04 帝人株式会社

グローバル企業として
新たな文化の礎を築き
持続的成長を目指す
責任投資ヘッド・加藤正裕
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取締役常務執行役員・小山俊也氏

三菱UFJ信託銀行は、自社でSDGs活動に取り組むだけでなく、機関投資家としての立場から、
国内外の企業さまのSDGsへの取り組みを考慮した責任投資を行っています。
そのリーダーであるアセットマネジメント事業部責任投資推進室の加藤正裕・責任投資ヘッドが、
話題の企業のSDGsご担当役員にお話を聞くスペシャル対談企画「サステナビリティ未来会議」。
第4回は、M&Aやグローバル化で多様化した従業員を取りまとめ、
新たな企業文化の構築に挑む帝人株式会社の取締役常務執行役員、小山俊也氏にお話を伺いました。

三菱UFJ信託銀行 アセットマネジメント事業部
責任投資ヘッド・加藤正裕

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行含め、国内外の運用関連部署でアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2005年から責任投資に従事。国連「責任投資原則」日本ネットワーク共同議長として責任投資の普及・推進に尽力、個人および年金向け責任投資プロダクトの開発、国内外株の議決権行使・エンゲージメント実務にも携わり、近年はグローバルなESG・機関投資家の動向調査等をロンドンで担当。2019年より現職。

帝人株式会社
取締役常務執行役員・小山俊也氏

早稲田大学理工学部修士課程終了後、帝人株式会社入社。プラスチックの商品開発研究に従事。2001年より帝人デュポンフィルム株式会社においてフィルムの開発企画や機能製品事業等に携わったのち、2007年より新機能材料事業開発部にて電子材料の技術開発に貢献。韓国での事業展開を進めた。2017年には常務執行役員として高機能素材、複合成形材料を含むマテリアル事業全般を統轄、2020年より取締役常務執行役員マテリアル事業統轄として中期経営計画のもと、成長基盤確立に向けた施策を推進。2021年にはマテリアル事業で培った見識・知識によるサステナブル経営のための取り組みとリスクマネジメントをCSR管掌として推進し、現在に至る。

財務価値と非財務価値の
両輪がかみ合い、
人的資本が機能することが大事

加藤:本日は投資家の視点から、いろいろとお話をお伺いできたらと考えています。早速ですが、事前に御社の「統合報告書」を拝見しましたところ、マテリアル、ヘルスケア、IT(情報技術)という異なる3つの事業を軸にしていらっしゃることや、M&A(企業の合併、買収)などを通じた「ポートフォリオの変革力」が強みといった御社の特徴が非常に分かりやすく説明されていて、なるほどと思った次第です。我々投資家は、企業が目指す姿からどのように逆算して「中期経営計画(中計)」を考えているのか、その「逆算」の過程を重視しています。統合報告書から御社がまさにその逆算をやっていらっしゃることが分かり、投資家と同じ視点に立っておられるのだなと感じ入ったところです。

小山:ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるとうれしいですね。

加藤:御社がSDGs活動を取り組まれる中で、目指されている会社の姿、こちらを教えていただければと思います。それによって、目指す姿に向けて中計がどういう位置付けになっているのか、今どんなことが課題として認識されているのか、といった御社の状況も理解しやすくなるように思います。

小山:私どものSDGsの活動というのは、やはり社会課題、ここがスタートポイントになります。大きなトレンドは3つあると思っています。一つは気温がもっと高くなる、暑くなる。もっと資源が不足する。もっと会社経営は透明にならなければならない。こういうトレンドは多分変わらないという風に思っています。
そうした中で我々に何ができるのかという視点から、外部の有識者のご意見もいただきながら、現在の5つのマテリアリティ(重要課題)を策定しました。具体的には、@気候変動の緩和と適応、Aサーキュラーエコノミーの実現、B人と地域社会の安心・安全の確保、C人々の健康で快適な暮らしの実現、D持続可能な経営基盤のさらなる強化、です。
大前提として当社には全てのステークホルダーの「Quality of Life(生活の質)」の向上を目指すという企業理念があり、我々が目指す姿というのは当然ながら、この理念に基づいたものです。マテリアリティに向けた取り組みを進めていく上では、財務価値、非財務価値(社会価値)、人的資本、この3つが大変重要になります。財務と非財務という両輪がかみ合い、人財が資本としてしっかり会社を支える。こうした状況があってこそ、取り組みがうまく進んでいくのではないかと思いますね。

