が発生した時に、その直前の一定期間に贈与された分が相続税の計算にプラスされる「持ち戻し」という規定があります。2024年1月以降はその持ち戻しの期間が、それまでの3年から段階的に7年に延長されていきます。

贈与される人にとっては不利な改正ですが、そもそも持ち戻しの適用を受けるのは相続人だけ。相続人でない孫が受け取った分は持ち戻しの対象になりません。

受験勉強も教育資金作りも「継続は力なり」

おぎゃあと産声を上げてから、高校を卒業するまで18年。親としては「18年もあるわけだから」と悠長に構えがちですが、実際に子育てを終えた人に聞くと「気が付けば大学受験で、教育費の目標額まで到底届かなかった」という人が多いようです。

特に教育費の負担がさほど重くなく生活費の中でのやり繰りが可能な義務教育の時代は、住宅購入や家族の思い出作りなどのイベントに予算が割かれ、長期の教育資金作りは二の次になりがちです。しかし、自宅通学&私立文系でも4年間で平均690万円近くかかる大学教育費(日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査」から算出)を一気に捻出するのは容易なことではありません。

10月分から3歳未満が月額1万5000円、3〜18歳が同1万円(第3子以降は同3万円)となる児童手当を貯めておくだけでも240万円近い軍資金になります。お子さんの受験勉強同様「継続は力なり」の精神で、前述の天引き貯蓄などを利用しながらコツコツ準備していってください。

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