コラムVol.116 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 会社員「コロナ貧乏」の傾向と対策

2021年7月27日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

会社員「コロナ貧乏」の傾向と対策

コロナショックが顕在化した2020年3月から1年ほどで世界の富裕層は大きく資産を殖やしており、その額は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏、“テクノキング”イーロン・マスク氏ら保有資産上位10人の合計だけで5400億ドル(約60兆円)にも上っています(国際非政府組織〈NGO〉オックスファムの調査による)。コロナ禍の過剰流動性相場による持ち株の値上がりが主な要因ですが、5400億ドルは日本の今年度国家予算(一般会計総額)の半分強に相当するビッグマネーです。

一方で、今回のパンデミックにより旅行・観光業界だけでも世界中で6200万人を超える人たちが職を失いました(世界旅行ツーリズム協議会〈WTTC〉推計値)。「格差」や「分断」がグローバルな課題となっている中で、その格差がますます拡大してしまった印象です。
日本でも同様のことが起きています。とりわけ、特定の業界が大きな打撃を受けたことにより、関連業務に就いていた短期労働者の方が割を食った格好になりました。そうした意味では、コロナ禍でも安定した収入が得られている会社員や年金生活者の方は、幸運と言えるのかもしれません。

しかし、“幸運な”会社員の方からも、コロナ禍でお金がショートして困っているという話をよく聞かされます。グローバルな経済からいきなり小さな家計の話になりますが、今回はこうした「コロナ貧乏」の実態と、お金が貯まらない理由について取り上げたいと思います。
この1年間に最も多く耳にしたのが、「住宅ローンが払えない」という悩みです。住宅ローンに限らず、「子どもの私立学校の学費」や「奨学金の返済」といった固定費の負担が大きい人だと、みなし残業代や各種手当のカットによる減収が結構な痛手になります。住宅ローンや奨学金には返済猶予などの救済措置が用意されていますが、学費についてはそう簡単に支払いを猶予してもらえません。
ある知人は高校1年生の子どもと話し合い、大学進学用の資金を今の学費に充てることにした、と話してくれました。子どもは、第一志望を私立から国立の大学に変更したそうです。通っている高校は都内でも有名な私立ですが、この1年で同級生が2人辞めたと聞き、コロナ禍が様々な階層に影響を及ぼしていることを痛感しました。

次に多かったのが、平時も有事も関係なく消費性向が高い人の“コロナ浪費”です。筆者には、その典型のような趣味仲間が一人います。“ソロ充”、つまり独身貴族の彼女の家計はキャッシュフローが多く、ストックが少ないのが特徴(本人いわく、「宵越しの金は持たない」そうです)。平時はしょっちゅう高級料理店やエステ通いをしていましたが、さすがにコロナ禍では無理だろうと思っていたら、ちゃっかり代替手段を見つけていたのです。
要は、高級料理店がデリバリーやお取り寄せに、エステが美顔器や健康マシン、高級化粧品に置き換えられただけで、支出は「ほとんど変わらない、いや、むしろ増えたかもしれない」というのですから、お見事というしかありません。彼女と話していて少々気になったのが、「デリバリーや通販の“沼”にはまると抜け出せなくなりそう」という言葉です。
コロナ禍でゲームを楽しむ時間が長くなり、ゲーム課金が倍以上に跳ね上がったという話もよく聞きます。こうした“コロナ癖”が常態化してしまうと、アフターコロナの家計に悪影響を与えかねません。悪癖は今のうちから断ち切っておく必要があります。

最後は、コロナ禍で蟄居生活を送っているのに、なぜかお金が貯まらないという人です。ある会社員カップルの話を聞いたときにふと思い出したのが、イソップ寓話の『アリとキリギリス』でした。ただし、コロナ禍の勝者はキリギリスのほうです。
飲み歩くのが好きで家計管理な苦手な男性は、なかなか貯蓄ができず、「いつになったら結婚資金が貯まるの?」といつも女性からプレッシャーをかけられていたそうです。それが、コロナ禍で時間を持て余して始めた小遣い稼ぎの株式投資が大成功、200万円を超える資産を築くに至ったのです。

一方の女性は、とても堅実そうなタイプです。家計はアプリでしっかり管理されていて、毎月の貯蓄額は2万円。しかし、それ以上はなかなか増えていかないと嘆きます。20代で毎月2万円を確実に貯蓄しているのですから、筆者などは「それだけでも立派」と思ってしまいますが、彼女の目指す次元はもっと高いのです。
家計を拝見したところ、コロナ以前からしっかり管理していたことが仇(あだ)になった面もありました。ステイホームが光熱費や通信費などを微妙に増やしてしまったからです。加えて、思わぬ家計圧迫要因となっていたのがサブスクリプション(商品やサービスを定額で一定期間利用する契約方式、通称サブスク)です。音楽や動画配信、雑誌、インテリア、ファッションなど毎月のサブスクへの支払いが、貯蓄額をゆうに超えていました。
サブスクがコストを抑える合理的な方法であることを否定するものではありませんが、「安いから」「便利だから」と何でもかんでもサブスクにしてしまうと、この女性のように貯まらない要因になってしまうこともあります。“事情通”や“しっかり者”がかかりやすいバイアスと言えそうです。

世界銀行が6月に発表した最新の世界経済見通しによると、コロナからの復調目覚ましい米国や中国が牽引し、2021年の経済成長率は全世界で5.6%になると見られています。日本の成長率も2.9%に上方修正されました。アフターコロナに備えて、そろそろ家計管理も平時へのギアチェンジを考える時期かもしれません。

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