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サステナビリティ未来会議

SUSTAINABLE FUTURE DIALOGUE

SUSTAINABLE
FUTURE
DIALOGUE

08

新戦略で目指す姿が明確に、
全社一丸となって
豊かで快適な未来を切り開く

TOTO株式会社
責任投資ヘッド・加藤正裕 × 執行役員・山本泰徳氏

三菱UFJ信託銀行は、自社でSDGs活動に取り組むだけでなく、機関投資家としての立場から、
国内外の企業さまのSDGsへの取り組みを考慮した責任投資を行っています。そのリーダーであるアセットマネジメント事業部責任投資推進室の加藤正裕・責任投資ヘッドが、話題の企業のSDGsご担当役員にお話を聞くスペシャル対談企画「サステナビリティ未来会議」。

第8回のゲストは、中長期経営計画となる「新共通価値創造戦略TOTO WILL2030」を現在推進しているTOTOの執行役員・経営企画本部長、山本泰徳氏です。

TOTO株式会社
執行役員 経営企画本部長
山本泰徳氏

1992年、東陶機器株式会社(現TOTO株式会社)入社。販売(営業、企画)、事業部(販売企画)、経営企画部等での業務経験を経て2014年販売統括本部販売企画部長、2018年販売統括本部副本部長などを歴任し、2021年4月執行役員 経営企画本部長に就任(現職)。

発想を変えて策定した
新共通価値創造戦略
「TOTO WILL2030」

加藤 加藤

「ウォシュレット」をはじめ、トイレや浴室など水まわりで御社の製品を目にしたり使ったりする機会は多く、その意味で、御社はこの対談の読者にとっても非常に身近な存在です。責任投資の観点では、近年、人口増加や気候変動による世界的な水資源の枯渇がこれまで以上に危惧されています。御社の統合報告書によると、地球上に存在する水の中で人間が生活に利用できるのはわずか0.01%なのだそうですね。限りある水資源を守り、持続させていくことの重要性を再認識した次第です。本日はそのあたりのこともお話しいただけたらと考えています。

この対談も今回で8回を数えますが、いずれの回でも企業さまに最初におうかがいしているのが、企業理念や経営戦略、御社で言えば「新共通価値創造戦略TOTO WILL2030」などを通して想定しておられる「目指す会社の姿」です。まずは、そこからお聞かせください。

山本 山本

はい。当社が目指す会社の姿は、今おっしゃった「TOTO WILL2030」の中に明確にお示ししています。2050年のカーボンニュートラルで持続可能な社会の実現に向けて、すべての人に快適で健康な暮らしをお届けする。それを見据えて、2030年までに「きれいで快適・健康な暮らしの実現」、「社会・地球環境への貢献」をしっかり実現していく、ということです。

「TOTO WILL2030」を策定する前には「TOTO WILL2022」という単年計画の積み上げによる5カ年の中期経営計画を立てていました。しかし、度重なる自然災害や新型コロナウイルスのパンデミックなど環境変化が激し過ぎて計画を変更せざるを得なくなり、足下から一つひとつ精緻に積み上げていくやり方より、当社が目指す姿を実現するためにはバックキャストして今何をすべきかを考えようと、発想を変えてつくり上げたのが「TOTO WILL2030」です。

当社は1917年創立でこの5月から107年目に入るのですが、創立当時から一貫して、健康で文化的な生活を提供することで社会の発展に貢献するという創立者の意志を受け継いで企業活動を続けてきた経緯があります。「どうしても親切が第一」から始まる創立者の思いを綴った書簡が、「先人の言葉」として代々の社長に受け継がれてきました。中には「良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体です」といった言葉も並んでいます。お客さまや社会のお役に立ちたいという創立者の思いの実現こそが当社の目指す姿であり、それを「TOTO WILL2030」の中で社内外に向けて指し示し、社会やお客さまが求める価値ある商品やサービスによってSDGsにも貢献していきます。

