コラムVol.167 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 「老後破綻リスクが高い50代」ってどんな人?

2023年6月12日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

子育て終えた50代に“消費アクセル全開”リスク

勤続年数や年齢に応じて給与が上がっていく「年功序列型」の賃金体系は崩壊したと言われて久しいのですが、今の50代くらいまでは、50代で生涯年収のピークを迎えるサラリーマンが多いようです。

収入が上昇カーブをたどると、それにつられて財布の紐も緩んでいくのが人の常です。

30〜40代は住宅ローンや子どもの教育費を払うために必死に働いてきたけれど、50代になって子どもも独立し、やっと夫婦で趣味や旅行を楽しむ余裕が生まれたという家庭も多いのではないでしょうか。それ自体は歓迎すべきことなのですが、そこで消費のアクセルを踏み過ぎると、リタイアした後にブレーキが利かなくなってしまう危険性があります。

特に気を付けたいのは、世帯年収が1000万円近い“高収入世帯”です。

月収52万円でも「老後資金2000万円は無理!」

年金だけでは老後資金が2000万円足りない問題が話題になった2019年頃、当時50歳を超えたばかりの知人が慌てて「ファイナンシャルプランナー(FP)を紹介してほしい」と頼んできたことがありました。それまでお金の話などしたことがなかった相手なので「何かあった?」と尋ねたら、「このままだと老後破産しちゃう!」とかなり焦った様子です。

彼女は大学卒業後に入社した企業で先輩社員と結婚し、専業主婦として2人の子どもを育て上げました。下のお子さんの就職も決まり、悠々自適の生活を送っていたはずでした。しかし、「子どもは2人とも中学から私立に通わせたから」教育資金がかさみ、「マイホームを購入したのが40歳過ぎで夫が76歳になるまで住宅ローンの返済が残っている」ので、「これから60歳までに2000万円貯めるなんて絶対無理!」と言うのです。

「2000万円はあくまで目安で実際の必要額は家庭によって違うから」という言葉をぐっとのみ込み、ひとまずはリクエストに応じてFPの方を紹介しました。半月後にまた連絡があり、「別のFPを紹介してほしい」と言われました。どうやら彼女が望むような話が聞けなかったようです。次は大手のFP会社を教えましたが、ここのアドバイスも前回と全く同じだったとのこと。

無理もありません。憤慨する彼女から相談シートを見せられたのですが、そこに書かれていたのは、ある月の収入が52万円、支出が65万円(うち夫婦の小遣い25万円、使途不明金10万円!)という極めて高キャッシュフローな赤字家計の記録だったからです。

夫はゴルフが趣味で月に2回はコースに出る。だから車が手放せない。彼女は彼女で洋服や化粧品にエステ、仲間とのランチや観劇などの費用が月に10万円ほどかかる。夫婦で外食を楽しんだり、帰宅が遅くなりそうだとデパ地下で夕食を調達したりするので食費も10万円オーバーが常態化している。

結果として、毎月の赤字をボーナスで穴埋めする自転車操業家計になっていたのです。

FPの方から「今すぐ家計を見直してください!」と言われたのはある意味当然でしょう。それに対する彼女の言い分は「生活はすぐに変えられない。それよりも手持ちの300万円の預金を高配当の株式や投資信託に預けて配当収入が得られるようにするなどのアドバイスが欲しかった」というものでしたが、それはちょっと違う気がします。

大事なのは「入ってくるお金で暮らす」こと

長きに渡り家計管理の取材をしてきて分かったのが、家計を健全に保つポイントは「入ってくるお金で暮らす」、これに尽きるということです。SNSなどで話題の月5万円の年金で満ち足りた老後を送るシニアの方々のように収入の範囲でやり繰りできる能力があれば、仕事や運用で人一倍稼げなくても人生100年時代の長い老後をうまく乗り切れるように思います。

