コラムVol.208 知って得する確定拠出年金 第11回 iDeCoとNISA、どちらを選ぶ?DC資格喪失後の資産形成を考える

- 日下部 朋久 (くさかべ ともひさ)
- MUFG資産形成研究所長。1986年三菱信託銀行(当時)入社。年金数理、年金ALM、退職給付コンサルティングなど、幅広く年金業務に従事。企業年金基金、健康保険組合等を経て、2022年4月より現職。年金数理人。日本アクチュアリー会正会員。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。1級DCプランナー。
DC(企業型確定拠出年金)を60歳で資格喪失するが、まだまだ元気なので資産形成を続けたいと考えている方、前回のコラムではiDeCoに加入という選択肢を説明しましたが、NISAで投資するという方法もあります。iDeCoの優位性と留意点、そしてNISAをどう使っていくのか、数値例で考えていきましょう。
iDeCo、NISAどちらを利用するか、判断の決め手は、税制、拠出限度額、流動性、投資対象などであり、ご自身の状況によって異なります。ここでは西川ひろみさん(仮名)の検討状況をご覧いただき、ご自身に当てはめてみましょう。
西川ひろみさんのプロフィール
60歳 定年退職と同時にDC制度も資格喪失しました。
| 項目 | 金額(評価額) | 備考 |
|---|---|---|
| 退職一時金(預金) | 1,000万円 | 受給時に退職所得控除すべて利用 |
| DC(投資信託) | 1,000万円 | 加入期間はすべて勤続期間と重複 |
| NISA(投資信託) | 1,000万円 | 投資元本800万円、投資枠残1,000万円 |
| 定期預金等 | 生活防衛資金 | 投資には回さない |
今後の予定:再雇用で65歳まで働き(年収600万円)、65歳以降は公的年金と上記3,000万円を元手に増えた資産を使いながら生活、足りなければ少し働くつもりです。
第1の選択
まずは、65歳まで運用をするかどうかの選択です。ひろみさんは、不測の事態で給与収入が途絶えた場合でも数カ月は耐えられる生活防衛資金は別途確保しているので、資産運用リスクを承知で退職一時金も含めて運用を継続することとしました。
他の選択肢として、老後資金は3,000万円で十分と考えるなら、運用をやめるという選択、あるいは中をとって退職一時金部分は定期預金にして、他の部分は運用を継続するという選択などが考えられます。
第2の選択
ひろみさんは運用を継続としましたので、今あるDCとNISAはそのまま運用を継続することにします(DCはiDeCoに移換します)。そして退職一時金として受け取ったキャッシュ1,000万円をiDeCo、NISAを利用して運用をしたいと考えています。さてどちらをどう利用すれば良いでしょうか?
ではここで、選択にあたって考慮すべきiDeCoとNISAの違いを一覧表で見てみましょう。
| 項目 | iDeCo | NISA |
|---|---|---|
| 年間拠出上限 | 最大74.4万円(2026年12月改正以降) | 360万円(累計で1,800万円) |
| 拠出時の税制 | 掛金全額が所得控除 | 控除なし |
| 受取時の税制 | 課税(退職所得控除・公的年金控除の適用可) | 非課税 |
| 受取時の制約 | 60歳以降、一時金・年金・併給から選択 | 特になし(一部売却も可) |
| 手数料 | あり(口座管理費等) | 基本的に低コスト |
税制上有利なのはどちら?
両者とも運用益については非課税です。iDeCoの特徴は、拠出時に掛金が所得控除になり所得税等が減少する可能性があること、その代わりに受取時に一時金の場合は退職所得、年金の場合は雑所得として課税される可能性があります。一方でNISAの特徴は、所得控除はありませんが、受取時の課税もなく、非常にシンプルです。
ひろみさんの60歳から5年間は、給与所得がありますので、所得控除が得られるiDeCoのメリットが大きいと考えられます。そして65歳時に一時金を取得した場合は、退職所得として課税されますが、新たに5年の加入期間が追加されますので、退職所得控除が利用できます。これらの効果を計算例で見てみましょう。
①所得控除による効果
年収が600万円ですので、所得税率(復興税・防衛税※込み)を10.21%、住民税率10%と仮定します。iDeCoの掛金上限は2026年12月以降、諸条件によりますが年間最大74.4万円となります。ひろみさんはこれを最大限利用できるものとします。年間の税軽減額は744,000円×20.21%=150,362円、5年分で751,810円となります。
- ※防衛特別所得税が2027年1月より導入されます
②退職所得による課税
5年後に一時金を受け取った場合を考えましょう。新たに拠出した部分のみに着目します。運用がうまくいき、掛金総額74.4万円×5年=372万円に対して、資産残高が410万円まで増えたとします。退職所得控除を40万円×5年=200万円とすると※1、退職所得は(410万円-200万円)/2=105万円となります。
