コラムVol.158 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 2023年は「金利」に注目!

2023年1月13日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

2023年は「金利」に注目!

インフレ退治に手を焼く米国では、FRB(米連邦準備理事会)が2022年11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で4会合連続となる利上げ(0.75%)を決定し、これで米国の政策金利の誘導目標は3.75〜4%と2008年1月以来の高水準になりました。20年以上低金利政策が続いている日本でも、米国や欧州の利上げの余波で住宅ローン金利などがじわりじわりと上昇しつつあります。

筆者は、2023年前半は久しぶりに金利が意識されることになるのではないかと予想しています。そこで今回は金利をテーマに取り上げたいと思います。

そもそも日本人は金利が好きです。株式などのキャピタルゲイン(値上がり益)が得られる金融商品よりも銀行預金や国債のような金利商品を好みますし、株式投資をされる方でも配当目的という方が一定割合いらっしゃいます。今や定番化した毎月分配型の投資信託は、金利好きな日本人のツボを実にうまく突いた金融商品と言えるかもしれません。

日本人に限らず、投資家にとって金利は侮れない存在です。「72の法則」という言葉をご存じでしょうか? 72を金利で割ると、その金利で運用した際に預けたお金が当初の2倍になるおおよその期間が分かるというものです。

具体例でご説明した方が分かりやすいでしょう。例えば、金利が3%だとしたら「72÷3=24」で24年、4%なら「72÷4=18」で18年、8%だと「72÷8=9」で9年預ければお金が倍増するという計算になります。そう考えれば、親世代の「昭和バブルの頃には預けたお金が倍になって戻ってきたんだよね〜」という自慢話も納得がいくというものです。

高金利時代はこれだけの運用成果がノーリスクで取れたのですから、資産運用の面ではパラダイスと言えるかもしれません。ちなみに、2022年11月末時点のメガバンクのスーパー定期1年物の金利は0.0020%、預けたお金が2倍になって戻るには、実に3万6000年の年月がかかります。子孫どころか、日本が存続しているのかどうかも怪しいくらい遠い未来です。

とはいえ、米国債に目を向けると、2022年11月下旬時点では10年債の利回りが3%台後半で推移しています。先の72の法則で言うなら、18〜19年で預けたお金が倍になる水準です。

金利商品で運用する際には、押さえておきたいポイントがあります。

1つは、今の米国のような金利上昇局面では、一定期間で適用金利が見直される変動金利タイプの商品が有利になるということです。日本で言うなら、個人向け国債変動10年のような商品です。

さらに、金利がぐんと上がってピークに差し掛かったら、今度はできるだけ期間の長い固定金利の商品に預けてしまうのが鉄則です。ちなみに、米国には期間30年の国債があります。日本政府も最長40年の超長期国債を発行していますが、これは機関投資家向け。個人が金融機関で購入できるのは期間10年までです。

こういう話をすると、「金利が高いうちに米国債に投資したい」と考える方も出てくるかもしれません。ご参考までに、個人投資家に向けては、日本国内では複数の証券会社が既発債を扱っています。ただ、既にドルをお持ちの方がそれで購入する分には問題ないのですが、今のドル高円安の状況を考えると、国債購入のためにわざわざドルを買うのはあまりお勧めできません。為替の値動き次第で、せっかくの金利が吹き飛んでしまう可能性もあるからです。

さて、金利上昇は実は“諸刃の剣”で、金利が上昇すると困る人もいます。その典型がローンを利用しようとしている人です。冒頭で日本でも住宅ローン金利がじわりじわりと上がってきているという話をしましたが、住宅ローン金利が高騰した米国では2022年10月の住宅着工件数(商務省発表)が前月比4.2%減の142万5000戸に止まり、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)が拡大していた2020年8月以来の低水準に喘いでいます。首都圏を中心に新築マンションの販売が堅調な日本でも、遅かれ早かれ米国や欧州の利上げの影響は出て来そうです。

特に住宅金融支援機構の「フラット35」のような長期固定金利のローンを利用する場合、金利が1%上がっただけでも返済額に大きな差が出てきます。仮に3000万円を借り入れて、35年の毎月返済で返済計画を立てたとしましょう。金利が2%の場合、35年間の総返済額は4200万円弱です。しかし、金利が3%に上がると、これが約4850万円まで膨らんでしまいます。

住宅ローンを返済中の方も注意が必要です。現在の住宅ローン債務者の過半が変動金利型を利用しています。ローンの設計上、金利が上がったから即返済額が増えるということはないのですが、適用金利が上がれば返済額に占める利息の割合が高くなり、結果として知らないうちに総返済額が増えていたという事態が起こり得ます。

このように金利上昇は預金者にとっては追い風ですが、債務者にとってはリスクを生む点は心に留めておきたいところです。

2023年4月には、10年ぶりに日本銀行の総裁が交代します。「Mr.マイナス金利」の黒田東彦総裁が退任し、確率は相当低いですが、ひょっとすると新総裁の下で日銀が久しぶりに政策金利をプラスに持ってくる局面もあるかもしれません。2022年9月に「当面、金利を引き上げることはない」と断言していた黒田総裁が、11月上旬には「金利操作の手法を柔軟化していくことも1つのオプションとしてあり得る」と発言したのも何だか意味深です。

2023年は「金利」に注目です!

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