コラムVol.133 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと あなたの「金融リテラシー」は?

2022年1月31日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

あなたの「金融リテラシー」は?

この4〜5年で、「〇〇リテラシー」という表現をよく見かけるようになりました。ITリテラシー、情報リテラシー、文化リテラシー、社内リテラシー……。金融リテラシーもその1つです。

リテラシー(literacy)とはそもそも、識字力(読み書きする能力)を表す英語です。それが転じて、現在の日本では「特定の物事の本質を的確に理解し、それを応用的に使いこなす能力」という意味で使われているようです。

さて、〇〇リテラシーはほとんどの場合、それが高いか低いかを論じる文脈の中で出てきます。金融リテラシーの場合はどうでしょうか?

一般論として、「日本人は金融リテラシーが低い」と評されることが多いように思います。筆者の個人的な印象では、それはほぼほぼ、「投資性向が低い」ことと同義です。言い方を変えるなら、日本人の資産運用が大きく預貯金に偏っているのは、金融リテラシーが低いからだということになります。

日本銀行調査統計局が2021年8月に発表した「資金循環の日米欧比較」で日本の家計の資産構成の項目を見ると、「現金・預金」が54.3%と過半を占め、「株式等」は10.0%、「投資信託」は4.3%に過ぎません。

これに対し、“世界の投資先進国”米国の家計では「株式等」が37.8%でトップ、「投資信託」も13.2%で、13.3%の「現金・預金」と拮抗しています。欧州エリアは米国と日本の中間で、「現金・預金」が34.3%と3分の1強を占める一方で、「株式等」が18.2%、「投資信託」が9.6%と、投資商品にもそれなりのお金が回っていることが分かります。

確かに、こうしたデータからは、欧米人と比べて日本人が投資に慎重であることがうかがえます。しかし、投資性向の低さを理由に「金融リテラシーが低い」と断じてしまっていいのかは疑問が残ります。

仕事柄、カリスマ個人投資家の方を取材する機会がままあります。皆さん投資で儲かっているので家計の資金フローは潤沢な半面、一部には多額の使途不明金を抱える「ザル家計」の方もいらっしゃいます。投資においては資産やリスク配分、もちろん銘柄選択にもさすがのセンスを感じますが、こと家計管理に関しては、失礼ながら正直、投資をリタイアなさった後が心配になるレベルです。

これに対し、若手会社員の方と話していると、家計管理アプリを使ったり、クレジットカードやショッピングサイトで付与されるポイントで投資をしたり、会社の確定拠出年金(DC)やiDeCo(個人型確定拠出年金)、NISAなどのことを熱心に聞いてきたりと、マネーの分野で“意識高い系”の人が確実に増えてきていることをひしひしと感じます。つまり、筆者の肌感覚では、最近の日本人は決して金融リテラシーが低くはないと思うのです。

では、そもそも金融リテラシーとは何を指すのでしょうか? 金融庁の金融経済教育研究会が作成したパンフレット「最低限身に付けるべき金融リテラシー」では、次の4分野15項目を挙げています。

(1)家計管理

@適切な収支管理(赤字解消・黒字確保)の習慣化

(2)生活設計

Aライフプランの明確化及びライフプランを踏まえた資金の確保の必要性の理解

(3)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択

[金融取引の基本としての素養]

B契約にかかる基本的な姿勢の習慣化

C情報の入手先や契約の相手方である業者が信頼できる者であるかどうかの確認の習慣化

Dインターネット取引は利便性が高い一方、対面取引の場合とは異なる注意点があることの理解


[金融分野共通]

E金融経済教育において基礎となる重要な事項(金利〈単利・複利〉、インフレ、デフレ、為替、リスク・リターン等)や金融経済情勢に応じた金融商品の利用選択についての理解

F取引の実質的なコスト(価格)について把握することの重要性の理解


[保険商品]

G自分にとって保険でカバーすべき事象(死亡・疾病・火災等)が何かの理解

Hカバーすべき事象発現時の経済的保障の必要額の理解


[ローン・クレジット]

I住宅ローンを組む際の留意点の理解

@無理のない借入限度額の設定、返済計画を立てることの重要性

A返済を困難とする諸事情の発生への備えの重要性

J無計画・無謀なカードローン等やクレジットカードの利用を行わないことの習慣化


[資産形成商品]

K人によってリスク許容度は異なるが、仮により高いリターンを得ようとする場合には、より高いリスクを伴うことの理解

L資産形成における分散(運用資産の分散・投資時期の分散)の効果の理解

M資産形成における長期運用の効果の理解

(4)外部の知見の適切な活用

N金融商品を利用するにあたり、外部の知見を適切に活用する必要性の理解

いかがでしょうか? ここで指摘されている内容は、ビジネスリテラシーをお持ちの会社員の方から見れば、ある意味当たり前のことばかりではないでしょうか? (3)の「金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」の項目がネックとなって「自分は金融リテラシーが低い」と考える方が多いようですが、本当に重要なのは「素養」や「習慣化」の部分です。高度な専門知識を必要とする分野では、自分だけで何とかしようと思わず、信頼できる専門家を活用すればいいのです。

ちなみに、日本銀行の金融広報中央委員会が運営するサイト「知るぽると」には、「金融リテラシークイズ」が掲載されています。

金融リテラシークイズ|知るぽると

点数を全国平均や、性別、年齢層別の平均値などと比べてみれば、ご自分のおおよその現在地が分かるのではないかと思います。

さて、高校生のお子さんやごきょうだいがいる方なら既にご存じかもしれませんが、学習指導要領の改訂により、2022年4月からは高校でも家庭科の授業で「資産形成」が取り上げられるようになります。

資産形成の出発点が家計管理だと考えるなら、家庭科の授業で教えるというのも理にかなったことと思います。とはいえ、普段は保育や福祉などの授業を担当している家庭科の先生方が急遽、資産形成の授業を行うとなれば、教育現場では多少の混乱が生じるかもしれません。そこで、金融庁は先生方を対象とした初のイベントを開催し、現在行われている同庁職員による小中高、大学への出張授業も継続するようです。

足下では新型コロナウイルスの新変異株・オミクロンが感染拡大の兆しを見せるなど、コロナのパンデミックは未だ予断を許さない状況です。2022年こそは人類の英知でコロナからの脱却を果たしてほしいものですが、そこに至るまで経済やマーケットは波乱含みの展開となるかもしれません。とはいえ、そういう時期こそ資産運用は基本に立ち返ることが大切で、特に、バブルやリーマンショックを経験していない運用者にとっては、金融リテラシーを磨くトレーニングの場になるという見方もできるでしょう。

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