コラムVol.135 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 副業してたら申告しないとまずい?

2022年2月10日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

副業してたら申告しないとまずい?

3月15日の確定申告の締め切りが近づいてきました。といっても、会社員は、「確定申告って自営業者やフリーランスのためのものでしょ? 私は関係ないし」と思われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?

会社員の方が確定申告するケースとしては、医療費控除やセルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)、住宅ローン控除(会社員の場合は最初の年のみ要申告、2年目以降は会社の年末調整で対応可)、ふるさと納税(寄附金控除)などが挙げられます。

しかし、ここにきて気を付けなければならないのが、会社からの給与収入以外の「副業収入」です。

2018年は「副業元年」と言われていますが、この年に会社の許可なく副業をすることを禁じた厚生労働省の「モデル就業規則」が改訂され、企業の副業解禁が一気に進みました。社員の副業に好意的な新興企業だけでなく、2020年からは大手上場企業でも解禁の動きが広がり、最近実施されたアンケートを見ると、調査対象となった企業の半数近くが社員の副業を容認していました。

会社員の方でもコロナ禍で多様な働き方を選べるようになり、また、人によっては減収を強いられて、副業に精を出した人も少なくないのではないでしょうか?

会社からの給与所得に関しては、年末調整で課税所得を計算し、給与や賞与から天引きしていた分が多過ぎたら12月の給与と一緒に戻してもらえます。しかし、社員の副業に会社は関与しませんから、副業収入が一定水準を超えたら、自分で申告する義務が出てきます。

所得税の申告のボーダーラインとなるのがズバリ「20万円」です。以下、この20万円の根拠について簡単にご説明しましょう。
どんな副業かによって税法上の「所得」の種類は異なりますが、多くの副業が含まれるのが@雑所得です。

例えば、原稿料や講演料、アフィリエイト収入、ネットショップでの販売収入、デリバリー配達の収入、ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)取引の利益などは全て雑所得となります。社会の変化によって新しく生まれた所得は大方が雑所得に分類されるので、例えば、動画配信収入、太陽光発電の売電による収入、民泊の収入なども雑所得となります。

雑所得には、業務に必要な旅費交通費、通信費、消耗品費などの必要経費が認められています。よって、会社員の場合、1年間のこれらの収入の合計から、それぞれの経費を差し引いた所得金額が20万円を超えていたら、申告する必要があります。

副業者の中には、副業先のパート従業員、アルバイト従業員などとして、A給与所得を受け取っている方もいることでしょう。こうしたケースでは本業以外の収入の合計が20万円超(退職所得を除く)になったら申告しなければなりません。

アパートやワンルームマンション、駐車場などのオーナーであるサラリーマン大家さんの場合は、B不動産所得ということになります。この不動産所得も、租税公課(固定資産税)、損害保険料、減価償却費などの必要経費をマイナスした金額が20万円を超えたら申告義務があります。

このように、副業の稼ぎを代表する@雑所得、A給与所得、B不動産所得のいずれでも、「20万円超」が申告しなければならないかどうかの判断基準となるわけです(ただし、住民税の場合は20万円以下でも別途市区町村窓口への申告が必要になります)。

こういう話をすると、「申告するとその分税金も増えちゃうし、20万円をちょっと超えるくらいならスルーしても大丈夫でしょ?」と考える人もいるかもしれません。

そもそも論を言わせていただくと、申告しなければならない人が故意にしないでいて後で発覚した場合は、本来納めるべき税金に加えて高額の「無申告加算税」や「延滞税」などを徴収される可能性があります。

しかも、国税庁では「副収入がある方などの確定申告」のページを立ち上げるなど、副業者への課税に本気で取り組む強い意志を感じます。ある税理士さんを取材した際には、「動画配信やネットショップ、ネットオークションなどインターネット上の取引を専門に調査する人員を配しているようだ」という話を耳にしました。

さらに、会社員の場合、申告漏れは自身の信用問題にも発展しかねません。ですから、この原稿のタイトル「副業してたら申告しないとまずい?」に対する筆者の答えは、「副業で年20万円超稼いでいたら申告しないとマジまずいことになるかも!」です。

ちなみに、冒頭に挙げた医療費控除や住宅ローン控除、寄附金控除などを受けるために確定申告する場合は、副業が20万円以下で申告不要の人でも、副業分を一緒に申告する必要があります。租税制度は「天網恢恢疎にして漏らさず」ですから、控除の“おいしいとこ取り”は許されないのです。

副業20万円以下の方は、医療費控除やセルフメディケーション税制などが利用できる場合も、それらの還付金があまり期待できないのであれば、あえて申告しないで副業の“申告不要メリット”の方を享受するのが賢明かもしれません。

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