コラムVol.113 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと コロナ禍こそ「ふるさと納税」

2021年6月25日
コラム執筆者の写真
森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

コロナ禍こそ「ふるさと納税」

5月末までの予定だった緊急事態宣言が、東京や大阪など9都道府県で6月20日まで延長されました(5月29日執筆時点)。ワクチンの接種が進んだ欧米諸国では急速に“失われた日常の回復”が進んでおり、日本でもこの数カ月が我慢のしどころとなりそうです。
ステイホームが長期化する中で盛り上がっているのが「ふるさと納税」です。

ふるさと納税とは、任意の自治体に寄付をすると税金の控除が受けられ、なおかつ寄付先の自治体から「返礼品」ももらえるというお得な制度。ただし、控除が受けられるのは寄付額がその人の収入や家族構成などによって年ごとに決まる「限度額」の範囲内に収まる場合です。
コロナ禍の巣ごもり消費需要が返礼品目当ての寄付へと向かい、2020年のふるさと納税額が過去最高を更新した自治体が続出しています。農林水産省の「#元気いただきます」プロジェクトからの補助金を活用した食品の「倍に増量」「半額」といったキャンペーンも功を奏したようです。

ふるさと納税はもともと菅義偉首相が総務相時代に官僚の猛反対を押し切って立ち上げたもの(ご本人の言葉より)で、文字通り、自分が納めている税金の一部をふるさとに回して、地方創生に役立ててもらおうという趣旨です。しかし、普及に伴い、自治体とは縁もゆかりもない高級家電やブランド品が“客引き”に使われるなど、返礼品競争が激化。制度は見直しを余儀なくされ、2019年6月から「返礼品は寄付額の3割以下」に制限されたという経緯があります。
コロナ禍での活況を見る限り、またぞろ返礼品熱がぶり返してきた印象で、あの長野県軽井沢町が返礼品の導入を表明したり、電動キックボードや高級生食パンなど魅力的な返礼品を扱う自治体が増えたりしています。これは、利用者の側から見れば決して悪い話ではありません。
コロナの感染拡大前にふるさと納税の達人を取材した際、過去の寄付の記録や今後のスケジュールが月ごと、日ごとにエクセルで仔細に管理されていて驚いたことがあります。
ふるさと納税の限度額は「その年の収入」に左右されますから、会社員の方であれば毎年12月末の「給与所得の源泉徴収票」の配布を待って寄付するというのが一般的ですが、それでは、必ずしも自分のほしい返礼品が入手できるとは限りません。むしろ年末には寄付が殺到するため、人気の高い返礼品は品切れになっていることも多く、「とりあえずポイントを貯めよう」とか、「カタログギフトにしておいて、後でゆっくり選ぼう」となりがちです。
しかし、達人はその逆で、春はフルーツ、夏は鰻、秋は新米や松茸、冬は海鮮といった具合に、一年を通してフル稼働で「ほしいものを取りにいく」ハンターと化しています。そして常に最新情報に目を光らせ、とりわけ受け付け日時が決まっていたり、自治体のサイトやメルマガで急に発表されたりする、レアでお得な返礼品に注目しているようでした。達人から「ふるさと納税は情報戦」と伺い、取材時には「そんなの絶対無理!」と閉口したものですが、ステイホーム中の今ならできるかもしれないと思うようになりました。

早めに動けと言われても、限度額を超えてしまわないか気になる人もいるでしょう。それなら総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」などで昨年の収入からおおよその寄付目標額を計算し、12月までにその8割くらいをメドに寄付を済ませ、残りは源泉徴収票を確認してから調整するという手があります。「目論見が外れて限度額をオーバーしちゃった」という場合は、ワンストップ特例(給与所得者で確定申告の予定がなく、その年の寄付先が5自治体以下の場合は、寄付先に特例の申請書を送るだけで申告しなくても控除が受けられる制度)が使える人でも、敢えて申告するほうが税金面では有利になります。
ふるさと納税の最大のメリットは、自己負担の2000円を除く寄付額が全額控除され、結果として所得税や住民税を減らせることです。
例えばコロナ禍の今なら、行きつけのレストランの経営が立ち行かなくなり、常連さんを中心にクラウドファンディングを実施したといった寄付の形態もあるかもしれません。しかし、寄附金控除の認定機関でない一民間レストランへの寄付では、申告しても控除は受けられません。

日本の財政はもともと強度の“借金体質”でしたが、コロナ禍の緊急経済対策などにより、国債や借り入れなどを合わせた国の負債が史上最大の1216兆4634億円(今年3月末時点)まで膨らんでいます。国民の頭数で割ると約970万円、4人家族なら4000万円近い借金を背負い込んでいる計算です。ちなみに、20年前の2001年3月末の国の負債は、今の半分にも満たない538兆円でした。
コロナが収束して日本に失われた日常が戻ったとしても、その先に、財政という“マクロな家計”を見直すための増税が待ち受けているのはほぼ確実です。だからこそ、今からふるさと納税や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの身近な節税策をコツコツやっておくことには意味があります。ふるさと納税は、そうした中でも最も楽しくサステナブルな節税策の一つと言えるでしょう(ふるさと納税の寄付の受け付けを代行する企業に取材すると、どこも口を揃えて言うのが、利用者のリピート率の高さです。一度始めたら止められない、ということでしょうか)。

今年は年末ギリギリまで待つのではなく、時間的余裕のある今のうちからふるさと納税のプランを立て、実行してみてはいかがでしょうか? 2020年の好調を受けて自治体サイドも力が入っているので、思いがけない“掘り出し返礼品”との出逢いがあるかもしれません。

ご留意事項

  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。