コラムVol.151 超円安下の株式投資について

- 根本 浩之 (ねもと ひろゆき)
- 1985年東洋信託銀行(当時)入社。1986年以降19年間、主に内外債券、転換社債のファンドマネジャーとして年金運用業務に従事。
また、2022年3月まで8年半、プライベートアカウント(投資一任運用)のポートフォリオマネジャーとして、個人のお客さま向けに資産配分の提案や運用管理、運用報告等を担当。
インフレ・超円安下ではどちらに投資すればよいのか?
今年に入ってからの円の急落もあり、投資先に迷っている方も多いのではないでしょうか。同コラムVlo.146「マネーライターの取材裏話『インフレマインド』になる!」(2022年7月12日)で森田さんは、「長期的な視点でインフレに強い株式投資、DC(確定拠出年金)やiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入しているならMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)やTOPIX(東証株価指数)に連動する投資信託の比率を高めておくのもいいかもしれません」と指摘しています。円の急落に伴い、両者のどちらに投資するのか、あるいはどちらの比率を高めるのかは重要な意味合いを持ってきていますので、一度立ち止まって考えてみたいと思います。
昨年から既に海外株式投資は超活発化!
国内の投資信託を経由した海外株式への投資額は2021年に8兆3000億円に膨らみ、国内株式への投資額(280億円)の300倍近くにのぼったようです。これは、資本効率などで優れる海外企業を選好しているためで、家計の資金が海外に逃避する「キャピタルフライト」の気配もあるそうです。また、2022年1〜6月の公募投信(上場投信除く)の純資金流入額は約4兆円と過去4番目の大きさで、資産別では外国株で運用する投信には4兆2000億円が流入。6月の資金流入が最も多かったのは米S&P500種株価指数に連動する投信だったということで、今年前半も海外証券投資に拍車が掛かった動きに衰える兆しはなさそうです。
今年前半の運用成果は?
ただ、今年前半の地域別・国別収益率比較【図表1】では、米国中心にドルベース(各棒グラフ)での株価下落が顕著となる中、円ベース(各ひし形のドット)では円安・ドル高の為替効果により下落幅が限定的となっています。端的に言うと、株価ではマイナスになってしまっているけど、為替のプラスで一部補っている状況です。
また、日本の株式(真ん中の棒グラフ)は、海外株式に対して、ドルベース(各棒グラフ)と比べて小幅な下落に留まったため、円ベース(各ひし形のドット)と比べても見劣りしない結果となりました。

出所:Bloomberg、IF、JP Morgonより三菱UFJ信託銀行作成
MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)とは?
ACWIとは、世界の先進国・新興国の株式で構成されており、日本を含めた国別の組入れ比率は図表2の通りになります。

出所:MSCIより三菱UFJ信託銀行作成
日本の時価総額比率が5%台という低さには驚きを隠せませんが、図表3の通り、世界全体に占める日本の名目GDP比率を参照すると納得せざるを得ません。

出所:IMF等より三菱UFJ信託銀行作成
つまり、このインデックス(ACWI)に連動する投資信託へ投資するということは、少なくとも投資額の95%程度について為替変動リスクを負っていることになります。
外国株式投資においては、長期的には株価変動要因が為替変動要因を上回り、あるいは両者の要因がある程度相殺されることを前提に、外国債券投資とは異なり、為替変動要因だけを別個に抜き出して考慮しなくても良かったかもしれません。しかし、流石に今年前半のように、円独歩安の動きで、円に対して値上がりしていないのが唯一インフレ率70%超のトルコリラだけのような極端な状況では、為替の歴史的水準感等の把握も重要となってきます。
ドル円レートを購買力平価で見てみると
為替レートの水準感というと、購買力平価(PPP)との比較が思いつきますが、この計算方法(説)にも、@絶対的購買力平価とA相対的購買力平価があります。

@は、ビックマックの価格比較(日本で390円、米国で5.81ドルとすると、390÷5.81=67.13円が購買力平価)のように現時点の2国間の通貨の購買力によって、Aは、過去の内外不均衡が十分小さかった一時点を起点に2国間の物価上昇率の比によって、それぞれ為替レートが決定されるとしています。
ここでは、水準感の把握し易さの観点から相対的購買力平価との比較をしてみますと、図表4の通り、日米の物価上昇率の違いから足元のPPPは円高ドル安を示しているのに反し、実勢相場は円安ドル高に動いています。
さらに、1985年9月のプラザ合意(ドル高是正)以降の実勢相場は、どちらかというと輸出物価PPPや企業物価PPPに沿って推移してきましたが、今局面は消費者物価PPP対比でも大幅な円安ドル高に乖離し、プラザ合意以前の2回を含め、3回目の歴史的な円安水準にあります。つまり、長らく続いた消費者物価PPP対比での大幅な円高ドル安への乖離状況が、やっと今年解消されて円安ドル高への乖離状況(輸出環境超有利)に至っています。

出所:公益財団法人 国際通貨研究所 より三菱UFJ信託銀行作成
ではどうすれば?
では、国内株式と海外株式の比率をどうすればいいのか?
世界経済全体の中長期の成長を享受するとの意味合いで、特に日本を特別扱いせずに、世界全体の時価総額ベースに沿って世界株式へ、あるいは比率が少ない日本株除きの海外株式へ投資するのも首尾一貫した方針であり、中長期の過去実績の運用成果が良かったのも抗えない事実です。
だだ、今年前半の為替変動は、日米の金融政策スタンスの違い等を反映して、前述のように歴史的な円安ドル高水準に至っています。同時に、昨年から今年前半に掛けての国内株式をスルーした海外株式投資は、ブームといっていいほどの超活況を呈しています。まさに、一部で呟かれ始めているように「インベスト・イン・キシダ」ならぬ、「インベスト・イン・バイデン」が絶賛進捗中の状況にあります。
前述の「キャピタルフライト」(資産逃避)の可能性も全くないとはいいきれませんが、今回の超円安は、基本的に日米の金融政策のコントラストがもたらしたもので、短期的には兎も角、中期的には政策スタンスの変更とともに、反転リスクも意識されてくると思います。また、約40年振りの輸出環境超有利の状況にあり、多少の円高でも輸出環境有利の状況に変わりがないことやコロナショック以降の日米相対株価での米国優位の展開が一巡しつつあること、さらには「人の行く裏に道あり花の山」「灯台下暗し」の意味合いでも、ジャパンマネーがスルーしている国内株式について、様々な面で変わり目のこの機会に一度保有比率の見直しを(岸田さんに倣って)『検討し』、実践してみてはいかがでしょうか。