コラムVol.144 敵は本能にあり:へそ曲がりの『投資の考え方』第18回 バブルや暴落相場を、どのように乗り切るのか?

2022年6月10日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「積めば都 (元句:住めば都)」

私は「人の行く裏に道あり 花の山(大意:儲けるためには、皆と反対の投資行動を取ることが大切)」という相場格言が好きですが、これまで成功したためしがありません。と言うのも、この格言の但し書きとも読める「裏の道にも落とし穴、行くも行かぬも時によりけり」という別の相場格言のように、皆の逆を行くタイミングを間違えると損してしまうから。このタイミングについて、著名な投資家ウォーレン・バフェット氏は「株は単純。皆が恐怖におののいている(暴落)時に買い、陶酔状態の(バブル)時に恐怖を覚えて売ればいい」と言っていますが、そんな簡単な話なのでしょうか?

バブルや暴落相場を作り出す原動力は群集心理であり、恐怖や陶酔でパニックになっている群集に逆らうことは至難の業です。加えて、ジェットコースターのような急上昇・急落相場に巻き込まれると、欲や恐れという感情に振り回されて合理的な行動を取れなくなるため、最終的にバブルや暴落で冷静に群集の逆を行ける人は、バフェット氏のような特別な存在に限られてしまうのです。それでは、バフェット氏の真似ができない私はどうすればよいのでしょう?残念ながら、目指すべきは憧れの「人の行く裏に道あり 花の山」でなく、退屈で面白味はないけれど誰でも実行可能な「ドルコスト平均法(定期定額購入)」の方だと思われます。

図表1 ドルコスト平均法(定期定額購入)の考え方
図表1 ドルコスト平均法(定期定額購入)の考え方
図表2 ドルコスト平均法を続けた場合のシミュレーション(1988年3月〜2022年4月)
図表2 ドルコスト平均法を続けた場合のシミュレーション(1988年3月〜2022年4月)

※:シミュレーションは、実際の投資と異なり手数料・税金・購入単位等の要因を考慮せず

出所:日本経済新聞社データより三菱UFJ信託銀行作成

定期的に定額の購入を続けるドルコスト平均法のメリットは、図表1のように相場下落時に購入数量を増やし、相場上昇時に購入数量を減らしてくれる自動調整機能です。一方、デメリットは退屈な定額購入を長期間続ける必要性や手数料がかさみ易い点、一本調子の上昇や下落相場で効果が期待できない点などですが、図表2のシミュレーションでは、急変動が繰り返されてきた日本株式市場でも一定の投資成果が出ています。つまり、ドルコスト平均法を使えば、誰でも「暴落の安い価格で多く買い、バブルの高い価格を買い控える」投資行動ができるため、我々の国民年金や厚生年金でも、ドルコスト平均法的な積立投資(年金保険料の変動で完全な定額にならない)が用いられています。

「相場はあざなえる縄のごとし (元句:禍福はあざなえる縄のごとし)」

前回「投資の『ポートフォリオ理論』は儲かるのか?」で説明したように、年金運用は常に買い続ける長期の「順張り」手法が基本スタンスですが、短期の相場急変に備えた「逆張り」手法も併用しています。たとえば、前述のドルコスト平均法は相場下落時に購入数量を増やし相場上昇時に購入数量を減らす逆張り手法であり、同コラムVlo.138「マネーライターの取材裏話『改正DCの素朴な疑問」(2022年3月10日)」で森田さんが書かれている「リバランス」は、投資資産の配分比率をメンテナンスする逆張り手法です。

図表3 リバランス戦略の考え方
図表3 リバランス戦略の考え方

リバランスとは、短期の相場急変で歪んだ資産配分比率を長期の基本比率に戻す手法で、具体的には、図表3@のように値上がりで増えた株式資産の一部売却、値下がりで減った債券資産の追加購入という逆張りを行い、資産配分比率を基本比率「株式50%・債券50%」に戻します。このリバランスを行うと、株式資産の比率が増えた後で暴落に巻き込まれ思わぬ損失を被る失敗や、株式資産が減った後で株価が上昇し始め、思うように儲けが増えない事態を回避できます。逆に言うと、バブルや暴落相場は永遠に続かないため、資産配分比率を歪んだまま放置しておくと、その後の相場の反動局面で痛い目にあう危険性が高まってしまうのです。

図表4 年金運用の基本的な考え方
図表4 年金運用の基本的な考え方

年金運用の基本スタンスは、図表4のように、@株式などの資産価格は世界経済成長に支えられて長期上昇トレンドを続ける、A実際の相場は投資環境の変化で短期的に上下動するものの、最終的に@の長期上昇トレンドへ戻っていくという考え方であり、@の長期上昇トレンドへ乗るために順張りの国際分散投資を続け、Aの相場急変時に生じた国際分散投資の歪みを逆張りのリバランスでメンテナンスしています。年金運用のリバランスは、頻度(例えば四半期に1度)やトリッガーとなる資産配分比率の上下許容変動幅(例えば±10%)などの実施ルールが定められていますが、ルールの管理が困難な個人の場合、相場が大きく動いた時に資産配分比率をチェックし、当初の配分比率との乖離に応じてリバランスの可否を判断する方が現実的かもしれません。

前回と今回は年金運用の基本的な考え方を説明してきましたが、新型コロナ禍やウクライナ侵攻など予想外の出来事で生じた投資環境の変化に、年金運用はどのように対応するのでしょうか?次回は、中長期的な投資環境変化に応じて基本配分比率に修正を加える、年金運用の「実践ポートフォリオ」について考えてみます。

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