コラムVol.169 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 50代からでも「投資デビュー」すべき?

2023年8月10日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

「投資しないリスク」が意識されている

2023年度に入って以降、日本の株式市場が好調です。日本企業の好業績や高水準の賃上げの拡大を背景に海外の投資家による売買が増え、日経平均株価はバブル後の最高値を何度も塗り替えました。

こうした相場環境だと、「やっぱり投資をした方がいいの?」という相談を受ける機会が増えます。2024年からは岸田政権の肝煎りで新NISA(少額投資非課税制度)がスタートすることもあり、「投資しないリスク」が一段と意識されているのでしょう。

若い世代で投資に興味がある人の多くはすでにiDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAで積立投資を始めています。それもあって、筆者の周囲で今投資への参入を考えているのは主に40代以上のシニア層です。

特に切実なのが50代です。定年が視野に入り、「子供がまだ大学生で老後資金が貯められない」「退職金が思うほど出ないことが分かった」「このところの物価高で将来年金だけで暮らしていけるのか不安」と、投資で“一発逆転”とまでは言わないまでも、“改善”を図りたいと考えている方が多いようです。

そこで今回は、「50代の投資」について考えてみたいと思います。

50代になると「時間」の恩恵は享受しにくい

投資デビューを検討している方が頭に置いておきたいのが、「時間」と「リスク許容度」です。

基本的には投資にかけられる時間が長ければ長いほど、リターンは安定していきます。これは、株価のチャートをご覧になるとよく分かります。短期のチャートはアップダウンが激しくなりがちですが、長期のチャートは緩やかなカーブを描いています。

50代の方は、20〜30代とくらべるとこうした「時間の恩恵」にはあまりあずかれないことは認識しておくべきでしょう。

とはいえ、こういう言い方をすると「人生100年時代なのだから、まだまだ時間はたっぷりあるはず」という反論が出てくるかもしれません。

時間がたっぷりあるのはそのとおりですが、だとしたら、いつまで投資をするのかを考えておく必要があります。一般的には、70歳くらいで“投資仕舞い”を始められる方が多いのではないでしょうか?

70〜80代の現役投資家の方も大勢いらっしゃいますが、体力や気力、認知機能が年相応に低下してくることを思うと、誰もがそうなれるわけではない気がします。

「目標リターン」だけ増やしても意味がない

リスク許容度は、2つの側面から見ていく必要があります。

1つは懐具合によるリスク許容度です。投資は原則、多少減ってしまっても構わない余裕資金で行うもの。老後資金に不安を感じている50代が一気にお金を増やすために投資をしようと目論んでいるのなら、止めておいた方がいいように思います。

以前、お金のプロの方からこんな話を聞いたことがあります。

積立投資の相談に来た50代の女性のために、パソコンでシミュレーションを行ったのだそうです。期間はリタイアまでの10年、毎月の積立額は5万円で年平均のリターン目標を3%に設定したら、10年後の残高は約700万円になりました。

するといきなり女性が、「先生、リターンが7%ならどうなりますか?」「10%では?」と畳みかけてきたのだとか。

どうやら女性は、10年間の積立投資で老後資金を1000万円上乗せしたいと考えていたようです。けれども、毎月の積立用に捻出できる資金はどんなに頑張っても5万円。それなら残りの変数である目標リターンを増やすしかないと必死だったのでしょう。

しかし、リターンはあくまで予想です。上方修正してエクセルシートの上では目標値を達成できても、現実がそうなるとは限りません。

10年で7%や10%のリターンを狙っていくなら、相応のリスクを取る必要があります。そして、万一運用に失敗した場合、女性にはそれを取り戻すのに十分な時間もないのです。

投資には「向き」「不向き」がある?

もう1つのリスク許容度は個人の資質です。

あくまで筆者の私見ですが、投資向きの資質や性格というのはあるように思います。

カリスマと呼ばれる個人投資家の方を取材すると、市場や株価の動向について独特の嗅覚を持っていたり、誰も気づかないようなところから「勝利の法則」を見いだしていたりします。何より投資が好きで、投資を生活の中心に据えるのが全く苦にならないようです。

iDeCoやNISAを利用する若い世代が目指す「投資を資産形成にうまく取り入れているビジネスパーソン」も、昨今の株高を背景に確実に増えてきている印象です。

これに対し、投資は好きだけれど、現実にはなかなかうまくいかない人もいます。それでも数少ない成功体験に引きずられ、「夢よ、もう一度」と買い続けているわけです。かく言う筆者もその一人です。個人投資家には案外、こうした人が多いのではないかと思います。

「投資の代わりに仕事で頑張る」も1つの選択肢

一方で、投資に強いアレルギー反応を示す人も少なからず存在します。「苦労して貯めたお金が1円たりとも減ってしまうのは耐えられない」「株式を買ったら値動きが気になって何も手に着かなくなる」という方は、性格的に投資向きではないのかもしれません。

50代なら、これまでの人生で何度か投資デビューのチャンスがあったはずです。たとえば、株式売買委託手数料が自由化され、ネット証券が続々誕生したミレニアムの頃。さらに、2010年代のアベノミクス。そして、近いところではコロナ禍の投資ブーム。

しかし、未だにポートフォリオが預貯金と国債なのだとしたら、今から無理して投資する必要はないようにも思えます。

実際、お金のプロの中にも「投資はあまり得意な方ではないので仕事で頑張る」と公言している方もいらっしゃいます。健康に留意しながらマイペースで仕事を続けていけば、老後資金の不足分はある程度カバーできるのではないでしょうか。

高齢者の就業率は70代前半が30%、後半が10%を超えて年々増加しており(内閣府「令和4(2022)年版 高齢社会白書」)、高齢者が働きやすい環境整備も進んできそうです。

“食わず嫌い”の人もいる!

こういう話の流れだと、筆者が50代の投資デビューにかなりネガティブという印象を持たれてしまうかもしれません。しかし、止めておいた方がいいと申し上げたのは、投資で老後資金の一発逆転を狙おうとする人と、投資アレルギーの人に関してです。

余裕資金があって、これからの日本や世界の経済成長に期待するなら、投資してその成長の果実を得るのは極めて合理的な考え方だと思います。

そこで、最後にこんなエピソードをご紹介させてください。

筆者が配当投資家特集で取材した60代後半の女性は、還暦近くになって遅めの投資デビューをされた方でした。リタイアしたご主人と一緒に株式投資を始めたそうですが、飽きっぽいご主人が2〜3銘柄で損を出してすぐに手を引いたのに対し、彼女は高配当株に着目してコツコツ買い続け、今や月額ベースで老齢基礎年金(6万円強)並みの配当を得ています。

「投資を始めたことで日常にメリハリが生まれた。年金暮らしだから、小遣いも稼げて助かっている」と話す女性は、社会人経験が少なく時事にも疎い自分は投資に向いていないと思い込んでいたそうです。

それこそ、“食わず嫌い”というものです。

この女性のような方なら、ぜひ前向きに投資を検討していただきたいと思います。

欲をかかず、気長に、そして楽しむ。老後に向けて、そんな投資スタイルを目指してはいかがでしょうか?

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