コラムVol.171 経済指標の見方・読み方:インフレ指標編 〜CPIとPCE価格指数の違い等〜

2023年10月11日
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根本 浩之 (ねもと ひろゆき)
1985年東洋信託銀行(当時)入社。1986年以降19年間、主に内外債券、転換社債のファンドマネジャーとして年金運用業務に従事。
また、2022年3月まで8年半、プライベートアカウント(投資一任運用)のポートフォリオマネジャーとして、個人のお客さま向けに資産配分の提案や運用管理、運用報告等を担当。

注目が集まる米国のインフレ指標

2020年3月のコロナ禍による世界的なサプライチェーン(製品の原材料や部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ)の混乱が続く中、今度は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーや穀物の価格が高騰したこともあり、インフレ指標に注目が集まっています。そこで今回は、米国のCPIとPCE価格指数の特徴やその違い等についてできるだけわかりやすく解説します。

そもそも物価とは 〜一般物価と個別価格〜

経済統計における物価とは、個々の財・サービスの価格である個別価格(自動車や住宅、ガソリン等の個々の価格関係をみた相対価格)とは異なり、これらをまとめて全体としての動きを捉えた「一般物価」のことを指します。一方、全体の動きを示す「一般物価」を直接観察することはできないため、まず観測できる個々の財・サービスを一定の基準によってまとめたバスケットを作成します。次に、個々の財・サービスを一定のルールに従って加重平均することで、バスケットの価値の変化を計算して全体の動きが把握できます。これが物価指数であり、バスケット価格全体の変動として一般物価を捉える指標で、バスケット内の個別商品の価格変動としての個別価格(相対価格)の捕捉とは区別されます。

物価指数は、バスケットの作成基準や加重平均の仕方により、さまざまな種類があり、利用目的により選択される物価指数は異なっています。米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行が重視する物価指標には、消費者が購入する財・サービスの価格変化を捉えた消費者物価指数(CPI)やPCE価格指数などがあります。

消費者物価指数(CPI)

消費者物価指数(CPI)は、一般の消費者が購入する財・サービス価格の平均的な変化を反映しますが、米国では人口の約90%を対象とする全都市消費者物価指数(Consumer Price Index for All Urban Consumers)が採用され、米労働省労働統計局(BLS)が毎月発表しています。
CPIのバスケットを構成する財・サービスの選定は、個人消費支出実態調査(CE)※プログラムで収集された支出情報に基づいて決定されます。

  • 個人支出消費実態調査(CE)、は2つの別々の調査で構成されている。四半期ごとに実施される面談調査と記録(日々記録)調査だ。四半期ごとの面談では、家計回答者に高額購入(自動車、住居)や定期支出(賃料、光熱費)の価格について質問する。記録調査では、食料品、外食費、ガソリンなどの少額購入を把握するために、回答者に日々の支出を2週間にわたって記録してもらう。

現在のバスケットは、2021 年等に実施された調査が基になっており、選定に基づき毎月およそ9万4千品目に上る価格データが収集されます。個々の財・サービス価格から加重平均するための各品目のウェイトは、毎年1月(発表は翌2月)の購入額に応じて決定され、1年間はそのウェイトを固定することになります。このように物価指数を計算する際に基準時点のウェイトを使用して計算する方法を「ラスパイレス指数」といいます。

バスケット全体の動きをみたものが総合指数で、そのほか特定の項目を除いた指数もよく使われます。特に食料品やエネルギーは価格変動が大きく、その動きに総合指数が振らされてしまうため、物価の趨勢をみる際には、これら食料品やエネルギーを除いたコア指数が重視されています。

物価は通常、変化で測定されるため、CPIを用いて物価動向をみる場合には、前年同月からの指数の変化をみるのが一般的です。また、より短期的な動向を把握する場合には、気候要因などの影響を除いた季節調整済の指数を使って前月からの変化をみることもあります。

一方、CPIの問題点として、基準年のウェイトが固定されるラスパイレス指数を採用しているため、低価格品への代替効果(実際の消費行動では価格の上がった商品の購入を控え、替わりに価格の安い商品の購入を増やす傾向が観測される)が反映されず、実際の物価よりCPIが高く出てしまう「上方バイアス」が生じやすいという特徴がありますので、注意が必要です。

図表1 消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)の特徴
公表日時 毎月15日前後 <前月分のデータを発表>
(米国夏時間)日本時間午後9時半
(米国冬時間)日本時間午後10時半
公表内容 ・消費者物価指数(対前月比、対前年比)
・コア指数(変動が激しい食料品とエネルギーを除いたもの、対前月比、対前年比)
調査対象 ・衣料や食料品など約200項目の価格の変化(家計調査)
・医療費は自己負担分のみ集計
調査範囲 主に都市部
計算方法 ラスパイレス指数
→低価格品への代替効果が反映されないため、上方バイアスが生じやすい
公表機関 米労働省労働統計局
(US Bureau of Labor Statistics)
URL https://www.bls.gov/cpi/
図表2 消費者物価指数の推移(対前年比)
図表2 消費者物価指数の推移(対前年比)