所得税率(復興税・防衛税込み)は5.105%、住民税は10%と考えられるため、税額は105万円×15.105%=158,602円となります。
- ※1正確には移換したDCの加入期間等を考慮して算定されます。DCの加入期間が20年以上あれば、70万円×5年=350万円(概算)となる場合があります。
③差し引き
単純な税制メリットの額は①751,810円-②158,602円=583,208円となり、一定のメリットがあるといえます。ただし、運用成果がさらに良い場合ですと、課税対象額が増加するため、税制メリットの額は縮小する傾向があります。一方で、①で得た税の軽減額を運用することでこのメリットを拡大することが可能です。
これと同じ積立額を同じ運用方法でNISAを利用すると、①所得控除と②課税がなくなりますので、③差し引きメリットは発生しません。
このように、所得がある程度あって所得控除が活用できる場合は、税制的にはiDeCoが有利となるケースが多くなります。一方でNISAが有利となるケースは、資産運用がかなり良い場合や、収入がない(もしくは少ない)ケースで、③差し引きがマイナスとなる場合です。このようなケースが想定される場合は、iDeCoは避けた方が良いことになります。
ただし、以下に示すiDeCoの活用方法をするのであれば、あえてiDeCoを利用した方が良い場合があります。
運用しない場合でもあえてiDeCoを活用する
少し話がそれますが、第1の選択で、もし運用をやめることにした場合の対応でもiDeCoが活用できます。1点目は、運用しない場合でも上記説明の③差し引きメリットが得られます。iDeCoの商品には預金等がありますのでそれらを利用すれば良いのです。2点目は、ひろみさんの場合、退職一時金の受取りに退職所得控除をすべて使っていますので、DCを一時金で受給する場合は控除のメリットが低下しています。
iDeCoに加入すると、加入期間に応じた退職所得控除を新たに得ることができます。5年間加入すると、退職所得控除は少なくとも40万円×5年間=200万円となります※2。まだ受け取っていないDC1,000万円(iDeCoに移換済)と一緒に65歳で受け取れば、退職所得控除が200万円使えるため、何もしないより税負担が減ることになります。
- ※2上記※1と同じ
NISAを併用しよう
運用する場合に話は戻りますが、もともと運用する新たな資金は退職一時金からの1,000万円です。iDeCoの積み立ては74.4万円×5年=372万円ですので、628万円残ってしまいます。また、5年かけて積み立てますので、平均すると、期間中に運用できている金額はその半分程度にとどまります。
そこで、NISAを利用して1,000万円すべて運用することを考えます。NISAも拠出限度額がありますが、ひろみさんは残枠が1,000万円あるので問題ありません。前詰めで運用を開始すると、1年目360万円、2年目268万円で628万円利用することができます。
ただし、上記方法では年間の限度額があるため累計額はすぐに1,000万円とはなりません。極力早く満額運用をしたければ、以下の表のようにNISAを最大限使い、残額があれば特定口座(課税口座)も利用すれば、当初から全額運用することが可能となります。そして、毎年のiDeCoの掛金およびNISAの積立金は特定口座・NISAでの一部売却(表中の△)で捻出します。
表を作るのは簡単ですが、実際オペレーションするのは労力が必要かと思います。ここまできっちりやるかどうかは検討の余地ありです。
資金の流動性や運営の手間を考慮しよう
ひろみさんの前提において、税制的には以上の方法が効率的と思います。ただ、60歳以降の生活設計や資金ニーズは予定どおりにはいかないものです。ひろみさんの場合は、一定額のNISA資産を保有することになるため対応しやすいものの、DCやiDeCoに資産が集中している場合では、予定外に取り崩しをする必要があっても、一時金の場合、細切れに引き出しができず、全額払い出しになってしまいます。資金の流動性、自由度を持つためにはNISAをあわせて活用すると良いと思います。
また、60歳以降、収入が比較的少なく、iDeCoに多くを拠出できない場合などは、税制メリットが小さくなる一方、手間や手数料がかかりますので、iDeCoではなくNISAに一本化してシンプルに運営するという考え方もできます。
お得にこだわり過ぎず、取り組みやすい方法を選択しよう
今回はひろみさんを前提にしましたが、みなさまの置かれている状況や今後の資金の利用方針によって、結論は異なるでしょう。特に65歳以降、資産を取り崩して利用する予定であれば、60歳代前半から運用割合を減らすなどの検討も必要になるでしょう。
運用で増やすことや税の損得ばかりにフォーカスするのではなく、老後資金をいつどのように使いたいのか、資産運用リスクにどの程度耐えられるのか、など具体的に検討することが大切です。
加えて、検討結果を実行に移すには相応に手間暇がかかります。計画はできても実行段階で挫折してしまうことが往々にしてあります。老後資金は活用できて初めてその目的が達成できます。自分にあった取り組み易い方法を選択しましょう。

