01 セコム株式会社

「あらゆる不安のない社会」
実現の鍵を握るのは
人財マネジメント
責任投資ヘッド・加藤正裕 × 取締役・栗原達司氏

三菱UFJ信託銀行は、MUFGグループのパーパス(存在意義)「世界が進むチカラになる」、
自社のサステナビリティ活動指針『「安心・豊かな社会」を創り出す信託銀行』を通じて
SDGs達成に取り組むだけでなく、機関投資家としての立場から、
国内外の企業さまのSDGsへの取り組みを考慮した責任投資を行っています。
そのリーダーであるアセットマネジメント事業部責任投資推進室の責任投資ヘッド・加藤正裕が、
話題の企業のSDGs担当者とサステナブルな社会の実現を目指して語り合う
スペシャル対談企画「サステナビリティ未来会議」。
第1回のお相手は、セコムでSDGsの旗振り役を務める同社取締役・総務人事本部長の栗原達司氏です。

三菱UFJ信託銀行 アセットマネジメント事業部
責任投資ヘッド・加藤正裕

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行含め、国内外の運用関連部署でアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2005年から責任投資に従事。国連「責任投資原則」日本ネットワーク共同議長として責任投資の普及・推進に尽力、個人および年金向け責任投資プロダクトの開発、国内外株の議決権行使・エンゲージメント実務にも携わり、近年はグローバルなESG・機関投資家の動向調査等をロンドンで担当。2019年より現職。

セコム株式会社
取締役・栗原達司

84年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。金融調節課長、新潟支店長、検査役検査室長などを歴任。2016年セコムに顧問として入社後、取締役総務本部長に就任。18年同人事本部長、20年同総務人事本部長、現在に至る。セコムラグビー部「ラガッツ」部長も兼ねる。

創業者の熱い理念
「現状打破」と「正しさの追求」を
受け継いで

加藤/国際連合主導で策定されたPRI(責任投資原則)では、投資家に対し、投資対象となる企業の分析や評価を行う上で、長期的な視点を持ち、ESG(環境・社会・企業統治)を考慮した投資を推進しています。当社は2006年にPRIが誕生した時点で署名した運用機関の1つです。以来、この分野でアジアのフロントランナーを目指し、責任投資の取り組みを強化してきました。そうした中で企業さまとお話をする際、よく聞かれるのが「投資家は企業に対し、どういう情報開示を期待しているのですか」というご質問です。これに対しては、最初に「御社が目指す社会の姿を教えてください」とお答えしています。企業さまは独自の文化や理念、強みといったものを踏まえ、目標とする社会の姿を検討していらっしゃると思うからです。そこで、本日もまずは御社が目指す社会の姿「あらゆる不安のない社会」のお話からお伺いしたいと思います。

栗原/当社の現会長が、時代の流れがESGに向かうと考え、レポートの作成に力を入れ始めたのが当社の活動の始まりです。10年ほど前のことです。ESGに先進的な企業と見られることもありますが、まだまだ足腰がついていっていない面もあります。活動自体は他社さまに先駆けるようなものではなく、当社の理念も「社業を通じ、社会に貢献する」というごく当たり前のものです。具体的には、「社会システム産業」を創出し、皆さまが安全・安心・快適・便利に暮らしていくためのシステムやサービスを構築し、世の中に浸透させていくことを目指しています。

加藤/当たり前とおっしゃいますが、当たり前のことを当たり前にやるのは実は非常に難しいことです。それを実現している御社の理念についてお教えいただきたいと思います。

栗原/当社の大きな特長が、経営理念にも通じる創業者の熱い思いです。大きく2つあり、1つが「現状打破」、そしてもう1つが「正しさの追求」です。前者は、変革に意欲をもって取り組み、独創的なサービスやシステムをつくっていくこと。後者は、セコムにとってではなく、社会にとって何が正しいのかを判断の軸とすることです。当社の中には、この2つの精神が脈々と受け継がれています。実はこの考え方自体、SDGsと根っこは同じなんですよね。

加藤/おっしゃる通りです。御社はその2つの理念を、本業を通して着実に推進していらっしゃるわけですね。

栗原/当社は警備会社であり、社業は平たく言えば防犯対策です。当社のビジネスは高度成長期、窃盗や強盗といった犯罪の増加を背景に、ご家庭の防犯対策や、学校やオフィスに昔いた用務員さんのお仕事のようなもののアウトソーシングを受けて始まりました。しかし、お客さまのニーズは時代と共に変化し、今は、コンピューターのセキュリティ対策や、離れて暮らすご高齢の親御様の見守りなどが当社のビジネスの中心になっています。昔も今も変わらないのは、当社のビジネスの核となるのが「お客さまに寄り添っていくこと」だということです。当社のサービスの基本は、ご契約をいただき、何かあったらすぐに駆け付けるというものです。それを継続的に提供していくわけですから、要は「元祖サブスク(サブスクリプション)」のようなもの。その意味で、お客さまに寄り添いサービスを提供し続けることは、当社の大きな強みではないかと自負しています。