加藤:ありがとうございます。最初から、大変示唆に富んだお話をいただきました。特に財務と非財務の両輪、これはおっしゃる通りで、どちらかに偏るのでなく両方を成長させていくことが本当に大事だなと思います。そして、そのベースとしての人的資本。こちらも大変重要と考えています。
世界の投資家は長らく気候変動を重視してきたわけですが、コロナ禍で従業員の健康と安全を最優先で確保していく重要性を強く認識しました。さらに、責任ある投資家として、長期投資という観点からは何が重要になるか、改めて見つめ直してみると、やはり人財がとても重要になるとの考えに至りました。優秀な人財が確保できてこそ、持続的成長が可能になるわけですから。
御社では新しい人事制度を設計されまして、それに加えて企業風土の変革をもたらそうとするプロジェクト「Power of Culture」を推進されています。持続的成長という観点からは、人が入れ替わる中でも脈々と受け継がれる企業文化は重要な意味を持ちます。御社には1918年の創業以来培われた企業文化がある中で、なぜこのタイミングでその変革を目的としたプロジェクトを実施されているのか、ぜひお伺いしたいですね。

相互理解とアイデアの融合が
イノベーションを加速させる

小山:それには、大きく2つの理由があります。1つは当社の歴史に関わるものです。当社は日本初のレーヨン事業からスタートし、その後、ポリエステル繊維や炭素繊維、アラミド繊維などの事業を他社から導入する形で企業価値を高めてきました。合成繊維一本だった1970〜1980年代には確かに当社独自のカラーがあったのですが、1990年代からM&Aによって色んな事業が入ってきました。やはりそれぞれ違った企業風土を持った企業がこちらの方に集まってきたということで どうしても寄り合い所帯になっていた、そんな感じがしておりました。
2つ目の理由が、グローバル化を進めた結果、ついに日本人従業員と外国人従業員の数が逆転したことです。我々2万人の従業員がいるわけなんですが、実は日本人の割合が半分を切りました。グローバルの人財が、非日本人の割合の方が多くなってきたということです。これら二つの変化点、これをもとにして、やっぱりこれからの帝人というものの一本背骨を通すということが今求められているということで、去年一年間かけまして「Power of Culture」という研修を、まずは執行役員以上の全員を対象に行いました。今年はウォータフォールのように、我々がメンターとなってこれからの経営を担う世代に伝えていっている最中です。

加藤:なるほどM&Aやグローバル化を背景に、企業風土醸成や企業文化の浸透に力を入れることになったんですね。多くの日本企業が同じような課題を抱えていると思います。具体的にどのような取り組みをされたのか、気になりますね。

小山:具体的に何をするかと言うと、最初は「Listen」、つまり相手の話をしっかり聞く姿勢を持つこと。相手の話を引き出すには聞き上手になることが大切、要は「聞く力」をブラッシュアップしようということですね。もう1つが、謙虚に核心を突いた問いを投げかけること。相手の考えを引き出したら、なぜそう考えたのかも教えてもらう必要があります。そして互いの考えを融合させることによりイノベーションを加速させる、それこそが当社の狙いです。2つとも非常にシンプルな「解」ですが、まずは我々マネジメントがメンターになって、次世代の執行役員候補に対し、どんな経営課題があってそれに対する対策をどう考えているかなどを“聞き出し”、それを次の中計に反映していこうとしているところです。

加藤:なるほど、そういうプロジェクトなのですね。我々投資家にとって、こうして企業の皆さまとお話しさせていただくのは、御社の中で今どんなことが起こっているのか、そして、それはなぜかを知る貴重な機会です。おかげさまで、「WHY」の部分も含め、手触りが感じられるリアルなお話を頂戴できました。次は「HOW」の話をお伺いしたいと思います。統合報告書の中にも、鈴木純・前代表取締役社長執行役員CEOのメッセージとして「向かうべき方向は間違ってないと確信されている」旨記載されておりました。その中でこれから大事なこと、実際にどのように実践していくのかと書かれております。正にどのように実践されているのか投資家としてもとても関心があります。どのように、「HOW」について是非教えてください。

