コラムVol.187 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 「2025年問題」本格始動で超高齢化時代到来、親の介護に正解はある?

- 森田 聡子 (もりた としこ)
- 早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。
65歳以上が2.6人に1人の「ハイパー高齢化社会」を予測
もうすぐ2025年がやって来ます。「2025年問題」の年です。
すでにご存じの方も多いかもしれませんが、2025年問題とは、1947〜1949年生まれの「団塊の世代」が後期高齢者(75歳以上)に移行し、日本がかつてない高齢化社会に突入することによって生じる、介護や医療、働き手不足などさまざまな社会問題のことを指します。
日本の総人口は2008年をピークに減少傾向にありますが、65歳以上の高齢者人口は年々増え続け、2024年9月時点で3625万人(総人口比29.3%)と過去最高を記録しました。
総人口に占める高齢者の割合は、2070年には38.7%に達すると予想されています。全国民の実に2.6人に1人が高齢者となるわけです(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」)。
20〜30年前は高齢者と言えば日当たりのいい縁側でお茶を飲んでいる“ご隠居さん”的なイメージがありました。しかし、今の高齢者からはもっとアクティブな印象を受けます。海外の有名歌劇場の来日オペラ公演や歌舞伎の桟敷席、大相撲のタマリ席といったお金のかかる娯楽の場面でも、高齢者の姿が目立ちます。
さらに、65〜69歳の半数以上、70〜75歳でも3人に1人以上は現役で働いています(内閣府「令和6年版高齢社会白書」、2023年時点)。
「人生100年時代」と言われますが、そこに向けて日本では新しい「超高齢化社会」が形成されつつあるように感じます。
アルツハイマー病は画期的な新薬登場も「根治」は厳しい
日本の平均寿命(2023年は男性81.09歳、女性87.14歳)は他国とくらべても極めて高い水準にあります。半面、急速な長寿化の進行に伴い、いわゆる「長寿病」の増加が懸念されています。代表的なものが「認知症」です。
2024年5月に厚生労働省の研究班が発表した調査結果によると、認知症の高齢者は2040年に全国で584万人を超え、高齢者全体の約15%を占めると見られています。
認知症の人の6〜7割がアルツハイマー病だと言われます。アルツハイマー病の薬は近年研究が進み、エーザイが米国のバイオジェンと共同開発した「レカネマブ」が2023年9月に、米国のイーライリリーの「ドナネマブ」が2024年9月に薬事承認されました。
レカネマブもドナネマブもアルツハイマー病の患者の脳に蓄積されて脳細胞を死滅させる「アミロイドβ」という異常たんぱく質を取り除き、進行を抑えることが期待されています。いずれも対象はMCI(軽度認知障害)や軽度のアルツハイマー病患者です。
「原因物質に働きかける」のは従来の対症療法型の薬とくらべると画期的ですが、残念ながら、根治を目指すものではありません。
今はAI(人工知能)などの先端技術を活用した創薬が行われていますから、ひょっとしたら何年か後にはアルツハイマー病の根治薬が“爆誕”するかもしれません。だとしても、治験をクリアして薬事承認に至るにはさらに数年かかりそうです。
アルツハイマーの予後は平均8〜10年、治療費は年162万円?