重点領域は「お客さま視点」
「人権尊重」
「脱炭素」

加藤/御社が目指す社会の姿を実現するためには、どんなことが重要になるのでしょうか?重点領域についてもお聞かせください。

栗原/第一に、「お客さま視点のサービス」です。「変わりゆく社会に、変わらぬ安心を」いかにお届けするかを考えるに当たっては、まずはお客さまが何を不安に思っていらっしゃるかからスタートしないとなりません。また、「人権尊重と誠実な企業活動」も重要だと考えています。そのためには、社員一人ひとりに自発的に会社への帰属意識や貢献意識を持ってもらう必要があります。仕事にやりがいがなければそうした意識は芽生えてこないので、逆に会社がサポートする姿勢も重要です。加えて、「脱炭素・循環型社会」も大変重要な課題です。当社はセキュリティ対策のビジネスを行っており、グループの中に、お客さまのデータをお預かりする大きなデータセンターを持っています。そこでは膨大な電力を消費します。将来的にみても、防犯対策部門よりもデータ部門は成長余地があります。それだけに、脱炭素の課題にはきっちり向き合っていかないといけないと感じています。

加藤/脱炭素に向けて具体的な目標や取り組みについても、お聞かせください。

栗原/脱炭素関連ですと、2045年のネットゼロを目標に、2030年度までに2018年度比で45%温室効果ガスを削減すると発表しています。ただ、当社にはデータセンターがあり、それなりの温室効果ガスを排出しています。言い方が難しいのですが、例えばコストは高くついても電力会社から再生可能エネルギーを購入すれば、達成できない目標ではありません。しかし、それで「当社はネットゼロです」と言っていいのかは非常に悩ましい。表面的にはネットゼロとなり投資家の方々は許してくださるかもしれませんが、倫理的にはどうでしょう? とすれば、温室効果化ガスを排出しないビジネスへと切り替えていく必要があります。お客さまの元に駆け付ける社用車を電気自動車(EV)にするのはもちろんのこと、それを超えて、本当に駆け付けなければいけないときには全力で駆け付ける一方で、そもそも駆け付けなくてもお客さまに安全・安心をご提供できるようなビジネスを作っていかないといけないわけで、本当に課題は山積みです。

加藤/社員の健康と安全、人権を守ることは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を通して、日本に限らず世界中の投資家が改めて重要性を痛感したことでもあります。御社ではそうした重点領域を、どのようにして社員の方々に浸透させるよう取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

栗原/「人財マネジメント」は課題だらけです。労働生産人口が減少し、社会の多様化が進む中で、お客さまに誠心誠意寄り添えるような社員を安定的に確保できるかどうかは喫緊の課題です。業務上、夜勤もありますし、見たくない場面を見せられることもあります。若手の社員からすれば、厳しい仕事だよね、IT的な仕事の方がいいよね、という本音が根底にあるわけです。その中で望ましい人財を確保してサービスを提供していくためには果たして今のビジネスモデルのままでいいのかと、私たち経営陣は課題を突き付けられているような感じですね。

加藤/なるほど。私たち投資家も、いかにして人財を確保していくのかは、企業の持続的な成長力を考える上で、とても重要な視点だと考えています。

栗原/一方で、当社の人的資源が効率的に稼働しているのかどうかも検証する必要があります。防犯対策という観点では、セコムを設置していただくだけで一定の効果が生じます。警報が鳴ると威嚇効果があるため、当社の警備員が駆け付けても、そこで窃盗犯と鉢合わせすることはまずありませんが、風が吹いて窓が揺れたり、猫がセンサーを横切ったりすると警報が誤作動してしまうこともあります。警報一件ごとに警備員を現地派遣している現状をどうやって効果的に切り替えていくかは大変大きな課題です。このようなことから、お客さまに寄り添うサービスの維持・継続・発展は容易なことではないと思っています。

加藤/貴重な人的資源をどのように振り分けていくか。今のお話もとても重要な視点ですね。配分の仕方によっては、将来の企業価値が変わり得ると思います。

栗原/人財教育は徹底しています。警備業務ではまず社員自らの身の安全を確保しないといけません。そこには一種体育会的な教育と指揮命令が必要となります。パワフルな創業者が当社を立ち上げたときにはこのことが非常に大切だったわけで、この点は今日に至ってもがっちりと浸透している自負があります。反面、上司の指示を忠実にこなすことが浸透しているためか、社会の変化でお客さまも多様化し、ITという新技術も出てきた中で、時代に遅れないようしなやかな創造性や弾力性を発揮していくのは実は苦手なのかもしれません。多様化する社会の中でいかに活路を切り開いていくかは、私たち経営陣にとっても、社員にとっても、大きな課題です。

社員には
お客さまのリアルなニーズを拾う
アンテナを立ててほしい

加藤/変化の激しい社会の中で持続的な成長を続ける源泉として、御社では人財教育にも力を入れられていることを教えていただきました。社員の方々にSDGsの意識を養成するという面ではいかがでしょうか?

