05 三菱地所株式会社

多様なステークホルダーを
リードし、
先進的で
持続可能なまちをつくる
加藤正裕・責任投資ヘッド
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執行役専務・中島篤氏

三菱UFJ信託銀行は、自社でSDGs活動に取り組むだけでなく、機関投資家としての立場から、
国内外の企業さまのSDGsへの取り組みを考慮した責任投資を行っています。そのリーダーである
アセットマネジメント事業部責任投資推進室の加藤正裕・責任投資ヘッドが、
話題の企業のSDGsご担当役員にお話を聞くスペシャル対談企画「サステナビリティ未来会議」。
第5回は、多様なステークホルダーを相手にリーダーシップを発揮し、
先進的で持続可能なまちづくりを目指す三菱地所の執行役専務、中島篤氏にお話を伺いました。

三菱UFJ信託銀行 アセットマネジメント事業部
責任投資ヘッド・加藤正裕

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行含め、国内外の運用関連部署でアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2005年から責任投資に従事。国連「責任投資原則」日本ネットワーク共同議長として責任投資の普及・推進に尽力、個人および年金向け責任投資プロダクトの開発、国内外株の議決権行使・エンゲージメント実務にも携わり、近年はグローバルなESG・機関投資家の動向調査等をロンドンで担当。2019年より現職。

三菱地所株式会社
執行役専務 中島篤氏

東京大学法学部卒業後、三菱地所株式会社入社。2004年4月経営企画部副長、2015年4月執行役員兼ロックフェラーグループインターナショナル社取締役社長兼CEO、2018年4月執行役常務、2022年4月代表執行役 執行役専務、同年6月取締役兼代表執行役 執行役専務(現在に至る)。経営企画部、サステナビリティ推進部担当。

10年の長期経営計画で
「社会価値向上」と
「株主価値向上」を戦略の両輪に

加藤:この対談企画も今回で5回目となり、社内外の読者が増えてきました。当社の運用部署の者も参考にしています。ESG(環境・社会・企業統治)や責任投資が今、運用の現場でも非常に注目されているんです。そうした中で本日はお話の機会をいただき、大変ありがたく思います。

中島:本日は宜しくお願いいたします。

加藤:さて、御社の長期経営計画2030(長計)で真っ先に目が行ったのが、御社が「まちづくりを通じた真に価値ある社会の実現」という基本使命の達成に向け、「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」を両輪に据えた経営を標榜しておられることです。この2つの両立はなかなか難しいのですが、当社としてもぜひとも目指していきたいところであり、まさに同じ目線をお持ちでいらっしゃるのだなと共感を覚えた次第です。
御社では「三菱地所グループのサステナビリティビジョン2050」(「サステナビリティビジョン2050」)という長期のビジョンを策定された上で、そこへの中間点となる2030年に向けた「三菱地所グループのSustainable Development Goals2030」(「Sustainable Development Goals2030」)をつくり、さらに単年度での目標も定めて、着々と取り組んでおられます。そこで、まずは御社が2050年に目指す会社の姿からお話しいただけたらと思います。

中島:最初に「サステナビリティビジョン2050」を策定したのは、長期的なゴールを決めておかないと軸がぶれてしまう可能性があると考えたためです。とはいえ、2050年はかなり先ですから、テクノロジーや社会の状況がどうなっているかを正確に予測することはまず不可能です。結果として、若干抽象的ではありますが、「Be the Ecosystem Engineers」、つまり「企業や個人など立場を異にするあらゆる主体に対し、経済・環境・社会全ての面において持続的に共生関係を構築できる場と仕組み(エコシステム)を提供する企業グループ(エンジニアズ)たることを目指す」とコミットしました。
私たちの事業は、東京の丸の内、大手町、有楽町エリアに象徴されるように、まちをつくることです。まちづくりとは個人や単一企業ではできないことを社会全体として実現していくことであり、それが我々の事業に与えられた命題でもありますから、サステナビリティに関する取り組みついても同じようなところを目指していきましょう、というわけです。