小山:マテリアリティの1つ目「気候変動の緩和と適応」を例にお話ししましょう。グローバルに見ると、この分野のトップランナーはEU(欧州連合)です。国内にとどまっていてはアンテナが鈍るのではないかと考え、2021年1月に欧州サステナブル先端技術開発センター、これをオランダに設置いたしまして多様な人財を集め気候変動への緩和と適応に対してソリューションを見つけ出そうということに取り組み始めました。
気候変動目標としては2050年にカーボンニュートラル、これははっきりしているわけですが、そこに至る道筋を決め切れていない部分がありまして、長期的な視点からそれを研究していこうというのが設立趣旨です。具体的な課題としては、バイオマテリアルの開発、当社の技術を生かしたサーキュラーエコノミーの実現、そして風力や水素などの代替エネルギーといったところでしょうか。「HOW」の一環として、まずはそういうところをやっていこうと考えております。

加藤:次世代のエネルギーというとてもとても大きな課題、その課題に対しまして御社の技術で解決をされている。その結果として社会課題の解決、プラス自社の成長の両立、両方の実現目指してらっしゃるんですね。

小山:我々の拠点がオランダにありますが、オランダでは当然ながら風力発電が非常に盛んに行われています。そこから取り出したエネルギーを蓄電するのか、それとも直接的にその電気を使って水素まで還元するのか、というところが重要だと思っています。例えば一つの我々が貢献できるところでは、従来の金属製のパイプラインでは水素というものは水素脆化を引き起こしてしまいますので、その中側にアラミドでできたパイプを入れることで金属脆化を防ぐこと、そういう社会インフラを提供することによって水素社会の実現に対してソリューションを提供していきたいと考えています。

「社内炭素価格」導入により
脱炭素化を推進

加藤:事例を挙げて分かりやすくお話しいただき、ありがとうございます。次に、実際にSDGs活動を進めていらっしゃる中での課題や、その課題に対してどのような対応をなさっているのかについてもお聞かせください。

小山:「気候変動の緩和と適応」というマテリアリティについては、「社内炭素価格(インターナル・カーボン・プライシング)」を採用し、グループでの設備投資計画に活用しています。環境を優先した投資はコスト増につながることが多く各事業部からは敬遠されがちでしたが、二酸化炭素削減量が投資効果に加算されることで、環境負荷の少ない設備の導入が進むようになることを期待しています。
一方、他の4つのマテリアリティについてはようやくKPI(重要業績評価指標)が出来上がったばかりで、今年度仮運用し、2023年度からスタートする次期中計の下で本格的に非財務指標を回していく予定です。これにより、マテリアリティに対してどういう効果があったかということを“見える化”していきたいと考えています。将来的には、当社が創出した価値及び使った自然資本の金額換算的なこともやっていく必要があると思っています。他にも課題は山ほどありまして(笑)。

加藤:自然資本の金額換算! ここが金額換算されると、投資家の関心もますます高まるように思いますね。投資家の立場から申しますと、最近特に注目度が高まっているのが「インパクト投資」、つまり、財務的なリターンだけでなく社会的・環境的に効果をもたらす投資です。当社でも昨年10月にインパクト投資型ファンドの試験運用を始めています。そうした中で、各企業さまの取り組みが気候変動にどれくらい影響を与えたのかの具体的な情報をいただけると、より広範な視点からグローバルな気候問題やサーキュラーエコノミーへの企業さまの貢献度が分かるように思います。

小山:おっしゃる通りですね。先ほどお話しした非財務指標の本格運用は来年度からになりますが、公表することを前提にしてやっていきたいと考えています。当社の個々の事業がマテリアリティに対してどのようなインパクトがあって、それを次期中計の最終年度となる2025年度にはどこまで持っていきたいか、ですね。

加藤:ぜひとも、お願い致します!

