コラムVol.130 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 「借金」はしたくない?

2021年12月10日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

「借金」はしたくない?

2021年10月に行われた衆議院議員総選挙の際、あるニュース番組で、学生の有権者が各党の党首に質問をぶつけるコーナーがありました。「コロナで大変だから給付金を配ると言いますが、その財源はどこから出ているんですか? 日本は借金大国だそうですね。借金のツケは将来、私たちに回ってくるんじゃないですか?」。

若い世代は政治に無関心と言われますが、とんでもない。大物議員の方々を前に、臆せず核心を突く姿はお見事と感じました。

では、そもそも日本の借金(債務残高)がどれくらいあるのかご存じでしょうか? 国債や借入金、政府短期証券などを足した借金の合計額は、2020年度末時点でなんと1216兆4634億円にも上っています。100万円の札束で12億個以上、想像もつきませんよね。そこで、この金額を日本の総人口で割ると、1人あたりの負債はざっくり1000万円弱になります。「1000万円の貯蓄もないのに、国から1000万円の負債を背負わされるってどういうこと?」という捉え方もされかねず、若い世代ほど理不尽に思うのも無理はありません。

選挙の前には、財務省の事務次官が月刊誌への寄稿を通して異例の意見表明を行い、コロナ禍での経済政策を巡る政策論争を「ばら撒き合戦」と強く批判、「このままでは国家財政は破綻する」と訴えました。時期も時期だったことから、この行動には賛否両論があったようです。とはいえ、筆者の取材先の金融関係者の間では、「正論を言っただけなのに気の毒」と事務次官を擁護する声が圧倒的多数を占めました。

日本人は長らく「借金嫌い」と言われてきました。米国人が収入を上回る消費に躊躇しないのに対し、日本ではマイホームの購入ですら5人に1人は「全額キャッシュ」だと言います。

しかし、そんな気質が少しずつ変化してきているように感じています。

例えば、低金利でお金が余っているせいか、ローンを組んで不動産投資をする人が増えてきました。賃貸物件の経営というと、ひと昔前ならリタイアしたシニア層が主役でしたが、今、ワンルームマンションの世界では若い世代の“サラリーマン大家さん”が目立ちます。

筆者の知り合いにも、億単位のローンを組んで副業でワンルームマンション経営をしているサラリーマンがいます。一流企業勤務でやり手ではありますが、役員でも、部課長級でもありません。

素朴な疑問は、「普通のサラリーマンが、そんなに巨額のローンを組めるの?」ということでしょう。

現実問題、今は組めるのです。最近、売れっ子の芸人なのに住宅ローンの審査が通らなかったという話題がネットニュースを賑わせていましたが、それは彼らがフリーランス(残念ながら筆者もその一人です)で長期に渡る返済が不安視されたから。しかし、会社員、とりわけ上場企業などに勤務する人の信用は、本人が考えている以上に大きいのです。

ワンルームマンションの業者に取材をした際、顧客にどんなアプローチをするか尋ねたところ、「あなたの信用をお金に換えませんか?」というセールストークを教えてもらいました。自尊心をくすぐる実にうまい言い回しだと、思わず膝を打ったものです。

前述のサラリーマン大家さんと投資話をした際、その人は「以前なら手元にまとまった資金がなければ不動産経営はできなかった。けれど、今なら史上最低水準の金利で十分な融資が受けられる。このチャンスを逃がす手はない」と熱く語ってくれました。

それは、その通りかもしれません。しかし、多額の融資を受けて賃貸物件を購入するということは、@融資が返せなくなるリスク、そしてA賃貸経営が立ち行かなるリスクをダブルで背負うことを意味します。思い浮かぶのは、昭和のバブル期にイケイケドンドンで手を広げ、バブル崩壊で借金を返せなくなって自己破産した投資家の方々です。

「あの頃とは事情が違うだろう」と思うかもしれません。しかし、因果、いえ景気は巡るのです。米国や欧州からはぼちぼち「利上げ」という言葉も聞こえてくるようになりました。日本だって、いつまでもゼロ金利と異次元の金融緩和を続けているわけにはいかないでしょう。

誤解しないでいただきたいのは、ローンを利用した不動産投資が「悪」だと決め付けているわけではないということです。株式投資の世界でも、日常的に結構なレバレッジを利かせて運用している個人投資家が一定数います。ただ、それで成功している人は、自分の投資知識や経験などから、突発的な事態にどう対応すべきかが分かっています。

要は、リスクに対処できる投資であれば問題ありませんが、いざという時に手も足も出ない可能性が大きいのなら、最初からやらない方がいいと思うわけです。

さて、財務省などの資料によると、日本の借金は国家の経済規模を表すGDP(国内総生産)の200%をゆうに超えており、この数値は先進国の中でも突出しています。一方、コロナ禍のばら撒き政策でその日本に迫る勢いで借金を増やしたのが米国です。

米国の財務省が10月に発表した2021会計年度(2020年10月〜2021年9月)の財政赤字は2兆7720億ドル(約316兆円)と前年度に次ぐ過去2番目の高水準になっています。IMF(国際通貨基金)による2021年10月時点の推計では、政府総債務残高は30兆5748億ドル(約3486兆円)、GDP比で133%強まで積み上がりそうです。

ただ、日本と少し違うのは、バイデン政権が財政健全化を目指して増税を模索していることです。ライバルの共和党は「増税なんて絶対反対!」のスタンスなので、一筋縄ではいかないと思われますが。

「米国がくしゃみをすると日本が風邪を引く」と言われるくらい、米国経済が日本経済にもたらす影響は深刻です。崩れたバランスシートをどう修正するのか、FRB(米連邦準備理事会)の金融政策ともども注目したいところです。

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