06 NIPPON EXPRESS ホールディングス株式会社

人財から始まる
サステナビリティ経営で
グローバルな成長目指す
責任投資ヘッド・加藤正裕
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取締役 常務執行役員 経営戦略本部長・増田貴氏

三菱UFJ信託銀行は、自社でSDGs活動に取り組むだけでなく、機関投資家としての立場から、
国内外の企業さまのSDGsへの取り組みを考慮した責任投資を行っています。
そのリーダーであるアセットマネジメント事業部の加藤正裕・責任投資ヘッドが、
話題の企業のSDGs担当者にお話を聞くスペシャル対談企画「サステナビリティ未来会議」。
第6回のゲストは、日本通運創立100周年となる2037年の長期ビジョン
「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」実現に向け、変革を加速させる
NIPPON EXPRESSホールディングス取締役 常務執行役員 経営戦略本部長の増田貴氏です。

三菱UFJ信託銀行 アセットマネジメント事業部
責任投資ヘッド・加藤正裕

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行含め、国内外の運用関連部署でアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2005年から責任投資に従事。国連「責任投資原則」日本ネットワーク共同議長として責任投資の普及・推進に尽力、個人および年金向け責任投資プロダクトの開発、国内外株の議決権行使・エンゲージメント実務にも携わり、近年はグローバルなESG・機関投資家の動向調査等をロンドンで担当。2019年より現職。

NIPPON EXPRESS ホールディングス株式会社
取締役 常務執行役員
経営戦略本部長・増田貴

1984年日本通運株式会社入社後、2007年に日通キャピタル株式会社 常務取締役に就任。2009年7月から日本通運株式会社にて、3PL部 専任部長、グローバルロジスティクスソリューション部 専任部長、財務部長を務める。その後、日通商事株式会社にて取締役 執行役員、取締役 常務執行役員を歴任し、2018年に日本通運株式会社 取締役 執行役員となる。取締役 常務執行役員を経て、2022年1月 NIPPON EXPRESS ホールディングス株式会社 取締役 常務執行役員 兼日本通運株式会社 取締役 常務執行役員に就任し、現在に至る。

創立時から
物流で社会に貢献する
「パーパス経営」を実践

加藤:本日こうした機会を頂戴するにあたって御社の統合報告書を拝見し、改めて素晴らしい理念をお持ちだな、いろいろ実践されているのだなと感じた次第です。御社は、グローバルなサプライチェーンにおいても大変重要な役割を果たしていらっしゃる、まさに日本経済の要のような存在です。そこで、まずはそうした御社が実現したいと考えていらっしゃる「目指す会社の姿」から、お伺いできたらと思います。

増田:当社は1937年に、円滑な物資供給を担うための国策会社としてスタートしました。高速道路もトラック輸送網もない時代に社会インフラである物流ネットワークの構築を使命として設立されたこともあり、「物流を通して社会に貢献する」というパーパス経営を当初からやってきたことになります。1958年に「われらのことば」という社訓が制定されました。「われらのことば」とは、「運輸の使命に徹して社会の信頼にこたえる」、「業務の改善を図って社運の発展につとめる」、「心身を健全に保って明朗な生活をいとなむ」の3つで、この社訓を創立70周年に当たる2007年に現在の企業理念へと刷新しました。現在の企業理念「私たちの使命 それは社会発展の原動力であること」、「私たちの挑戦 それは物流から新たな価値を創ること」、「私たちの誇り それは信頼される存在であること」にはこうした歴史的背景があるのですが、一貫して変わらないのは、事業を通じていかに社会の発展に貢献するかが我々の使命であるということです。

加藤:創立時から明確な使命をお持ちで、85年前からパーパス経営を実践されてきたということですね。そこで詳しくお伺したいのが、御社グループの「価値創造エンジン」です。企業理念を軸とした事業創出プロセスを、大変分かりやすい図解で統合報告書に記載なさっています。物流課題や社会課題に対するソリューションを生み出して事業化するというビジネスモデルへの理解が進みました。