加藤 加藤

清田徳明社長が統合報告書のインタビューの中で、「TOTO WILL2030」の策定に当たり、グループ共有理念は「私たちの『心』の部分として、未来永劫、将来にわたって引き継いでいくもの」とする一方、「さまざまな変化に対して、『体』の動かし方を変えていかなければなりません」というお話をされていたのが印象的でした。この『体』に当たる部分が「TOTO WILL2030」というわけですね。 先ほど、計画の立て方をバックキャスティングの発想に変えたというお話をされていましたが、フォアキャスティング(「現在」を起点として未来を予測する方法)からバックキャスティング(「未来」の目指す姿を起点にそこから逆算して“何をすべきか”を考える方法)にアプローチを変更したことによって新たに見えてきたことがありましたら、お教えください。

山本 山本

「TOTO WILL2030」を策定したことで、当社が目指す姿が明確になりました。それは企業理念の実現であり、「TOTO WILL2030」では経営とCSRの一体化を図って当社グループの強みを活かした事業活動を推進しています。目先は事業部門ごとにさまざまな課題がありますが、それらを乗り越えた先、グループ社員が一丸となって目指すゴールが定まったことで、そこに向かって進んでいく体制が整ったと感じています。それが一番大きいですね。

企業理念がしっかり共有され、自ら動ける組織を醸成

加藤 加藤

なるほど。先ほども清田社長のメッセージのお話をしましたが、統合報告書の中でも社長メッセージは私たち投資家にとって非常に関心の高いコーナーです。その中で詳しく知りたいと思う部分が幾つかありましたので、この機会にご質問させていただけたらと思います。

その1つが、清田社長が「TOTOグループは企業理念がしっかり共有され、自ら動ける組織」と評していらしたことです。投資家としては、ここは大変重要なポイントです。なぜなら、環境・社会の課題が、今、企業が成長するための前提を揺るがしている中、企業理念(企業固有の判断軸)を従業員一人ひとりが理解し、その理念を軸に自律的に判断し、自発的に行動に移せる組織は“変化”への対応力が高いと思われるからです。「TOTO WILL2030」で目指すゴールが定まったとして、では、そこに至るために、従業員の方々がどのような思いを持って取り組んでいらっしゃるのか。そして、そもそもですが、自ら動ける組織をどのように築かれてきたのかについても詳しくお聞かせください。

山本 山本

そうですね。当社は2004年に企業理念を体系化した後、社内教育などを通してグループ社員への企業理念の浸透に粛々と取り組んできた歴史があります。2007年からは、それによりグループ社員の意識がどう変わったかという調査(TOTOグループ社員意識調査)も毎年実施し、経年での変化をチェックし対策を講じています。

さらに2008年からは「TOTO Way」(TOTOで働くすべてのグループ社員が、TOTOがどんな会社かを知り、TOTOらしさとは何かを考え、仲間と語り、共有していく活動)というプロジェクトも行ってきました。今在籍しているグループ社員の大半は、こうした活動を通して当社の理念の理解が進んでいます。加えて、グローバル展開する中で、海外のグループ会社には理念を現地語訳して共有し、外国人ローカル社員にもTOTOのDNAの浸透を図っています。

加藤 加藤

清田社長は「理念教育にはさまざまな方法があると思いますが、私たちの先輩たちは、常にそれに基づいた行動をとり、背中を見せて教えてくれました」ともおっしゃっていて、TOTOのDNAと共にそうした伝統も受け継がれ、自発的な行動が当たり前であるという企業風土を築いてこられたのかなと推察します。

社長メッセージに戻りますと、「3年目に向けて最も重要なのは『スピード』です」、「私たちが目指すのは、2030年に向けてしっかりと企業理念を体現していくこと」とあり、目指す姿に向けていかにスピードアップしていくかが課題と理解しました。同時に、「会社全体の力量というのは個々の力の総量で成り立っていますので、個々の能力を磨いていくというのは非常に重要です」と指摘されていて、これも、おっしゃる通りと思った次第です。投資家としては、こうした課題に向け、会社としてどのように取り組んでいかれるのか、どのような仕組みを考えていらっしゃるのかもおうかがいしたいですね。