逆に、知人のように50代で家計の風呂敷を大きく広げてしまうと、畳むのはなかなか大変です。素敵な年齢の重ね方をするには美容や食生活にある程度コストをかける必要があるでしょうし、仲間との付き合いをいきなり減らすと余計な詮索をされることにもなりかねません。生活信条やプライドが絡む問題だけに、第三者がこうした方がいいとは一概には言えない面もあります。

50代がやっておくべき家計のダウンサイジング

とはいえ1つ間違いなく言えるのは、50代になったら、将来の家計を見据えてその時入ってくるお金で暮らしていけるように少しずつ家計のダウンサイジングを進めておいた方がいいということです。

生命保険の保障をチェックして本当に必要なもの以外はばっさり解約する(もしくは払い済み保険にしてしまう)、携帯電話や光熱費は少しでも安いプランに変更するといった固定費の見直しは万人に共通する合理的な家計改善策です。マイカーも月に数回使う程度ならガソリン代込み料金のカーシェアリングのほうがリーズナブルかもしれません。自動車保険料や税金、駐車場代の負担もなくなります。

趣味やエステ通いなどは、いきなり止めるのではなく通う回数や種類(数)を減らすことを検討されてはいかがでしょうか? お金がかかる趣味はどれか1つに絞る、サロンは月1回までにするといった具合にストレスを感じない程度にチャレンジしてみてください。

リタイア後に住宅ローンの支払いが残る方は、収入がある今のうちにどんどん繰り上げ返済し、将来の負担をできる限り減らしておくことも大切です。

50代になって今さらと思われるかもしれませんが、こうした取り組みは早くしておけばおくほど、後がラクになります。10年後に後悔しても遅いのです。

50代の「収入ダウンの崖」に注意!

家計のダウンサイジングと共に押さえておく必要があるのが、将来の収入の見通しです。

50代からの10年間は、サラリーマン人生で最も収入の変化が大きい時期でもあります。50代を待ち構えているのが、2つの大きな「収入ダウンの崖」です。最初の崖は企業の課長や部長を対象とした「役職定年」で、多くは55歳や57歳に設定されています。役職を解かれるのに伴い基本給や手当、賞与などが見直され、3〜4割の減収を余儀なくされます。次の崖が60歳の「定年」です。60歳でリタイアしたら公的年金が支給される65歳までは無収入ですし、再雇用されても年収は200万〜400万円に抑えられているようです。

仮に50歳時の年収が1000万円だとすれば、55歳で600万円まで下がり、さらに60歳以降は一気に200万円まで落ち込みかねないわけで、「崖」の名称はこの落差の大きさに由来します。今でこそ多少の浪費も高い収入に吸収されますが、200万円になったらさすがに「生活はすぐに変えられない」とは言っていられないでしょう。

「年金で暮らしていく期間」が一番長い

さらに重要なのが、65歳以降に世帯で受け取る年金額です。日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳(2022年厚生労働省発表)ですから、これからの人生を考えれば、実は「年金で暮らしていく期間」が一番長いのです。つまり、家計のダウンサイジングの最終目標値はこの年金額ということになります。

年金は老後の最低限の生活を保障する制度ですから、現役時代の収入が多い人ほど年金収入とのギャップが大きくなりがちです。50代なら夫と妻双方に年金額を増やしておくチャンスがあるので、今のうちに世帯の年金額を把握し、将来に備えた対策を打っておきたいところです。

その際は三菱UFJ信託銀行のWEBセミナー「50代から考えよう!年金増額作戦」が参考になりますよ!

【WEBセミナー】50代から考えよう!年金増額作戦(受付終了しました)

※セミナーは予約制・無料です。WEBセミナーはYouTubeによるアーカイブ配信ですので開催期間中はいつでも何度でもご視聴可能です。

申込期限:2023年6月23日(金)12時まで

開催期間:2023年6月28日(水)12時〜2023年7月11日(火)12時

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