小山:当社では現在、役員の連動報酬に女性活躍の進捗などを評価する「Diversity&Inclusion(多様性と包括性)」が非財務指標としては1つだけ入っているのですが、今後は気候変動への対応なども入れていくよう提案していきたいですね。取り組みを加速させるには各事業本部長に“自分事”として考えてもらう必要があり、役員報酬への反映はいい注意喚起になるように思います。

「気候変動と人権を結び付けた活動」
を目指したい

加藤:なるほど、まずは取締役会から行動変容していくということですね。では、こうした非財務の取り組みを社内に浸透させるに当たり、従業員の方々の反応はいかがでしょうか? そちらの方も気になります。

小山:おっしゃる通り、従業員啓発は大変重要と捉えています。当社の人事戦略を担当する部署が全従業員を対象としたアンケートシステムをつくり、CSRの浸透度に関するアンケートを実施したのですが、企業理念や行動規範の理解度はおおよそ70%というところでした。日本人の回答は中央値に寄りがちなので、そこは割り引いて考える必要がありますが、それにしても80%は行ってもらわないと合格点はあげられないなと。
理解度向上のためには社内に向けた情報発信が重要と考えており、3年計画で計10本の啓発動画をつくって世界中の拠点で流しています。1本目は欧米から「登場するキャラクターがステレオタイプ過ぎる」という指摘があったので、ピクトグラム風に変えたらこれが大変好評で、視聴する従業員が増えました。当面はこのように分かりやすく親しみやすい形で発信を続け、それが理解度80%到達につながってくれればいいと思っています。

加藤:今お話しくださったアンケートの件などもぜひ統合報告書に掲載していただきたいですね。そうした社内の現状を積極的に開示していただけると、我々投資家としても大変ありがたいです。

小山:対談の冒頭でも申しましたが、今後、企業経営においてはさらなる透明性が求められると思っています。「この会社は健全なんだな」と感じていただけるよう、しっかり情報開示をしていきたいですね。

加藤:そのお話を受けて、最後に、投資家をはじめとするステークホルダーとの相互理解を向上させるための取り組みについてもお伺いさせていただけたらと思います。

小山:今年2月に初めてESG説明会を行いまして、ガバナンスなどについて、投資家さまから実に多くのご質問を頂戴しました。こうした説明会は今後も継続すべきだと思いましたし、場合によっては時間を長くしたり、回数を増やしたりしてもいいかもしれないと考えています。投資家さまとは1on1ミーティングも実施しておりますし、先ほど加藤さんがお話しされたインパクト投資家の方々にも、「当社はこういう取り組みをしています」といったアピールをしています。
加えて、今は人権も重視されていますので、外部の人権団体の有識者の方々と年に1度、情報交換をさせていただいており、そこから得た知見をもとに気候変動と人権とを結び付けた活動に発展させていけたらと考えています。例えば、暑熱作業を行う労働者を助けることができないか、とか。
当社が危惧しておりますのは当社の取り組みがひとりよがりなものになってしまうことで、その意味でも、外部の方々の貴重なご意見には真摯に耳を傾けるようにしています。これからも“開かれた情報発信とヒアリング”を継続していきたいですね。

加藤:脱炭素社会への移行を考えますと、人権・ジェンダー、あとは地域社会、経済そういったことも踏まえながらいかに質の高い雇用を成し遂げ、かつ経済社会の発展に結びつけていくのか、こう言った、単独のというよりは複雑に絡み合いながらいかに持続社会を作っていくのかといった視点が大事になってきます。そういった中で 「Just Transition」 、今申し上げた色々な目線で貢献していこうという考え方がとても大事になってきていると考えています。

小山:社会の中で一番大切な資本である「人を預かる」という意味では 人的資本に対して積極的に投資をして、そしてイノベーションを生み出し、働く人々が幸せな企業になるということが、QOL の向上に結びついていくんだろうと思っていますので、これからも、人権、人的資本への投資を積極的に進めていきたいと考えています。冒頭に申し上げたように、これからはもっと透明な社会になっていくと考えていますので、我々も社会課題に対する取り組みをもっと透明にわかりやすく発信していく活動に尽力していくつもりです。

加藤:ありがとうございます。これまでのお話を伺いしまして御社がとても透明性に力を入れてらっしゃることの理解が進みました。投資家の目線からも、情報開示は本当に大事だと認識しています。今日はとても有意義なお話を頂いたと思っております。是非またこのような機会を賜れればと思います。本日はどうもありがとうございました。

小山:こちらこそどうもありがとうございました。

※「Just Transition(公正な移行)」とは
脱炭素社会への移行にあたり、ジェンダーや人種、地域、経済を含むさまざまな面での負の影響を回避しながら質の高い雇用を生み、社会を繁栄させる機会を創り出す考え方。

聞き手/執筆 森田 聡子(ライター)

2022年4月27日現在