コラムVol.209 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと FRB、日銀…マーケットを動かす「中央銀行」を深掘り

- 森田 聡子 (もりた としこ)
- 早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。
「唯一の発券銀行」「銀行の銀行」…幾つもの顔を持つ特別な銀行
米国株のみならず日本株の投資家にとっても目を離せないのが、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の動向です。利上げや利下げといった金融政策はもちろん、その金利見通しや議長、理事などの発言が相場に与える影響力が甚大だからです。近年は日本でもゼロ金利政策が解除され、日本銀行の総裁会見や金融政策決定会合への注目度が高まっています。
中央銀行については社会科や現代社会の教科書にも出てきて何となく分かっているつもりでも、説明してと言われると困ってしまう。そんな方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、中央銀行の役割や最近の中央銀行をめぐる出来事などに触れていきたいと思います。
中央銀行は、国や地域の金融システムの中軸となる特別な銀行で、幾つもの顔を持っています。具体的には、「唯一の発券銀行」として独占的に通貨を発行します。加えて、「銀行の銀行」として市中銀行から預金を受け入れたり、「最後の貸し手」として融資をしたりします。さらに、「政府の銀行」として国の資金管理や国債事務も担っています。
こうした業務以外に中央銀行が果たす重要な役割が、物価の安定や経済成長の実現を目指して金融政策を決定、実行することです。金融政策を通じて通貨の価値の安定に責任を負う立場であることから、「通貨の番人」とも呼ばれます。
日本は日本銀行、EU(ヨーロッパ連合)はECB(欧州中央銀行)、イギリスはイングランド銀行、中国は中国人民銀行、ロシアはロシア連邦中央銀行が、それぞれの国家・地域の中央銀行となります。
アメリカにはFRS(連邦準備制度)という中央銀行制度があり、ニューヨーク、ボストン、シカゴなど主要都市にある12の地区連邦準備銀行と連携しながら運営されています。FRSの中央組織としてアメリカの金融政策を司るのがFRBです。FRBが金融政策を策定するために開く会合がFOMC(連邦公開市場委員会)で、日銀の金融政策決定会合に相当します。
大量に保有するETFの売却に苦慮する日銀
ただし、日銀とFRSには決定的な違いがあります。それは、日銀が日本の中央銀行として金融政策の決定から市場でのオペレーションまでを一貫して行うのに対し、FRSでは政策決定はFRBが行い、実行は地区連銀という役割分担がなされていることです。
日銀には、オペレーターならではの悩ましさもあるようです。
たとえば、日銀はこれまで積極的にETF(上場投資信託)を購入し、日本企業の“影の大株主”として市場を支えてきました。とはいえ、中央銀行が自国企業の株式を大量保有する状態は決して好ましいものではなく、金融政策の転換もあって、26年1月からETFの売却を開始しています。ところが、保有残高は減りこそすれ、それをベースに算出した推定時価は25年末時点の約91兆円から、26年6月末時点には約112兆円へと逆に増えています。
日銀がETFを通じて間接的に保有する株式は、半導体関連など26年の相場を牽引してきた銘柄ばかりです。日経平均株価が史上初めて7万円を超えた中で、こうした銘柄の騰勢が強すぎるあまり、日銀の売却分が相殺されてしまったのです。日本の株高は本来歓迎すべき事態なのに、なんとも皮肉な話です。
現在のペースだとETFをすべて売却するのに100年以上かかると言われ、市場関係者からは「もっとペースを上げてもいいのでは?」という声も聞こえてきます。そうは言っても、中央銀行だけに、相場の先行きが不透明な中で売却ペースを上げて市場を混乱させてはいけないという配慮もあるはずです。日銀がこの先、ETFの売却を加速していくのかどうかは、株式市場の今後を占う意味でも要注目です。
日米現政権下で問われる中央銀行の独立性
昨今、日銀とFRBが直面しているのが、金融政策決定機関としての独立性の維持という大きな命題です。
FRBはアメリカ連邦政府から独立した存在であり、独自の政策決定を行っています。一方の日銀も、1998年の改正日本銀行法で金融政策の独立性や業務運営の自主性を明確にしています。しかし、日米ともに現政権下で政治介入リスクが高まっています。
高市政権は、需要を喚起して物価と賃金を同時に上げていく「高圧経済」政策を推進してきました。その前提となるのが「低金利」です。日銀の利上げに慎重な姿勢は政権の圧力によるものという憶測が広がり、26年には政権への不信感からたびたび長期金利が急上昇する局面がありました。結果、政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に日銀の独立性を書き加えるという極めて異例の措置を取ることになりました。
アメリカではトランプ大統領がパウエル前議長時代にFRBとの対立を深めました。トランプ大統領は就任直後から公然とFRB批判を繰り返し、自身の経済政策が有利に運ぶよう利下げ圧力をかけてきました。パウエル前議長がそれに応じないと見るや、昨年夏にはバイデン前大統領が指名したクックFRB理事に住宅ローン契約時に書類を偽造したとして解任を通告します(アメリカの最高裁は26年6月末に解任を認めない判決をくだしました)。FRB本部の25億ドル規模の改修工事に関してアメリカの検察当局が捜査を行ったことも、パウエル前議長は「FRBに対する脅迫と継続的な圧力だ」と反発しています。
トランプ大統領はパウエル前議長が26年5月に任期を終了するにあたり、自ら後任候補と面接し、最終的にウォーシュFRB理事(当時)を指名しました。投資銀行出身のウォーシュ氏は共和党寄りの思想を持ち、パウエル体制下のFRBの金融政策に批判的でした。ウォーシュ新議長の就任宣誓式はトランプ大統領が主宰し、ホワイトハウスで盛大に催されています。
とはいえ、退任後も理事として残るパウエル前議長に加え、クック理事などインフレを警戒して早期の利下げに消極的な意見も根強く、ウォーシュ議長がトランプ大統領の意向に沿う方向に調整するのは簡単なことではありません。実際、ウォーシュ新議長は7月に下院で行われた就任後初の議会証言で「高インフレを容認しない」とし、トランプ大統領の圧力に対しては「すべてを把握したうえで扉を閉ざし、最善の判断をくだす」と話しています。
日銀はFRSよりも政治の影響を受けやすい?
世界で最も影響力の大きい中央銀行であるFRSは、市場からの信認を支えに政治からの独立を維持し続けているように見えます。一方で、日銀は法律上、政府の経済政策の基本方針と整合的になるよう政府と十分な意思疎通を図ることが求められ、総裁や副総裁、審議委員の任命権も内閣にあることから、完全に独立した存在として機能するのは難しいように思われます。
実際、高市政権が金融緩和と財政出動に積極的な審議委員2人を任命したことで、「首相主導か」と疑義を呈す声が上がりました。政治の介入によって本来の物価安定化の機能が働かない状態になると、その国の通貨への信認が失われ、過度の通貨安や長期金利の上昇を招いてしまう可能性があります。足下では日本でもアメリカ同様、インフレの進行による弊害が顕在化しており、日銀には速やかな対応を期待したいところです。
年後半にかけては、FOMCが3回(9月・11月・12月)、日銀の金融政策決定会合が3回(9月・10月・12月)予定されていて、政策金利の動向も気になります。
