コラムVol.43 人生100年時代:「職業人生≒三毛作」の時代へ

2019年7月16日
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佐貫 総一郎 (さぬき そういちろう)
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、2級キャリア・コンサルティング技能士(国家資格)・産業カウンセラー。1981年、慶應義塾大学経済学部卒後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。個人財務相談、事務要員の算定、証券、年金、相続などのさまざまな業務を経験、支店次長、財形事務センター長などとしてマネジメント業務にも携わったのち、ライフプランセミナー講師を務めた。三菱UFJ信託銀行を退職後、オール・アセット・アンカー(株)を設立。ライフプラン・マネープラン・キャリアプランなどの支援や働き方改革の関連などでの執筆・セミナーなどで活動中。著書に『現場からはじめる働き方改革』(共著)(2019年3月発刊・金融財政事情研究会)がある。

生涯現役の職業生活

生涯現役が当たり前とも言われ始めています。70歳あるいは75歳への雇用義務の延長が検討されていますが、それは通過点でしかないはずです。人生100年時代においては、70歳あるいは75歳といった年齢以降も活躍のステージとして考えられます。まさに生涯現役です。
「働き方改革実行計画」の9つの検討テーマのうちのひとつ「高齢者の就業促進」についての本文・工程表の記載でも、「エイジレス」がキーワードです。

【本文の記載(一部抜粋):「働き方改革実行計画」の9つの検討テーマ より】
高齢者の就業促進のポイントは、年齢に関わりなく公正な職務能力評価により働き続けられる「エイジレス社会」の実現であり、これが、若者のやる気、そして企業全体の活力の増進にもつながる。

前回、人生のステージやトランジション(節目・転機)の自己選択についての意識や行動への準備がより重要になったと記載しました。特に職業生活の変化は大きなインパクトになることもあり、自身が獲得してきたものなどの確認、社会人(サラリーマン)生活の展望や次のステージへの準備等を常に考えておくことが必要になってきています。

二毛作・三毛作の職業生活とキャリア能力

「会社の退職=リタイア」という概念自体が変わりつつあり、「現役〜リタイア生活」といった従前の画一的なステージ変化はもはや主流でなくなりつつあります。生涯現役が当たり前との前提であれば、職業生活も二毛作あるいは三毛作が社会人(サラリーマン)の姿になるともいえます。
ところで、キャリア開発における職業能力でいえば、能力開発のステップが以下のように区分されています。

① ワークアビリティ(仕事をしっかりこなす力)を身に着けていくステップ
② 専門性や管理・経営など外でも通用する雇われる能力(エンプロアビリティ)を培うステップ

さらに、人生100年時代には、例えば、ソーシャルアビリティ(社会に寄与する力)・ライフアビリティ(人生を楽しむ力)といった力の発揮のステージも加わるとも考えられ、職業能力についてのステップも三毛作的なイメージになります。働き方改革でも追求されているワーク・ライフ・バランスにも通じるところがあり、その素地づくりは、今現在からの考え方や自身の対応次第になるはずです。

  • ソーシャルアビリティ・ライフアビリティについては、一般的に使用されている言葉ではなく筆者の造語です。

ライフステージとキャリア能力の発揮のイメージ

人生100年時代の社会人(サラリーマン)の職業生活について、ユングのライフサイクル(以下)に当てはめると、「少年期」を除く20年〜25年刻みのサイクル、すなわち、①「少年期」以降の「成人前期」②「中年期」③本当の仕上げの時期の「老年期」(人生の集大成の時期)の3つ段階に相当する「三毛作」のステージを考えることができます。

【ご参考:各段階の発達課題(再掲載)】
ご参考:各段階の発達課題

そのイメージを図にしてみたものが、以下「職業生活をユングの発達課題に重ねたイメージ」です。基礎的な能力や常識・マナーなどの一生涯高めていくようなものをベースにしつつ、年齢や職業・役割の変遷、精神的な成長、キャリア上の能力発揮といったものがある程度同期をとりながら三毛作になるようなイメージ(想定例)です。

【職業生活をユングの発達課題に重ねたイメージ】
職業生活をユングの発達課題に重ねたイメージ
  • ユングのライフサイクル理論については、前回のコラムの内容をご参照ください。

ただ、このような三毛作の職業人生でのトランジション(転機や節目)の時期や選択肢は人によりさまざまでしょう。雇用の流動化や更なる定年年齢の引き上げも検討され、転職や退職(いわゆるリタイア)というトランジションは、その目安や選択の幅がさらに変わりそうです。実際の自身の状況なども踏まえ考えることで、それぞれの職業人生のトランジションについて、その時期や選択肢などを自己選択していく際の参考になれば幸いです。

生きがい・働きがいという視点

さて、人生100年時代においての生きがいを考えるとき、特に職業生活での働きがいが大きな要素となります。昨今は、「仕事と生活は一体」「やりたいことを一生の仕事にする」といった考え方の人や生涯現役の準備等も含めた副業を認める会社も増えています。職業を通じての生きがいを重要な要素として考えるライフプラン(生涯の生活設計)やキャリプラン(職業生活の設計)が不可欠な時代ともいえます。
「生涯現役」は、仕事だけでなく、没頭できること、手応えを感じられることへの向き合い方とも考えられます。自分の力を注げるものや楽しみを得るもの、すなわち「生きがい」となるようなものを、仕事と呼ぶかそれとも趣味と呼ぶのかを、あえて考える必要もないという感覚が当たり前になるのではないでしょうか。ユングの「老年期」(人生の集大成の時期)は、卒業後ではなく仕上げの時期です。そのような意識で、自身の成長・発達のプロセスを実現しようとすること、それが人生100年時代の社会人(サラリーマン)像かもしれません。
来るべき変化など見据え、自身の「生涯現役」のあり様を考えることは、生きがい・働きがいという人生の張り合いを持ち続ける足掛かりになるはずです。

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