コラムVol.182 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 金利のある時代は「ロクヨン」投資がオススメです

- 森田 聡子 (もりた としこ)
- 早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。
若年層に新NISA貧乏が増えている
新NISA(少額投資非課税制度)がスタートして7か月余り。金融庁が6月に発表した新NISAの利用状況調査によると、2024年3月時点の口座数は2322万7848件。2023年末の旧NISAの口座数(一般、つみたての合計)より1割近く増加しており、トータルでは日本人の5人に1人が口座を開設している計算になります。
一方で最近、「新NISA貧乏」という言葉をよく聞きます。「新NISAにお金を“全力投入”した結果、手元不如意になり貧乏生活を強いられている」人のことを指すそうです。
個人投資家の方がネットに上げている「新NISA活用法」の記事を読むと、「複利効果をフルに享受するためには、なるべく早い段階で限度額いっぱいまで投資しておく方がいい」と書いてあります(新NISAの場合、年間投資枠が360万円なので、最速5年で限度額1800万円に達する計算です)。
何千万円もの余裕資金がある方なら、おっしゃるとおりかもしれません。
しかし、こうした記述を鵜呑みにした投資ビギナーの方が、無理やり月々の積立額を引き上げたり、成長投資枠でスポット購入したりして預入額を増やした結果、新NISA貧乏に陥っているようなのです。
投資が生きがいで、そのためには爪に火を灯すような生活も厭わないという方なら、第三者がどうこう言うことではありません。しかし、若い世代がどうなるか分からない老後のために今の生活を犠牲にしているとしたら、それは本末転倒ではないでしょうか。
リスク資産の割合が80〜90%は攻めすぎ
新NISAの企画で取材した個人投資家に金融資産に占めるリスク資産の割合を聞いてみたところ、80〜90%という方が珍しくありませんでした。正直、これには驚きました。
病気や大けが、失業、被災、親の介護など、長い人生、いつどんなピンチに遭遇するか分かりません。こうした不測の事態に備えた「緊急予備資金」は必須です。金額はその人の置かれている状況によって異なりますが、シングルの人なら生活費3か月分以上、ファミリーなら同6か月分以上が目安と言われています。
“億り人”となった投資家なら、リスク資産が90%でも手元の緊急予備資金は1000万円以上あるので、いざという時も困らないでしょう。しかし、投資デビューしたばかりで金融資産50万円の方のリスク資産の割合が90%だったら問題です。新NISAにお金を注ぎ込む前に、まずは緊急予備資金を確保しておく必要があります。
資産のベストバランスは「6対4」
そもそも、リスク資産の割合はどれくらいを維持するのがいいのでしょうか?
その人の保有資産や年齢、家族構成、さらにリスク許容度などさまざまなファクターで変わってくるため一概には言えません。ただ、80〜90%はさすがに“攻めすぎ”ではないでしょうか。「100−自分の年齢(%)」といった数式が紹介されることがありますが、金融資産自体があまり多くない若い世代の方だと、これでもちょっと多すぎるように思えます。
1つの目安になるのが、「株式(リスク資産)6、債券(安全資産)4」という「ロクヨン」の法則です。
ベテランファイナンシャルプランナーの方から教えていただいたのですが、実はこれ、世界一の投資大国・米国でプロも使っている最も伝統的かつ効果的な投資戦略なのだとか。コロナ禍で株安と債券安が重なった2022年こそ成績が振るわず「ロクヨン投資は時代遅れか」と騒がれましたが、経済が“通常運転”に戻った今はまた見直されています。
マイナス金利解除で運用環境が変わった!
ただ、これまでの日本では「ロクヨン」投資を実践しようにもなかなかうまくいきませんでした。最大のネックが地を這うような低金利です。
政策金利が5%を超えている米国に対し、日本では債券や預貯金といった確定利付き商品からほとんど利息が取れないため、お金を増やしたいと思えばリスクを取って投資せざるを得ませんでした。
しかし、3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、さらに、過剰な国債の買い入れを減らしていくと明言したことで、目先は国債の需要が減少し、国債利回りは短期、長期ともに上昇していく可能性が大です。
実際、長期金利の代表的な指標である国債10年物の利回りは今年、13年ぶりに1%を超えました。金利のある今こそ、長期目線で「ロクヨン」投資に切り替えていくチャンスです。
適用金利が上がってきた国債に注目
具体的な数字を挙げてご説明しましょう。
たとえば、長期的なインフレ対策として資産運用を行っている方なら、日銀の「物価安定の目標(消費者物価の前年比上昇率)」2%が1つの目安になりそうです。
3年前の2021年の夏は国債10年物の利回りが0.01%程度でしたから、「ロクヨン」投資で2%の利回りを得るには、金融資産の6割を占める株式投資(リスク資産)でトータル3.33%の利益を上げる必要がありました。
しかし、今は国債10年物の利回りが1%程度まで上昇していますから、株式投資の利益目標は2.67%程度まで抑えられます。
日本でもしばらくは金利の上昇局面が続くと考えられます。安全志向が強い方なら「ロクヨン」にこだわらず、国債の比率を上げてもいいと思います。トータルで目標リターンが確保できればいいのですから。
個人が購入しやすい国債には、新窓販国債(2年・5年・10年)と個人向け国債(3年・5年・10年)があり、個人向け国債10年物だけが変動金利です。
金利上昇局面では短期固定金利(新窓販国債2年物)、または変動金利(個人向け国債10年物)を買っておき、金利がピークに近づいたら長期固定金利(新窓販国債10年物)で運用するのがオススメです。
ただし、個人向け国債は購入後1年間換金できないこと、新窓販国債は償還前に売却すると元本割れするリスクがあることには注意が必要です。