コラムVol.80 敵は本能にあり:へそ曲がりの『投資の考え方』第2回 相場を短期的に動かす要因は、何なのか?

2020年9月29日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「人のいない所に相場は立たぬ(元句:火のない所に煙は立たぬ)」

泳ぎ続けないと死んでしまうと言われるマグロと同じように、為替や株式相場も一日中動きを止めません。たった数秒の間でも相場は動きますが、もちろん、そんな短時間で社会や経済は変わらないし、新たな情報が出てくるものでもありません。このように外部環境に変化が無い中で相場が動く原因は、市場の内部に存在します。つまり、動いているのは短期売買の機会を狙う投資家の思惑であり、数秒間で判断が変わるということ。では何故、投資家の考えは揺れ動くのでしょう。何故、自らの意見を貫こうとしないのでしょうか?

今回は、著名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(英国、1883-1946)が株式投資(短期投資)を説明する際に使ったと言われる、「株式投資(短期投資)は美人投票のようなものである」を私なりに解釈してご紹介します。私がこの言葉を読んで意を強くした箇所は、「のようなものである」(「そこかいっ!」とツッコミが入りそうですが・・・)。図表1のように普通の美人投票は、投票者がそれぞれ最も相応しいと思う候補者へ投票し、最多得票者が「グランプリ」に選ばれるというルールですが、ここに特別ルールが加わることで、短期投資という美人投票の性格は大きく変わってきます。

図表1 普通の「美人投票」

短期投資という美人投票の本質は、図表2に示された「グランプリに選ばれた候補者へ投票していた投票者が賞金を貰える」という特別ルールにあります。要するに、ここでの注目ポイントは、「自分は誰に投票するのか?」でなく「皆が選ぶグランプリは誰なのか?」に移っているということ。そして、見事にグランプリを当て賞金を貰うために、投票者は普通の美人投票と異なる発想で投票相手を選ぶ必要が出てくるのです。

図表2 「短期投資」という「美人投票」

普通の美人投票は、「この候補者が良い」という自らの主観が判断基準になりますが、短期投資という美人投票の場合、「皆はどの候補者が良いと思うのか?」という他者の視点が重要な判断材料になってきます。短期投資であなたが選ぶべき候補者は、自分だけの「オンリーワン」でなく投票者多数にとっての「ナンバーワン」であるため、他者の考えを推測する中でいつまで経っても判断は定まりません。何故なら、テレパシーでも持っていない限り、他者の考えを知ることは不可能だから。では、どのようにすれば、皆の「ナンバーワン」を当てることができるのでしょうか?

「買いに交われば強くなる(元句:朱に交われば赤くなる)」

1985年プラザ合意の直前に為替ディーラー部署へ異動した私は、毎日のように情報交換を通じて同業者の考えを探っていましたが、残念ながら相手が正直に話してくれる保証はありません。何しろ、かく言う私も正直に話していなかったりするのですから・・・。では、情報交換以外に他者の頭の中を知る方法は存在するのでしょうか?短期売買を専門とする為替ディーラーが実践していた方法は、相場格言にある「相場のことは相場に聞け」でした。

短期投資家にとって、他の投資家の考えを知る最大の材料は相場の動きです。買いたい人が多ければ上昇し、売りたい人が多いと下がるなど、相場は投資家の思惑を瞬時に反映するため、短期投資家は常に相場動向をチェックしているのです。余談ですが、マスコミで紹介されるデイ・トレーダーの多くが、どれだけ儲けていてもカップ麺片手に情報画面へかぶりついているのは、一種の職業病。そして、一つの相場の動きが投資家の思惑を変え、別の投資家の売買を誘うなど、たとえ外部環境に変化がなくても、相場変動は波紋のように拡がってしまうのです。

相場変動が短期投資家の売買を促し、更に相場が動くという一種のドミノ倒し現象は、予想もしない混乱を招く原因にもなります。この点を皮肉たっぷりに戒めているのが、「相場は頂上において最も強く見え 底値において最も弱く見える」という相場格言。相場上昇は「他の投資家が買っている」ことを示す強気材料であり、「上昇→強気→買う→上昇→強気・・・」の繰り返しで相場は頂上へ突き進みます。逆に、相場下落は「他の投資家が売っている」ことを示す不安材料になるため、「下落→不安→売る→下落→不安・・・」で底値を付けるということ。たとえば、上昇相場という笛吹き男の後を皆で喜んで付いて行くと、その先に新型コロナ・ショックのような暴落が待っていることもあるため、相場格言「人の行く 裏に道あり 花の山」が示すように、敢えて皆と逆の方向へ進む勇気も必要。それにしても、多数派に従う必要はあるけれど、大勢になり過ぎると危険が高まる・・・一体、どうすればよいのでしょう?

実は、短期投資という美人投票にはもう二つ特別ルールがあります。それは、「儲けるためには、他者より早く行動しなければならない」と「買ったら、売らなければならない」。次回は、この二つルールが短期投資家の行動に与える影響について考えてみます。

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