加藤:なるほど。2030年のゴールや年次目標が時系列的にそこにどうつながっていくのか、さらには長計との関係性などについてもお聞かせください。

中島:「サステナビリティビジョン2050」の目標は先ほどお話ししたように比較的コンセプチュアルなもので、長期のゴールとして意識はしますが、その達成がいつなのかという議論にはあまり意味がないように思います。これに対し、「Sustainable Development Goals2030」をつくったのは、当社が3年ごとに更新してきた中期経営計画を、2030年をゴールとする長計へと変更したまさにそのタイミングでした。長計では、株主価値向上と社会価値向上を戦略の両輪に据え、社会価値向上戦略の柱として「Sustainable Development Goals2030」を定め、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでいくことを明確にしています。2030年に向けて、財務的な目標と同様に、サステナビリティに関しても目標を定めて表裏一体の形で進めていこうとなったわけです。
「Sustainable Development Goals2030」では、4つの重要テーマ「Environment」「Diversity & Inclusion」「Innovation」「Resilience」と目標・KPIを定めていますが、本年3月には、脱炭素に向けた数値目標について、当社グループでの取り組みの進捗度や世の中の状況を見ながら、さらにアグレッシブな水準へと見直しました。今後は新たな目標を追加することもあるかもしれません。経営計画と同じように、状況に応じて適宜内容の見直しや目標の適正化を行っていきます。


加藤:そういうことなのですね。財務とサステナビリティをセットにして取り組まれることで、株主価値と社会価値の向上を同時に実現していく。そんな経営を考えていらっしゃるのだなということが、今のお話でよく理解できました。年次目標については、事業だけでなくサステナビリティについてもサステナビリティ委員会でPDCA(Plan・Do・Check・Act)サイクルを実践していらっしゃるのですね。さらに、「Sustainable Development Goals2030」では具体的な数値目標を掲げてコミットされて、その先の目指す姿が「サステナビリティビジョン2050」である、と。

不動産開発プロジェクトに
環境施策を反映

中島:はい。当社では「年次計画シート」を事業グループごとに作成するのですが、サステナビリティに関する目標や年間のアクションなどについても記載する形になっています。長計がスタートするまでは経営計画と、サステナビリティに関する目標は切り離されていましたが、今は一体感が強まりました。
「サステナビリティビジョン2050」は確かにまだ先のことではありますが、本ビジョン達成に向けた「Sustainable Development Goals2030」では数値目標も出していますので、そこに対してはしっかり取り組んでいかなければならないと思っています。ただ、2030年の目標は、環境負荷をかけない生活が当たり前のようにならないと達成は難しいと考えています。当社だけでなく多くのステークホルダーの方々を巻き込んで皆で一体となって推進していきたいと思います。

加藤:今のお話で「環境負荷をかけない生活が当たり前のようにならないと」とおっしゃっていましたが、同感ですね。皆が「自分ごと」としてSDGsに取り組んでいかないとなかなか社会は変わりません。また、「多くのステークホルダーの方々も巻き込んで」というのも、おっしゃる通りです。投資の世界でも一社単独でできることは限界がありますから、世界中で多くの投資家が共通の課題解決に取り組む「協働エンゲージメント」の動きが広がっています。
続いて、2030年や2050年のゴールに向けての取り組みの中でお感じになっている課題と、それにどう対処されているかをお聞かせいただければと思います。