出所:FRED(セントルイス連銀)より三菱UFJ信託銀行作成

PCE価格指数

PCE価格指数は、GDPを算出する際に家計の財・サービスの消費金額を集計する個人消費支出(PCE)統計を基に作成され、米商務省経済分析局(BEA)が毎月発表しています。

PCE価格指数もCPIと同様、基本的に消費者が購入する財・サービスの平均的な価格変化を示していますが、PCE価格指数には消費する主体として個人以外に非営利組織も含まれている点が異なります。また、対象とする財・サービスについても、CPIが家計で支出した金額のみを含むのに対して、PCE価格指数はより幅広く捉えています。たとえば、健康保険等を使って医療サービスを受けた場合、CPIでは自己負担分だけしか考慮されないのに対し、PCE価格指数では会社負担分も含まれる等の違いがあります。このため、PCE価格指数の方が消費主体、消費対象ともにCPIより幅広くなっているのが特徴です。

また、計算方法についても、CPIがラスパイレス指数(基準時点のウェイトで計算)を採用しているのに対し、PCE価格指数はフィッシャー指数(直近の比較時点のウェイトで計算するパーシェ指数とラスパイレス指数の幾何平均)を採用している点が異なっています。CPIの問題点として、ラスパイレス指数の上方バイアスについて触れましたが、フィッシャー指数を採用しているPCE価格指数は、上方バイアスを緩和することができるため、より包括的で、消費者の傾向や消費の好みの変化を的確に捉えているといわれています。

なお、PCE価格指数の趨勢をみるには、CPIと同様に食料品とエネルギーを除いたコア指数で分析するのが一般的となっています。

図表3 PCE価格指数の特徴
(個人消費支出価格指数<Personal Consumption Expenditures Price Index>)
公表日時 毎月下旬<前月分のデータを発表>
(米国夏時間)日本時間午後9時半
(米国冬時間)日本時間午後10時半
公表内容 ・PCE価格指数(対前月比、対前年比)
〜国内総生産(GDP)を構成する個人消費支出デフレーターを指す
・コア指数(変動が激しい食料品とエネルギーを除いたもの、対前月比、対前年比)
調査対象 ・企業の小売りデータ等に基づく(企業調査)
・保険制度による医療費の負担のように、企業や政府などが対価を支払うことによって消費者が享受するサービスについて全額が集計
調査範囲 米国全体
計算方法 フィッシャー指数(パーシェ指数とラスパイレス指数との幾何平均)
→比較時点のウェイトで計算するパーシェ指数とラスパイレス指数を互いに掛けて平方根をとったもの
公表機関 米商務省経済分析局
(US Bureau of Economic Analysis)
URL https://www.bea.gov/data/personal-consumption-expenditures-price-index
図表4 PCE価格指数の推移(対前年比)
図表4 PCE価格指数の推移(対前年比)

出所:FRED(セントルイス連銀)より三菱UFJ信託銀行作成

図表5 CPI(コア)とPCE価格指数(コア)の比較推移(対前年比)
図表5 CPI(コア)とPCE価格指数(コア)の比較推移(対前年比)

出所:FRED(セントルイス連銀)より三菱UFJ信託銀行作成

「CPI」と「PCE価格指数」どちらが重要?

CPIが「店頭の値札」を集計した指標であるのに対し、PCE価格指数は、「家庭の家計簿(実際の支出)」を集計した指標と捉えるとわかりやすいかもしれません。

CPI(消費者物価指数)=店頭の値札/PCE(個人消費支出)価格指数=家庭の家計簿

また、CPIの調査範囲が主に都市部(家計調査)なのに対して、PCE価格指数は米国全体(企業調査)を対象とするなど、より広い範囲をカバーしています。
さらに、PCE価格指数には、価格の上がった商品の購入を控え、替わりに価格の安い商品の購入を増やす「低価格品への代替効果」といった、実際の消費行動の変化を反映するため、単純な値段の変化よりも正確で、より物価の実態に近いとされています。このため、FRBはCPIではなくPCE価格指数(コア)を政策目標として採用しています。

CPI(消費者物価指数)=主に都市部/PCE(個人消費支出)価格指数=米国全体

では、PCE価格指数だけチェックしていればいいのかというと、そうとはいえません。各々の特徴の図表1・3にも記載していますが、CPIの発表日はPCE価格指数よりも半月程度早いのです。つまり、前月までのインフレ動向を速やかに把握するためには、下旬に発表されるPCE価格指数を待つまでもまく、中旬に発表されるCPIの動向を見て判断せざるを得ません。そのため、PCE価格指数の先行指標として、CPIにも注目する必要があります。

CPI(消費者物価指数) 中旬/PCE(個人消費支出)価格指数 下旬

足もと(8月)のCPIは、前年同月比で+3.7%、コアは同4.3%となっています。また、7月のPCE価格指数は、前年同月比で+3.3%、コアは同4.2%となっており、ともに総合指数よりもコア指数の方が高止まりしているのが特徴となっています。

いずれにしても、昨年以降インフレ率は頭打ち傾向となっていますが、FRBが目標とする2%までの乖離は依然として大きいままですので、FRBが金融引き締めの手綱を緩めるまでには、相当時間が掛かりそうです。

当面、CPIとPCE価格指数の各々の特徴を把握した上で、両者の動向を注視しなければいけない状況が続くといえそうです。

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