コラムVol.69 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 「ほったらかし」と「ピンチはチャンス」

2020年6月25日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

「ほったらかし」と「ピンチはチャンス」

新型コロナウイルスの感染拡大による株式市場の急落(コロナショック)から3カ月が経ちました。国際通貨基金(IMF)が「世界経済は1930年の大恐慌以来の悪化となる可能性が高い」という予測を発表するなど、コロナ禍の深刻な影響が浮き彫りになっています。
そうした中で、皆さんが不思議に感じているのが“有事の株高”ではないでしょうか。日経平均株価を例に取るなら、コロナショックからわずか2カ月ほどで2万円の大台を回復しています。2008年のリーマンショックの際に、株安の連鎖が止まらなかったのとは対照的です。

いくつかある要因の1つが、個人投資家の台頭だと言われています。若い世代を中心とする株式投資の未経験者が、コロナショックの株安をチャンスと見て続々市場に参入したのです。これは、コロナショック後のインターネット証券の口座開設数が急増していることからも明らかです。感染防止対策で在宅勤務化が進み、自由にできる時間が増えたことから、ちょっとした“お小遣い稼ぎ”と考えたのかもしれません。
その結果、新型コロナウイルス関連のバイオベンチャー株などの取引が活発化し、掲示板をのぞいてみると、お小遣いどころではない利益を手にした人もいるようです。
リーマンショック時には、「株価がみるみる下がっていくのを目のあたりにし、怖くて投資を止めてしまった」という話をよく聞きました。今、ビギナーズラックを手にしている人たちを見ると、日本の個人投資家も変わったものだなという感慨を覚えます。

とはいえ現実に目を向ければ、確定拠出年金(DC)やつみたてNISAなどの運用商品をそのまま放置している人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。かくいう筆者もそのひとりです。
先のような儲け話を聞くと、なんだか自分だけ取り残されたような気持ちになりますが、実はこの“ほったらかし”、あながち間違いとは言えないようです。

コロナショックの直後、ある経済評論家にインタビューする機会がありました。個人投資家の取るべき行動について伺ったところ、「動くな!それに尽きる」という答えが返ってきました。
様々な思惑が飛び交い、乱高下する相場に向かっていくのは、百戦錬磨のプロでも至難の業です。ましてや経験の浅い個人投資家は、下手を打つと大ヤケドをしかねません。プロの場合は定期的に決算があり、そこで結果を残さなければなりませんから、相場が悪い中でも利益を求めて何かしらの取引をする必要があります。しかし、個人投資家はそうしたノルマに縛られないわけですから、敢えて火中の栗を拾う必要はないという考えです。外資系金融機関で長年トレーダーを務めた“相場の生き字引”のような方のおっしゃる言葉だけに、説得力がありました。

加えて、DCやつみたてNISAのような積み立て投資の場合、株価が安い時はその分たくさん買えることになりますから、株価が上がった時の“回復効果”に期待できます。株式市場がこの先ずっと下降線をたどっていくなら話は別ですが、「コロナ禍もいつかは開ける」と考えれば、ここは耐えて継続したいところです。
ただし、不動産投資信託(REIT)など特定の資産が大きく値下がりし、投資バランス(アセットアロケーション)が崩れてしまった場合は、折を見て当初の比率に戻しておいた方がいいかもしれません。

さて、積み立て投資をほったらかしにして、この外出自粛期間中に筆者が結構真剣に取り組んだことがあります。家計の見直しです。
家計の見直しというとまず思い浮かぶのが食費や光熱費などの流動費ですが、“巣籠もり”でこれらの出費はむしろ膨らんでいます。今回着目したのは固定費の方です。
電力やガス、携帯電話の通話プラン、加入している火災保険や医療保険など、時間があるので複数社から見積もりを取った上で、じっくり比較・検討することができました。結果として計算上は2割近くこれらの費用をカットすることができ、自分でも驚いています。「流動費より固定費の削減が有効」とさんざん記事に書いてきたことを、ようやく今、身を以て体験した格好です(見直す前の家計がいかにザルだったかという話でもあり、素直に喜べないのですが)。

この時期にあえて家計を見直したのには理由があります。過去にマネー誌で家計管理に優れた方たちを取材した際、強く印象に残ったのが、「リーマンショックで給料が3割カットされ、このままでは大変なことになると思った」とか、「妻が派遣切りに遭って在宅するようになったのを機に、出費を大幅に見直した」といった“ピンチをチャンスに変える”発想だったのです。

固定費はいったん見直すとその効果が継続しますから、長期に渡って“筋肉質な家計”が維持しやすくなります。
新型コロナウイルスに有効な治療薬やワクチンが供給されてコロナ禍が早期に収束すれば問題ありませんが、専門家が予想するように1年程度はかかるとすると、企業の業績や雇用に本格的な影響が出るのはこれからということになります。
仮にこの先、給与カットやボーナス減に見舞われても、家計さえしっかりしていれば持ちこたえることができます。さらにその強い家計を景気回復後も維持していけば、老後資金への不安も大きく改善するのではないでしょうか。

リーマンショックを乗り越えた賢人たちにならって、このピンチをチャンスに変えたいものです。

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