中島:第一に、価値観や目標の共有・浸透という課題があります。SDGs、ESG自体は非常に深遠なテーマですが、昨今の世の中の流れで、それがますます複雑かつ専門的な内容を含むようになり、また、多岐に渡る論点を扱うようにもなっています。長期的な話でもあるため、当社グループの社員や関係者の方々が完全に理解、納得して価値観を共有するのは簡単ではありません。これは多くの企業さまが抱える悩みかもしれません。
加えて、当社グループで展開する不動産開発事業は、自然を改変すると捉えられる側面もあるため、自然資本の保全や拡大、生物多様性の確保などにも積極的に取り組む責任があると考えています。これが第二の課題ですね。
最初の課題に対しては、サステナビリティ推進部で、グループ社員への研修や、啓発活動等を行うほか、年次計画へのサステナビリティ要素の組み込みや長計との一体化などを実施してきました。また、社長をはじめ役員も積極的にSDGs、サステナビリティの重要性を発信するよう努めています。一方で、少しラフな形での情報発信、例えば社員食堂にSDGs関連の展示をしたり、サステナブルなメニューを取り入れたりといった社内向けの発信も地道にやってきました。我々だけでなくメディアや御社のような企業のご尽力もあって、今はだいぶ社内に浸透してきたのかなと思っています。ただ、それが日常業務の中で当たり前のように行われるようになるには、もう一段上の取り組みが必要です。

加藤:第二の課題に関して、御社では不動産開発プロジェクトに環境関連の目標を反映させる取り組みを行っていらっしゃいますよね?

中島:はい。今年から、社内で新規不動産開発案件の投資判定を行う際、省エネ性能や環境不動産認証などにおいて高度な環境配慮が計画された事業かどうかを加味して考慮するようにしています。おっしゃる通り、先ほどの第二の課題を緩和する方向に持っていくインセンティブになるかと思いますし、こうした制度の導入により社員の意識も変わります。とはいえ、環境に限らず人権等に対しても、少なくともネガティブな影響が出ない形で不動産開発プロジェクトを進めるためには、繰り返しになりますが、社会全体を巻き込んだ取り組みが必要かと思います。

期待の国産材活用事業が
本格稼働

加藤:御社では今年の4月より、「人権の尊重」や「環境負荷の軽減」などの遵守を求める「CSR調達ガイドライン」の内容を見直し、「サプライヤー行動規範」に改定したと伺っています。取引先に対してよりグローバル水準を目指した高度なマネジメントを目指されるとのことですが、具体的にどんなところを改定されたのか、ご説明をいただけると助かります。サプライチェーンマネジメントは、我々投資家にとっても大変関心の高い分野です。

中島:行動規範をつくり直したのですが、いきなり高い地点に持っていくのは難しいので、「これは必ず守ってください」と「ここを目指しましょう」という2段階に分けて、我々の考え方をお伝えしています。加えて、まずは建設会社と清掃会社を中心に、我々が直接調査を行う仕組みをつくりました。成果が出て検証できるようになるには、もう少し時間がかかります。

加藤:御社が実際に調査に行かれるというところがポイントですね。他にも、実にいろいろな取り組みをなさっています。建築資材の低炭素化・脱炭素化で注目されるのが、「クロス・ラミネイティッド・ティンバー(CLT)」をはじめとする持続可能な国産材の利用拡大です。これは、資源循環の停滞や違法な人権侵害・森林破壊といった社会課題の解決に有効なだけでなく、御社にとっては既存事業の収益性の改善や新たな収益源の獲得につながる、まさに社会価値と株主価値をセットで向上させる取り組みと言えそうです。