増田:価値創造エンジンは、当社の理念を現実の企業活動に落とし込むためのものです。具体的には、まず物流課題や社会課題、お客さまの課題やニーズを丁寧に掘り起こし、私たちの事業を通してそれらを解決するソリューションを生み出す。そのソリューションもお客さまや社会のニーズの変化により時代と共に変わってきますし、昨今のサプライチェーンの分断のように、これまでとは全く異なる課題が新たに生じるケースもあります。そうした課題にしっかり応えていくことが非常に重要と考えています。ただ、我々の力だけではいかんともしがたい部分も出てきます。その場合は関係先と一緒に課題解決に取り組み、商品化、サービス化につなげていきます。
物流事業の基本、すなわち当社のビジネスモデルの基本は、お客さまの荷物をお預かりしてそれを「保管」、「輸送」することです。その中で、お客さまの荷物や商品、製品、それらの経済的な価値を高めるのが物流の本来の目的です。的確なタイミングで的確な場所に保管・輸送することが、お客さまの商品や製品の経済的な価値を高めることになるわけで、それをお客さまのニーズに合わせて提案し、きちんと実行していくのが我々の事業ですね。

ホールディングス制で
グローバル化とグループ経営を推進

加藤:御社の企業理念と結び付いた価値創造エンジンのお話、さらに物流事業でお客さまの商品や製品の価値を高めていくというお話から、まさに、サプライチェーンにおける御社の位置付けがより明確に、その重要性も含めて理解できました。そうした中で、足下のメジャーアップデートとしてNXグループ誕生、ホールディングス制移行がありました。このタイミングでなぜホールディングス制に移行されたのか、その意図や、長い歴史の中で築かれてきた御社の事業プロセスを今後どのように発展させていこうと考えていらっしゃるのかについても、お聞かせください。

増田:ホールディングス制に移行した背景には、当社が抱える2つの課題があります。1つは「グローバル化」です。当社は創立100周年に当たる2037年には売上の過半を海外事業から得るという計画を立てており、そこに向けて日本事業の位置付けも見直す必要があると考えました。日本を軸に海外展開を図る国際化ではなく、あくまでグローバルな視点で見ていくことが重要ではないかと。今回、グループ体制においても日本はグローバルネットワーク5極(米州、欧州、東アジア、南アジア・オセアニア、日本)のうちの1極となり、日本を中心に捉えるのではないのだということを組織の上でも明確にした形です。
もう1つが「親子関係の解消」です。当社には国内にもグループ会社が多数あります。グループの方針に従い役割分担すると言っても、これまでは親会社の為の子会社という関係性がどうしても拭えずにいました。しかし、ホールディングス制では、持ち株会社傘下の兄弟会社ですから、日本通運が上でも下でもありません。そういう関係性をつくった上で、しっかりグループ経営をしていこうという話です。

加藤 :ありがとうございます。御社の社会的な使命や価値創造エンジン、さらにホールディングス制への移行の意図などをお伺いできて、御社の持続成長を企図した大きな枠組みとそれぞれの繋がりの理解が深まりました。続いて、御社のSDGsへのお取り組みを、どのように企業価値の向上に結び付けていかれるのか、もう少し踏み込んでお話をお伺いできればと思います。具体的には、御社では持続的な成長と企業価値の向上のためにサステナビリティ経営を推進されています。サステナビリティ経営とよく似た言葉ですが、企業さまによってはESG経営という言葉を使い、その位置付けや定義が違うということもよくあります。そこで、これらの御社の中での位置付けや、企業理念、経営戦略との関係性などについてもご教示いただけたらと思います。

増田:私たちが重視しているのはサステナビリティ経営です。ホールディングス制移行に併せてサステナビリティ推進部を立ち上げ、推進しています。貢献のアプローチは多岐にわたりますが、サステナビリティ経営で一番重要なのは、本業の物流事業を通して社会貢献をしていくということです。そこで、6つのマテリアリティ(重大な社会課題)をしっかりと認識し、それぞれのマテリアリティに対して解決策を策定してやっていく。これがサステナビリティ経営につながっていくという考え方です。
これに対し、ESG経営の方はもう少し範囲が狭いという認識です。広く社会に対してというより、当社のステークホルダーの皆さまを念頭に、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の視点から経営戦略を考え、それを実践していくことで、皆さまのお役に立つことがとても重要であるという考え方です。近年は社会による会社の評価軸が変わってきており、財務のみならず非財務要素も重視されるようになりました。当社としても、売上や利益率を追求するだけでなく社会の要請にしっかり応えていく、それがESG経営であるという捉え方をしています。

