第7話 40代からの将来の夢(前)
「楽しみなこと、ひとつ」
第7話 40代からの将来の夢(前)
退社後、自宅の最寄り駅に着くと、図書館への道案内がきっかけで知り合いになったペルー人のピリさんが声をかけてきた。今日は駅の近くのスーパーのじゃがいもが20円よ、とのことで、友恵は、それは行かないと、と答える。やりとりはスペイン語だ。2人でスーパーに向かう道中、ピリさんは買いたいものを「じゃがいも」とか「たまご」とか単語単位で日本語にして、友恵に確認する。友恵も「パタータ」とか「ウエボ」とうなずく。
スペイン語の学習は20年続けている。大学で南米の文学を専攻しているうちに、あるアルゼンチンのサッカーチームを好きになったので始めた。日本から出ないまま学習しているけれども、ピリさんとその夫や周囲の人々との日常会話はできるし、検定も2級を持っている。
ピリさんと買い物をして別れた後は、銀行に行く。友恵は週末にスペイン語教室をやっていて、そこで使っている会議室の使用料の振り込みのためだった。自分の娘とその友達や友人の子供、そしてその友達などを集めて自宅で教えたりしているうちに生徒の人数が増えて、今は地元の産業会館の貸会議室を借りて授業をしている。もう5年目だ。スペイン語圏に旅行にすら出かけたことのない自分がそんなことをするのはおこがましくないか、と思わないでもなかったけれども、知り合いの親たちが、休みの日に子供を少しの間見てもらえる上に簡単なスペイン語まで教われるんならうれしい、というので続けている。生徒が5人以上になってからは、大学時代の友人と、ピリさんの夫の弟の娘だというマルタに手伝ってもらっている。マルタはまだ4歳だけれども、大人になったら日本でプロフェソーラ(先生)になりたい、と言っていた。
振り込みを済ませて通帳の記帳もすると、月々の積み立ての引き落としについても印字されている。今月もけっこう引き落とされてるなあ、と思いつつも安心する。
「月々の積み立て」
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