コラムVol.105 真面目に考える『投資の必要性』第9回 本当に、100歳まで生きるのか?

2021年4月5日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「全ての道は老婆に通ず (元句:全ての道はローマに通ず)」

2019年の夏ごろに起きた、いわゆる「老後2000万円問題」に関する議論は、我々の不安をあおるだけの残念な結果になりました。その当時、私が気になったのは「2000万円持っていないと、老後はどうなってしまうのか?」と「自分の場合は、幾ら必要なのか?」の2点でしたが、議論の中に納得できる答えは見つかりませんでした。そこで、仕方なく自分で調べてみることにしたのですが、まず直面したのは非常にシンプルな難問、「果たして、自分は何歳まで生きるのか?」。

図表1 老後生活に向けて用意しておく金額の考え方
図表1 老後生活に向けて用意しておく金額の考え方

老後生活に向けて用意しておく金額の考え方は簡単で、図表1の「用意しておく金額(年金だけで不足する金額)=必要となる年数(老後の寿命)×年間の不足金額(年間支出-年間収入)」の式で計算できます。しかし、実際に計算しようとしても、「寿命」や「年間支出」「年間収入」にどのような数値を入れれば良いのか、途方に暮れてしまいます。前回「『ライフプラン』は、何故刺さらないのか?」で紹介したように、8割以上の人が老後生活に不安を感じている主な原因は、自分の将来が自分でもよく分からない点にあると思われます。誰だって老後は初めて迎える経験で、70歳時点の「年間支出」や「年間収入」は70歳になってみないと分からないもの。「寿命」についても、「人生100年時代」が叫ばれる現在、100歳まで生きると考えた方がよいのでしょうか?

2017年の流行語大賞候補になった「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が提唱した言葉で、寿命が100歳を越える時代に備え社会制度を見直す必要があるという考え方です。しかし、「人生100年時代」と聞いて個人的に気になるのは、今年63歳の私が100歳まで生きる可能性。「人生100年時代」は、自分達に関係があるのでしょうか?

図表2 日本の平均余命(2019年版)
図表2 日本の平均余命(2019年版)

出所:厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」データより三菱UFJ信託銀行作成

日本は世界一の長寿国と呼ばれていますが、現在の日本は一体「人生何年時代」なのでしょう?最初に、よく耳にする「平均寿命」と「平均余命」の違いをおさらいすると、「平均寿命」は「その年に生まれた赤ちゃんが、生涯何歳まで生きるかの予測寿命」、「平均余命」は「その年に一定年齢に達した人が、その後何年生きるかの予測年数」。図表2は2019年時点の実績値で、この年に生まれた男の赤ちゃんの平均余命81.4歳が男性の平均寿命、女の赤ちゃんの平均余命87.5歳が女性の平均寿命と呼ばれます。一方、この年に60歳の男性の平均余命は24年ですので、60歳+24年で84歳まで、60歳の女性は平均で89.2歳まで生きると推計されています。ここで、70歳・80歳男女の推計寿命を見ると、現在の日本は「人生80〜90年時代」と呼ぶのが妥当と思われます。やはり、「人生100年時代」は、将来の夢物語なのでしょうか?

「長い寿命には巻かれろ (元句:長いものには巻かれろ)」

まだ先の長い若い方々であれば、80〜90年時代であろうと100年時代であろうと大差ないかもしれませんが、63歳の私にとって、残りの人生が30年になるか40年になるかは大問題です。そこで色々と調べてみた結果、何となく90歳程度を寿命と感じていた私は、100歳まで生きる前提で人生設計を考えた方が良いと宗旨替えしました。つまり、自分が生きている間に、「人生100年時代」が実現する可能性は高いと考えを改めたのですが、そのきっかけを与えてくれたのは波平さんでした。

図表3 過去からの平均寿命の推移
図表3 過去からの平均寿命の推移

出所:厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」データより三菱UFJ信託銀行作成

最近すっかり有名になりましたが、1950年頃に新聞連載が始まったサザエさんに登場する波平さんの年齢設定は、何と54歳です。着物姿でくつろぐ波平さんが10歳近く年下であることにショックを受けてしまいますが、図表3のように1950年の男性の平均寿命は58歳、当時の一般的な定年年齢は55歳で、サザエさんを「人生60年時代」の物語と考えると、波平さんの年齢にそれほど違和感を覚えなくなります。同様に、私が生まれた頃の1960年は平均寿命が男性65.3歳、女性70.2歳の「人生70年時代」であったことを知ると、私が生きた60年の間に寿命が大きく延びてきた事実に気が付かされるのです。

図表4 誕生時と比較した予想寿命の延び
図表4 誕生時と比較した予想寿命の延び

出所:厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」データより三菱UFJ信託銀行作成

誕生時の平均寿命と2019年時点の平均余命を比べた図表4を見ると、一番右端の数値のように、現在の70歳は生きている間に約30年、60歳は約20年、40歳は約10年寿命が延びてきたことが分かります。そして、この長寿のペースに医学やバイオ技術の進歩が加われば、今後20〜30年間で更に10〜20歳ぐらい寿命が延びても不思議はないため、私は「人生100年時代」が将来の夢物語でなく、我が事になる可能性は高いと考えているのです。加えて、波平さんの時代から大きく変わったのは定年後の老後生活が長くなったことで、そうなると気になってくるのは健康寿命です。話が投資関連に戻らなくて恐縮ですが、次回は健康寿命について考えてみます。

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