「強い現場力」を支える
大規模研修所などの研修体制

加藤:今お話しいただいたサステナビリティ経営、ESG経営に取り組まれる中で生じた課題や、課題解決のために行っていることについてもお聞かせいただけたらと思います。

増田:物流事業を営む当社は、CO2の排出会社とも言え、気候変動は当社にとって特に重要な課題となっています。私たちに求められているのは、クリーンな物流をどう実現していくか。重々認識はしておりますが、残念ながらそこがなかなか進まないのが現状です。例えば、監督官庁である国土交通省と、有人車と自動運転車の隊列走行による安全対策の実験を実施したり、特定エリアで自動運転の実証実験をしたりと、CO2削減を目指した取り組みを行ってきました。そうした中で、電気自動車(EV)の方が自動運転がしやすい、さらに、EV化が進めば当然CO2も削減できるということは分かっているのですが、なかなか実用化のレベルまで行かない。というのも、乗用車では既に多種のEVが商品化されていますが、トラックはまだまだ。現状では燃料電池車(FCV)と完全なEVカーの二択です。私たちにトラックの開発ができるわけではないので、この辺りは大変もどかしいのですが、まずは私たちのできることから気候変動への取り組みをしっかり進めつつ、関係先との更なる協働の可能性について検討を進めていくことで、時代に合わせたソリューションを創出し、これからも物流という社会インフラを通して人々の生活を支える企業として持続成長を実現していきたいと考えています。

加藤:御社の長い歴史と、再び御社の価値創造エンジンを思い起こしてみると、これまでの様々な局面で、御社は企業理念を軸とした変わらない事業創出プロセスを通じて物流課題・社会課題に対してソリューションを生み出し、事業化されてきたことを確認できます。気候変動へのお取り組みをお伺いして、この課題への対応はとても難しい面も認識できましたが、その一方で、これまでも御社は時代と社会を捉えた課題を掘り起こし、それへのソリューションをご提供され、持続成長を実現されてきました。お話をお伺いし、御社は、今、直面されている気候変動の問題に対して、これまでと変わらない事業創出プロセス、価値創造エンジンを通じて、「あるべき未来」を実現するソリューションの創出に取り組まれている状況を教えて頂きました。このようなお話をお伺いできることも、投資家としては参考になるところです。是非、取り組みに進展がありましたら、そのアップデートをお教え頂きたいところです。
さて、そうした中で、実際にソリューションを創出し、ビジネスを進めていくのは人ということになります。御社グループの強みとして、強い現場力を挙げていらっしゃいます。現場力=人、人的資本については経済産業省が人的資本経営の実現に向けた検討会の報告書などを出していますが、我々投資家の間でも今非常に関心が高まっているテーマです。どのようにして人的資本を築き上げられたのか、また今後、どのようにその強みを引き継ぎ、持続可能な成長を実現していく担い手にバトンを繋いでいかれるのかについても、ぜひお聞かせください。

増田:現場力と言った時、1つには提案力、ソリューションという捉え方もあるかと思います。ただ、当社は物流サービスを提供していますので、やはり倉庫ですとか、配送・輸送と言った現場の第一線でお客さまをサポートする力、それが品質ということになります。人財育成には非常に力を入れておりまして、伊豆にドライバーや倉庫・引越のオペレーターなど技能系従業員を対象にした研修センターをつくっています。大型トラックやフォークリフトの講習ができるコースも設置しており、物流会社のドライバー・オペレーター用の教育施設としては国内有数の規模ではないかと思います。そこに全国から従業員を集めて定期的に研修を実施しています。コロナ禍でもこうした教育、訓練は継続していました。当社のような物流会社の場合、どんなに素晴らしいソリューションを提供しても、お客さまに対する現場の品質が良くなければニーズに応えることはできません。それゆえ人財は大変重視しており、近年のドライバー不足は大変悩ましい問題です。現場力を高めるための人財育成は、従業員のエンゲージメントに直結します。教育も大事ですし、それだけでなく給与などの待遇も含めて働きがいのある職場をつくっていかないといけません。そうした職場環境や風土を従業員に対してトータルに会社が提供できる。そういうところが実は非常に重要であると考えています。

