コラムVol.173 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 40〜50代こそ「新NISA」を使え!一番の注意点は?

2023年12月12日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

新NISAで日本の投資が大きく変わる?

2024年1月から、いよいよNISA(少額投資非課税制度)の新制度がスタートします。

ちょっと、否、かなり驚いているのは、この新制度に対する世の中の関心がいつになく高いことです。筆者自身、これまで投資とはほぼ無縁だった親戚や友人からいきなり「NISAってそんなにお得なの?」と尋ねられて面食らったことがありました。

全国の20〜30代6700人余りを対象に実施された直近の意識調査でも、NISAを「現在やっている」と「経験はないが関心はある」と回答した人の合計が全体の8割近くに上りました。新NISAは、欧米から大きく遅れていると言われる日本人の投資意識を一気に前進させる可能性を秘めているように感じます。

いきなりそんな大風呂敷を広げられても、そもそもNISAがどんな制度で、どこがどう変わるのか、よく分かっていないという方もいらっしゃるかと思います。以下、ざっくりご説明しておきましょう。

メリットは「恒久化」と「上限額の拡大」

NISAとは、株式や投資信託などの利益にかかる税金(現行制度では復興特別所得税を含めた所得税15.315%+住民税5%で20.315%)を負担しなくて済む制度です。制度を利用するためには、金融機関に「NISA口座」を開設する必要があります。

現行は積み立て投資用の「つみたてNISA」(期間20年、年ごとの利用上限額40万円)と、株式なども売買できる「一般NISA」(期間5年、年ごとの利用上限額120万円)の2種類があり、どちらか一方を選ぶ形です。

改正に関しては、大きく2つのポイントがあります。

1つ目は、2つのNISAの併用が可能になり、利用期限が撤廃されること。つみたてNISAは「つみたて投資枠」、一般NISAは「成長投資枠」と名称を変えて、両者は1つの制度に統合され、非課税期間が無期限になります。

2つ目は、NISAの利用上限額が大きく拡充されること。年ごとの利用上限額はつみたて投資枠が120万円、成長投資枠は240万円へと拡大されます。生涯トータルの投資枠は一気に1800万円(成長投資枠はうち1200万円まで)に増えます。しかも、途中で売却した際は翌年1月にその分の枠が“復活”するのです。

「若い世代のための制度」は大いなる誤解

今は非金融も含めていろいろなメディアにも新NISAの解説記事が掲載されています。たとえば、ある大手メディアには、「現行NISAでは30歳の人が老後に向けた積み立て投資をしようとしても、50歳までに原資ベースで800万円までしかできない。しかし、新NISAになると60歳を超えても原資ベースで1800万円(売却した分は除く)までの投資が可能になる」という形で改正のメリットが紹介されていました。

至極真っ当な指摘なのですが、こうした論調の記事を読むと、40代以上の方は「恩恵を受けるのは若い世代だけ、自分には関係ない」と受け止めてしまうのではないでしょうか。

だとしたら、非常にもったいないことです。昨今のインフレで将来の家計への不安を強めているのは、まさにこの世代ではないかと思われるからです。

老後に備えてインフレ対策の投資を考えよう

約30年デフレが続いたこともあり、海外で猛烈なインフレが起き混乱が生じているという報道があっても、日本人は“対岸の火事”のように考えていたフシがあります。しかし、ここに来て身近な食料品や光熱費などがぐんぐん上がるのを目の当たりにし、「インフレの怖さを実感した」という声をよく聞きます。

現役世代であれば物価上昇に伴い賃金もそれなりに上がりますし、副業を増やすといった増収策も取れます。しかし、いったんリタイアしてしまうと仕事の選択肢も狭まり、爪に火をともすような節約生活を余儀なくされている高齢者の方が少なくないようです。

インフレに強い株式などへの投資は単に資産を増やすだけでなく、将来の“保険”にもなります。リアルに老後を意識し始めた40〜50代こそ、新NISAの活用を検討していただきたいと思うのです。

制度を「目的」でなく「手段」として使う

とはいえ、「専門家やインフルエンサーが勧める投資信託を買っておけばいいだろう」といった安易な投資には同意しかねます。新NISAを「目的」にするのではなく、ご自分の投資の「手段」としてうまく活用することを考えたいものです。

たとえば今人気の配当投資で将来の年金を上乗せすることをお考えなら、成長投資枠で高配当株や高配当株ファンドを購入する手があります(配当金を非課税にするには受け取り方を「株式数比例配分方式」にする必要があります)。

老後のお小遣いを増やしたい場合は、つみたて投資枠を使って手数料の安いインデックスファンドなどを買っていくのも一法かもしれません。

近年成長著しい不動産やゴールドといった現物資産に魅力を感じている方は、成長投資枠でREIT(不動産上場投資信託)や金ETF(上場投資信託)といった証券化商品に投資することもできます。

NISAは「利益を出してナンボ」の制度

気を付けたいのは、NISA口座で損失を出してしまうことです。一般口座や特定口座で取引した株式や投資信託なら確定申告をすることで他の利益と相殺したり(損益通算)、損失が大き過ぎて相殺し切れなかった場合はその部分を最大3年間繰り越したり(繰り越し控除)することが可能です。

これに対し、NISA口座での損失分は損益通算や繰り越し控除ができません。NISAの非課税メリットは「利益を出してナンボ」と肝に銘じておくべきでしょう。成長投資枠を活用した投資でも長期の視点を持ち、購入銘柄や購入時期を分散することで利益の安定化を図っていくことが大切です。

最初の一歩は“ベストパートナー”選び

さて、新NISA発足という一大イベントを前に、金融機関側も盛り上がってきました。

このところネット証券の売買手数料無料化の発表が相次いでいます。一方、投信会社ではインデックスファンドを中心に手数料の引下げ競争が過熱しています。今後は各社が知恵を絞った新NISAの大キャンペーンが繰り広げられることになりそうです。

銀行、信託銀行、大手証券、ネット証券……NISAという枠組みは同じでも、商品ラインアップや手数料などはそれぞれ異なります。

ご自身の投資目的、各社の特性や使い勝手などを鑑みながら、まずは冷静にNISA新ステージの“ベストパートナー”を選ぶところから始めていきましょう。

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