中島:そうですね。日本の林業のサイクルを見ると、今はちょうど利用できる木材が豊富にある時期だと言えます。それをうまく活用できないかというのは、当社に限らず、不動産業界や建設業界に共通する課題と言えるでしょう。木材は環境負荷が少ないだけでなく、我々日本人にとっては、優しく、温もりを感じるようなイメージがありますよね。当社グループでは、かねてより木造2×4住宅に小径木や間伐材を積極的に採用するなど、国産木材を建築に活用してきました。CLTについては、建設資材として使っている中で、CLTそのものを事業化できないかという話になって、一昨年1月に新会社を立ち上げ、本年6月に鹿児島県湧水町に工場を本格稼働させ、原木の調達から、製材、木材製品への加工、販売までを一気通貫で手掛ける体制を整えました。
ご指摘の通り、このプロジェクトにはいろいろな側面があります。2016年に社内の新事業提案制度において採択されたことを契機にできた新事業ですから推進してきた社員にとってはイノベーションの成果ですし、雇用の創出などで鹿児島にも多少はお役に立てているのではないかと自負しています。建築資材として国産材の利用を拡大することによる炭素固定、CO2排出量削減の実現に加え、伐採適齢期を迎えている国内人工林の循環を進めることは、水源の涵養や、土砂災害の防止などにも貢献できるでしょう。

多角的なアプローチを継続し
社内の理解をさらに深めたい

加藤:おっしゃる通りですね。複雑で多岐に渡る課題に対し、そういったプロジェクトを立ち上げられて、実際に工場までおつくりになって……。CLTの今後に期待しております。
最後になりますが、御社のSDGsへの取り組みを現時点でどう評価されているかをお聞かせください。

中島:再生エネルギー由来の電力(再エネ電力)比率の2030年目標(25%)を前倒しで達成すべく目標を改定するなど、環境関連の取り組みは極めて順調に推移しており、再エネ電力だけでなくCO2排出量削減目標値についても、アグレッシブな方向に改定しています。我々の努力だけでなく、社会の流れの影響もあり、よい方向に推移できているのではないかと評価しています。
そうした中で、当社グループの場合はやはり外部の方にどう働きかけていくかということが大きなテーマになります。対談の冒頭でお話した「Ecosystem Engineers」として、目標実現に向け、いろいろな方々をコーディネイトしていく必要があります。

加藤:まちづくりにおいて、多くのステークホルダーをコーディネイトしながらリーダーシップを発揮していく「推進力」は、御社の大きな強みでもありますよね。
さらに、御社の場合、株主価値と社会価値の両立を目指してビジョン、目標を明確にし、それに合わせた組織体制をつくって、人権保護やダイバーシティを含めて様々な取り組みを加速させていらっしゃいます。今回いろいろお話しいただいたことで、私自身もより深く理解することができました。そうした中で、中島さんが今後の課題と考えていらっしゃることについてもお話しいただけますか?

中島:そうですね。新しいテーマが次々と出てくる領域ですので、4つの重要テーマを含めてきちんと目配りして乗り遅れないようにすることが重要です。社内への啓発やステークホルダーなどに対する対外的な説明も適宜、過不足なく行っているつもりではありますが、特に当社グループ内の理解をさらに深めていかなければならないと感じています。繰り返しになりますが、それにはトップがしっかり情報発信して、役員、部長も旗を振っていく一方で、知識の面では研修も必要でしょう。多角的なアプローチを継続して実行していきたいですね。
当社は社員数が少なく、グループ全体でも1万人程度です。少数精鋭の社員それぞれが自らの能力を発揮してイノベーションを起こせるような職場環境づくりも、会社の持続的な成長にとって重要な要素と考えています。

加藤:ありがとうございます。御社が目指す株主価値と社会価値の両立は、今、我々投資家に対して求められていることでもあります。前者で言えば、引き続きいかに投資価値を高めていくのか、これは昔からの課題です。一方、後者は課題解決に向けた貢献や成果ですね。最近は「インパクト」という言葉が使われますが、そうした貢献、成果が強く求められているのを、一投資家としてひしひしと感じているところです。
いかにしてそのインパクトを情報開示していくかも投資家の喫緊の課題なのですが、その際には企業さまからいろいろ教えていただく必要があります。ですから、こういった情報・意見交換の場を今後も引き続き持たせていただけると幸いです。貢献、成果といった視点からも、ディスカッションをさせていただければと思っております。

聞き手/執筆 森田 聡子(ライター)

2022年7月4日現在