山本 山本

当社では毎年3月末、対外的な発表を行う前に社内の方針発表会を実施しています。部門長全員が一堂に会し、社長方針から各事業セグメント毎の方針など新年度の経営・事業方針を約半日かけて説明する会合です。ここ数年は、コロナ禍で海外のグループ会社の責任者は来日できていませんがリモートで参加しています。その後各部門長はその内容を受けて自部門の方針に展開するのですが、当社ではそうした方針の展開の徹底を以前から非常に丁寧にやっておりまして、それが最終的には個々のグループ社員の業績目標などに落とし込まれています。

仕組みという意味では、会社の方針をグループ社員の行動に反映させていくために、今どういう課題があって、それに対して何をしていくかといった目標を上司と共に設定する形になっています。その進捗状況や新たに生じた課題については、月1回開催される部門長が参加する全体会議や取締役会・経営会議等でも共有されます。

PDCA(Plan、Do、Check、Act)サイクルが回る中で経営陣を含めて社内で共有できる仕組みが出来上がっていることが、グループ社員の自発的な行動につながっているように思います。また、2010年からは毎年各取締役が分担して海外を含む全拠点を訪問し、グループ社員と直接対話する双方向でのコミュニケーションも継続しており、このような活動も一助になっているものと思います。あとは、今仕組みとしてまわしているこれらの活動そのものの質をさらに高め、スピードを速めていくことですね。

きれいと快適、環境が両立した「サステナブルプロダクツ」

加藤 加藤

企業理念というしっかりした基盤がある上でPDCAサイクルがうまく回っていて、今後はそれをさらにスピードアップして目指す姿に向かっていく、ということですね。今のお話で理解が深まりました。そうした中で、投資家としては、企業理念を実現していくことがどのように業績成長や企業価値に結び付いていくのかも気になります。統合報告書の中に書かれているように節水性能の高い快適に使用できる製品を提供していけば、水資源の枯渇問題に対応し、かつ御社の製品はグローバルで普及し業績も伸びていく。理念と企業価値の向上、両方の実現が可能になります。

山本 山本

「TOTO WILL2030」の中で「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」という3つのマテリアリティ(重要課題)を掲げていますが、これらについては事業所からのCO2総排出量削減などのKPI(重要業績評価指標)を「TOTOグローバル環境ビジョン」として様々設定し推進しています。きれいと快適、環境が両立可能な当社の製品を「サステナブルプロダクツ」と定義し、今、グローバルに広げていくことを目指して活動を推進しています。

その1つが超節水便器です。当社には長期間ご使用いただける製品が多く、便器の場合は平均使用期間が20年にも上ります。今、日本ではリフォーム期を迎えている20年少し前に発売した便器だと、1回の洗浄水量が8リットルくらい。これに対し、サステナブルプロダクツの最新製品は3.8リットルや4.8リットルが主力になっています。この20年間でさまざまな技術革新があり、洗浄水量はどんどん少なくなってきています。

加藤 加藤

それは画期的ですね。洗浄水量を劇的に減らした技術革新についてもお教えください。このインタビューをお読みの読者の方にも関心の高い話題かと思います。

山本 山本

住宅のトイレの場合は、便器の配管から下水まで汚物を流し出す必要があります。そこでの水の勢いが落ちないようにしながら、いかに使う水の量を減らしていくかが技術を要するところです。こうしたノウハウは刻々と着実に進化してきました。便器の洗浄については、例えば当社の「トルネード洗浄」だと、トルネード水流で便器全体をぐるりと渦を巻くように力強く洗い流すことで少ない水量でもきれいに洗浄することができます。また、便器の表面をナノレベルまでツルツルに仕上げた「セフィオンテクト」も少ない水を効果的に使うには欠かせない技術となっています。

加藤 加藤

素晴らしい。TOTOさんの技術力ですね。

山本 山本

ありがとうございます。海外では国や地域によって1回の洗浄水量が6リットル以下とか4.8リットル以下といった規制があるので、そこにしっかり対応しながら、きちんと汚物が流れ、お客さまに満足していただける製品でなければなりません。トイレに限らずシャワーなども含めた当社のサステナブルプロダクツの価値をグローバルで認めていただき、普及させていくことで、商品使用時のCO2排出量をできる限り少なくしていけたらと思います。

新戦略STAGE2へとつなぐ2023年度が重要

加藤 加藤

海外の話が出ましたが、グローバル展開をする中でTOTOさんのDNAを海外の従業員の方々にも浸透させていくご苦労とか、難しさを感じたことがあったら教えていただけますか?