栗原/現場で走り回っている警備員は夜勤も多いですし、とにかく時間がないのです。そうした日々の生活の中で、SDGs活動は決して優先順位が高いとは言えません。ですから、当社のサステナビリティ推進室では、イラストを満載した、一般社員にも読みやすいブックレットを作成して配布しました。こういう状況ではありますが、社員にもしっかり勉強してもらうことが大事と考えています。

加藤/では、そうしたSDGs意識浸透の取り組みを通して御社が社員の方々に望まれるのはどんなことでしょう?

栗原/社員に望むことは1つです。セコム単体で1万6000〜7000人の社員が在籍していて、うち1万人は何らかの形でお客さまと接点を持っています。経営陣からすれば、1万人もの社員が日常的にお客さまと接しているのだから、お客さまのリアルなニーズにたくさん触れているのではないかという思いがあります。社員の多くはSDGsの理解がまだ不十分なので、そこはサステナビリティ推進室の活動などを通して浸透させる必要があります。とはいえ、大切なお客さまの情報が上がってこないのは、私たちのマネジメントが不十分なのか、あるいは体育会系気質ゆえに言われたことをやるだけでアンテナが立っていないのか……。まずは、そのアンテナをしっかり立てていくことが重要と考えています。

加藤/社会が大きく変わる中で、社会に役立つサービスがどうあるべきかを常にお考えになっているのですね。それは御社だけでなく、多くの企業さまが抱える課題かと思います。SDGsを私たち投資家の視点から言い換えると、責任投資の視点とその大切さをいかに浸透させていくかということと同じように思います。

栗原/そうですね。当社では冒頭でお話しした2つの理念の共有という観点から、数年前から全国を回って車座的な勉強会をやっています。社員一人ひとりの情熱(Passion)を呼び起こし、仲間同士で感動(Emotion)を共有し、組織全体のモチベーション(Motivation)を高めていこうということで、3つのionの「Tri-ion(トリオン)活動」と呼んでいます。当社の場合、社員の意識改革には、こうした地に足の着いた活動も重要と考えています。

「2030年ビジョン」で
SDGsへの姿勢を示せたことは
大きな一歩

加藤/変化の激しい時代ですが、企業理念や経営戦略など会社の根幹の部分を理解していれば、何が起こったとしても臨機応変に対処できる可能性が高まるのではないかと思います。今のトリオン活動のお話はまさに、どうやって企業文化を浸透させていくのかという点でとても重要だと感じました。御社は「セコムグループロードマップ2022」や「サステナビリティレポート」を発行され、幅広いステークホルダーに向けた情報発信も行っています。ステークホルダーと相互理解、信頼関係を深めていくための取り組みについても、お聞かせください。

栗原/自分たちでやるべきことをやる、それに尽きます。ただ、投資家さまなどステークホルダーの皆さまに対しては、レポートや説明会などの形できちんとご説明していかなければならないと考えています。特にお取引先さま、当社のパートナー企業さまにはいろいろな形でご協力をいただく必要があります。また、事務作業も含めたビジネスの進め方も大きく変えていかなければならないと思っています。

加藤/情報発信の難しさ。それは当社も同じです。機関投資家として企業さまにお伝えしきれていないという課題意識を感じることが多々あります。より多くの皆さまに当社の責任投資の取り組みをご認識いただくために、レポートをはじめ、各種セミナーなどの情報発信の場を通じて、当社の考え方や取り組みなどを今まで以上にご説明していきたいと考えています。最後になりますが、ご担当役員として「セコムグループ2030年ビジョン」への取り組みをどう評価されていますか? また、今後どのようにされていきたいですか?

栗原/「2030年ビジョン」とか「ロードマップ2022」を掲げられたことは、大変大きな一歩だったと評価しています。それは同時に、投資家さまとのコミュニケーションや、もっと広い意味での当社のブランドイメージにとっても大きな一歩になったと思います。しかし、担当役員として見ますと、「2030年ビジョン」は非常に概念的で、それにどうやって肉付けしていくかということが当面の大きな課題ですね。

加藤/御社は、経営理念にも通じる創業者の熱い思いの下で、社会に役立つサービスがどうあるべきかを常にお考えになられ、人財マネジメントをとても大切にされていることがよく分かりました。どのように目指す姿を実現していくかは、投資家として、ぜひとも知りたいところです。
 当社は、責任投資をはじめさまざまな手段を通じて、社会課題の解決に取り組み、当社が目指す「安心・豊かな社会」の創出に貢献していきたいと考えています。今後もお互いが目指す社会の実現に向けて、対話を重ねさせていただけたらと思います。

聞き手/執筆 森田 聡子(ライター)

2021年12月17日現在