分断で痛感した強靭な
サプライチェーン構築の必要性

加藤:今おっしゃったトータルにというのが非常に重要かと思います。ある研究結果によりますと、従業員エンゲージメントと最も相関関係が高い経験は研修という結果が出ています。研修を受ける従業員は、会社が自分に価値があり育てようとしてくれているとか、会社の一員として自分が大事にされていると思うことで仕事へのモチベーションが高まるわけですね。御社の技能系従業員さま向けの大規模研修センターのお話を伺い、なるほどと思った次第です。さて、人財同様、ESGの観点からも近年その重要性が高まっているのが、企業の持続成長を支えるサプライチェーンです。サプライチェーンがダイナミックに変化する中で、最適なソリューションを提供するための取り組みについてもお伺いしたいと思います。

増田:最近の事例としては、コロナ禍でグローバルなサプライチェーンが分断されていることが挙げられます。一定期間、特定のエリアだけというサプライチェーンの乱れはこれまでにもありましたが、全世界で乱れたのは、今のグローバルな輸送体制が確立されてから、恐らく今回が初めてです。かなり長い期間に渡って飛行機が飛ばない、船会社も運航に遅延が生じるという未曽有の状況の中で、チャーター便を飛ばすなど代替手段を考えたり、新たなソリューションを模索したりしましたが、私たちだけでは打つ手は限られ、結果的にお客さまのサプライチェーンにも支障が生じました。
あらゆるリスクを想定して準備をするとか、100%防ぐということは難しいのですが、今回のような突発的な事態が起きた時、私たちの使命として被害を最小限に食い止めることが重要であるということを再確認する意味では大変勉強になりました。物流インフラという観点だけでは対応が後手に回ってしまいますから、サプライチェーン全体をそこに関わる方々と一緒に俯瞰しながら、レジリエントなサプライチェーンを共創していく必要があると考えています。

加藤 :なるほど。グローバルなサプライチェーンの分断で未曾有の危機に直面された中で、お客さまへの影響を最小限にとどめ、さらにその苦しい経験をピンチではなく今後のチャンスとしてとして捉えていらっしゃる。物流・社会・お客さまの課題やニーズを掘り起こし、ソリューションを生み出していく御社の価値創造エンジンをここでも体現されていらっしゃるのだなと思った次第です。さて、最後に現状のお取り組みへの評価と今後の課題について、これまでのお話を総括する形でお話しいただけたらと思います。

増田:私たちは2037年、創立100周年のあるべき姿を強く意識しておりまして、長期ビジョンとして、「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」になることを掲げています。質的にも量的にも存在感を持つには、当然ながらシェア、品質を大きく上げていく必要があります。もう1つ重要なのが、グローバルベースで事業の財務的な側面のみならず社会的な価値を評価してもらえるようになること。現段階では、まだまだグローバルコンピティターの背中は見えてこないというのが実感です。とはいえ、価値創造エンジンをきちんと再認識して、私たちの使命を従業員一人ひとりが理解し実践していくというような、2037年に向かって取り組むべき道筋を築いてきました。今はその道筋の初めの1歩、2歩、3歩くらいまで進めたかなというところで、達成度にすれば20〜30%くらいでしょうか。ただ、方向性を決めてレールを敷くというところまではやってきたので、あとはゴールへ向かって邁進するのみ!これから真価が問われると捉えています。

加藤:本日は多岐に渡るお話をありがとうございました。おかげさまで統合報告書の齋藤充社長のトップメッセージ「物流から新たな価値をつくる」を、より具体的なイメージとともに、より深く理解することができました。御社のビジネスモデルである「保管」と「輸送」という2つの面から商品や製品の経済的な価値を高めていくというお話は大変興味深く、それを伺ったことで御社が今実践されていることや、新しいレールを敷かれて次のフェーズに向けて歩んでいらっしゃる、その背景がよく分かりました。まだまだお伺いしたいことがたくさんありますが、お時間も長くなりましたので、ここまでに致します。変革が具体化していくプロセスで、またこうしてお話しする機会をいただけると幸いです。

聞き手/執筆 森田 聡子(ライター)

2022年11月21日現在