山本 山本

当社の場合は製品は輸出ではなく、現地生産現地販売(地産地消)をベースに海外展開しています。中国であれば、中国大陸の中で生産した商品を現地のお客さまに販売するという形です。日本のTOTOでなく現地の会社としてなくてはならない会社になることを目指しているわけですが、現状ではまだ海外のグループ会社も出向した日本人が社長を務めています。ですから、出向者が現地のローカル社員に当社の理念を根付かせる役割を担い、今回新たに「TOTO WILL2030」がスタートしたので、それを受けてTOTOはこういうところを目指している、その上で自分たちはどうなりたいのかという目標を会社ごとに設定しています。

グループ会社毎に任務の違いや、国や地域による考え方の違いがあって難しい面はありますね。加えて、当社の海外事業の歴史とか、TOTOブランドの現地での認知度などによっても変わってきます。ハイブランドとして現地のお客さまに認知されている国や地域がある一方で、ホテルや空港等のランドマーク的な物件への採用によるブランド認知活動から始めている国や地域もあるわけですから。

加藤 加藤

なるほど、国や地域による違いはそれぞれにあると。加えて、現地でTOTOブランドが認知されている地域と、これからの地域によっても差があるということですね。さて、そろそろお時間も迫ってまいりましたので、最後に、これまでの取り組みへの評価や、既にお話しいただいていることもあるかと思いますが、改めて、今後の課題として認識されていらっしゃることがありましたら、お聞かせください。

山本 山本

2021年度から2023年度は「TOTO WILL2030」のSTAGE1という位置付けで、今はその中の課題解決を進めているところです。2024年度からはSTAGE2となり必然的にさらにレベルアップしていく形になると思いますが、その橋渡しとなる2023年度がSTAGE1の集大成として大変重要になると考えています。目指すゴールとそこに至る一つひとつの課題は見えているわけですから、それに向けた対策を確実に打っていくことに変わりはありませんが、事業が拡大して幅広になったり深化したりする中で、そこにしっかり対応できる人財育成や組織づくりをしておく必要があります。

加藤 加藤

ゴールに向けたステージのお話をいただきましたが、2030年や2050年といった長い時間軸をどのように進んでいくのか。より具体的には、目指すゴールを実現していくために、誰がどのように環境や社会の課題解決にも取り組みながら、経済的な業績成長を続け、将来世代につないでいくのか、このようなストーリーは私たち投資家が非常に気にかけている部分です。目指す姿や将来の経営計画については理解できても、そこから2030年、2050年に向けてどのような道を辿っていくのかが問われる開示事例もある中で、御社はSTAGE 1、その次のSTAGE 2というストーリーを明確に描いていらっしゃいます。あとは清田社長がおっしゃっていたように、スピード感を上げて、どのようにブラッシュアップされていくのか、今後の進展が楽しみです。だからこそ、折を見て今後もこのような機会を設けていただけると幸いです。本日はお忙しい中をありがとうございました。

三菱UFJ信託銀行
アセットマネジメント事業部
責任投資ヘッド・加藤正裕

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行含め、国内外の運用関連部署でアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2005年から責任投資に従事。国連「責任投資原則」日本ネットワーク共同議長として責任投資の普及・推進に尽力、個人および年金向け責任投資プロダクトの開発、国内外株の議決権行使・エンゲージメント実務にも携わり、近年はグローバルなESG・機関投資家の動向調査等をロンドンで担当。2019年より現職。

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