コラムVol.6 投資の本質とは-投資と投機の違いを知る-

2016年9月15日
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神戸 孝 (かんべ たかし)
早稲田大学法学部卒業。1980年、(株)三菱銀行入行、イマジニア(株)の設立に参画後、1987年日興證券(株)入社。以後一貫してFPサービスを中心とするマーケティング手法の企画・開発に携わる。各種マーケティング用ツール及びシステム開発、商品開発、各種講演会・研修会講師、新聞・雑誌等へのFP関連記事執筆等により、資産運用に強いFPとしての評価を確立する。
1999年、日興證券(株)を退社後、FPアソシエイツ&コンサルティング(株)を設立。独立系FPとして自ら個人・法人等のコンサルティング、各種講演会・研修会講師などを行う傍ら、全国の独立系FPのための支援ビジネスも展開している。

投機的な行為とは

ファイナンシャルプランナーとしてお客様のご相談を承っていて思うことは、投機的な行為を投資だと考えている方がたいへん多いということです。「今ならどれを買うべきか」という質問をよく受けるのですが、この場合ほとんどの方は無意識のうちに、「できれば手っ取り早く値上がりしそうなものを教えてほしい」という思いを抱いてしまっているわけで、知らず知らずのうちに短期スタンスでの商品選びを行おうとしていることになります。短期のスタンスで儲けようとすると、多くの場合、儲かる人の裏側には儲け損なう人が存在するゼロサム・ゲーム(注1)で、勝者になることを目指さねばならなくなります。「勝者になるためには敗者になりうることを覚悟しなければならない」ということであれば、投資がバクチに似た行為だと考える人がいても不思議ではありませんね。まるで格言のように人々が口にする「親の遺言でやるなと言われる株式投資」は、そういった投機的な行為を指すのだと思います。

  • (注1) 複数の取引参加者が取引をする中、全員の損益合計がゼロとなるような取引や状況のこと。一方の利益が他方の損失になること。

運用スタイルを考える

儲けよう、より大きなリターンを狙おうとすると、どんな行動をとることになるでしょう。「過去のデータを分析し、将来の相場の方向性を予想する。そしてどこかの時点で一番有望と思えるものをまとめ買いする」といったところでしょうか。何よりも重要なのは相場勘とタイミングということになります。「投機」というのは「機(機会、タイミング)に投げる」と書きますが、このようなまとめ買いは往々にして投機的な行為になってしまいがちです。なぜなら、行っていることを煎じ詰めれば、「勘と度胸でまとめ買い」ということになるからです。狙うべきはブレが大きそうな商品や、FX(注2)などのようにレバレッジ(注3)をかけることで人為的にブレ幅を大きくできる商品ということにもなりかねません。まとめ買いした後は、値段が気になってしかたなく、時には「祈り」たくもなるでしょう。

もちろんそれがうまくいくこともありますし、覚悟の上での勝負というのを否定するつもりは全くないのですが、「儲けたいとは思うが、それよりも損をしたくないと思う気持ちの方が強い、一般的な生活者」にはお薦めできません。特に退職金のように「失うと困る資金」については、「勘と度胸と祈り」が必要になるこんな運用スタイルは御法度といえるでしょう。

  • (注2) 外国為替証拠金取引(Margin Foreign Exchange Trading)。
  • (注3) はじめに取引会社に自分のお金を証拠金として預け入れること。手元の資金(取引保証金)の何倍もの金額で取引が出来る。

「投機」より「投資」を

このような投機的な短期売買ではなく、長期投資こそが個人投資家の王道と言われる理由を考えてみましょう。一般的に、値動きのある商品の値段はさまざまな市場(マーケット)で決まります。マーケットには多くのプロ(証券会社や金融機関、機関投資家、投資信託などを運用するファンドマネージャーなど)が参加しています。ゼロサム・ゲームで、個人投資家がプロに打ち勝つのはなかなか難しいでしょう。短期売買での勝敗を分けるのは、情報量、情報の分析力、資金量、注文執行のスピード、そして運といった要因だからです。前の4つについてはプロの方が優位、ということになると個人投資家はどうしても「運頼み」となってしまいがちです。

余裕資金で前もって投資

しかし、長期投資ならば個人投資家がプロに打ち勝つ、あるいはプロと共に勝者となることも難しくなくなります。なぜなら個人投資家には、期間損益を問われる立場のプロが持っていない「時間」という強みがあり、投資対象自体の価値が増すのを待つことができるからです。投資対象自体の価値が増せば、それを保有している人すべてが勝者になることも可能です。この強みを活かして、将来価値が高まりそうなもの、時期はわからないがいつかは値上がりしそうなものに、余裕資金で前もって投資しておけばいいわけです。

投資の本質は成長にある

「投資」というのは「資(資産、財産、価値あるもの)に投げる」と書きます。つまり将来価値が上がりそうなものを探すことが重要なのです。「今なら何が」ばかり考えていると、どうしても投機的な行為につながりがちです。もう少し長い目で見て、「将来有望そうなもの(プラスサム(注4)になる可能性が高そうなもの)に自分の資金と時間を投じる」というスタンスで投資対象を探すことが最も重要で、「投資の本質は成長にある」と肝に銘じてください。投資対象が成長してプラスサムとなるためにはそれなりの期間が必要になります。それが個人投資家の王道は長期投資だと言われる最大の理由なのです。

  • (注4) 株式市場全体が成長し続ければ、取引参加者全員が利益を得るという状況。全体が拡大することにより、各部分もそれぞれ同時に拡大し得る環境。

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