そうしたなかで気になるのが、親の介護問題です。
認知症の代表格であるアルツハイマー病は時間をかけて進行するため、周囲はその変化に気づきにくいものです。離れて暮らしている親ならなおさらでしょう。
また、アルツハイマー病の場合、時間や場所・人間関係の把握が難しくなる「見当識障害」や多動・徘徊などの症状が出やすく、日常的に第三者による見守りや介護が必要になります。結果として、一般的な高齢者の病気とくらべると治療よりもケアに主眼が置かれ、この部分のコストが大きくなるようです(今後薬剤による治療技術が大きく進展すれば、治療費も上昇していく可能性はあります)。
なお、アルツハイマー病の発症後の予後は平均8〜10年、治療費は患者1人当たりの医療費年29万7524円、公的介護費年132万5862円とされています(2021年に発表された、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学の池田俊也教授らの研究による推計値)。
ただし、「高額医療・高額介護合算療養費」という制度があり、世帯年収や年齢によって決まる自己負担額を超えた分は医療と介護で按分したうえで払い戻しが受けられます。
介護の二大セオリーは「離職しない」&「親のお金で賄う」
筆者の知人に、両親の介護のために勤務先の早期退職制度を活用して50歳を前に離職した女性がいます。当時は管理職を任されていて、「部下のマネジメントや、チームとして成果を出すことにいっぱいいっぱいで、介護に本腰を入れるなら辞めるしかなかった」そうです。
仕事を離れて時間的な余裕が生まれ、退職金も上乗せされたことから頼りになるプロのサポートも受けられ、その後8年に渡った両親の介護に悔いはないと言います。しかし、両親を看取った後は再就職がうまくいかず、今は介護業界で働いています。
キャリアを中断したことで離職時とくらべて収入は半分以下となり、介護費用で貯蓄も相当切り崩したことから、自分の老後資金が心配だとよくこぼしています。
彼女はひとり娘でシングルです。高齢化に加えて少子化・非婚化も進むなかで、彼女のように単独で両親の介護を背負うケースが今後増えていくのかもしれません。
以前取材をした介護の専門家は、親の介護のセオリーとして「介護のために仕事を辞めない」、「介護費用は100%親のお金で賄う」の2つを挙げました。
特におひとりさまは自身の老後や介護の問題も抱えているわけですから、この2つは意識しておきたいところです。
介護の「プレーヤー」でなく「マネジャー」になる
とはいえ、仕事をしながら親が払える費用の範囲内で介護を続けていくなんて「言うは易し、行うは難し」の極致です。どうしたら実現できるのか専門家に聞いてみたところ、「自分がプレーヤーになるのでなく、マネジメントを行う意識を持ってください」と助言されました。
介護はいつまで続くのか分かりませんし、やろうと思えばいろいろなことができるので、プレーヤーに専念すると早い時期に疲弊したり、燃え尽きたりしがちです。一方で、日本には公的介護保険制度があり、さまざまな施設にさまざまなプロがいるわけですから、そこに頼らない手はありません。
となると、介護の実務よりも介護の制度、法律などを勉強して、介護保険に基づいたケアプランを作成するケアマネジャー的な視点で親の介護をプランニングしていくことが重要になります。
その際にフル活用したいのが国の介護制度であり、地域の介護保険サービスであり、勤務先の介護関連の福利厚生制度です。
勤務先によっては介護休業2年、介護サービスの提供も
たとえば、家族の介護に当たっては家族1人につき合計3回、通算93日まで「介護休業」ができます。期間中は「賃金日額×67%」の介護休業給付金が受け取れます。収入が7割以下になるのかと不安になるかもしれませんが、給付金は非課税なので“手取り額”はあまり変わらないはずです。
介護のプレーヤーだと、通算93日では全然足りないのは明らかです。しかし、マネジャーとして介護のプロたちと連携したり、人手が足りない時のピンチヒッターになったりするなら、何とかうまくやっていけるのではないでしょうか。
病院への付き添いなどピンポイントの休暇が必要な際は、有給休暇を使わなくても家族1人につき年間5日まで介護休暇が取得できます。介護休暇は会社によって有給か無給か異なりますが、時間単位で利用できるので便利です。
家族の介護をする社員に対し、会社は「短時間勤務制度」、「フレックスタイム制度」、「時差出勤の制度」、「介護費用の助成措置」から最低1つ以上を採用することが義務付けられています。また、介護中の人が会社に届け出れば、会社は業務に大きな支障を来さない限り、その社員に月24時間、年間150時間を超える残業をさせることはできないという規定もあります。
人手不足の折、介護による人材流出を回避するために独自の介護支援を行う会社も増えてきました。社内に介護の相談窓口を開設する、前述した介護休業を最長1〜2年に延長する、介護離職者の復職を支援する、さらに、会社によっては介護サービスの提供を行うところもあります。「いざ介護」となる前に、勤務先の介護支援制度を把握しておきましょう。
認知症になってしまった後では、親の本音を聞き出すのは困難です。できるなら親が元気なうちに、最期まで自宅で過ごしたいのか、それともプロの目が届く施設で見てほしいのか、介護に備えてどれくらいの預貯金があるのか、お金の管理は誰に任せたいのかといったことを親子で話しておきたいものです。
さらに、親の認知能力が低下してしまうと実子であっても親のお金を簡単には動かせなくなります。日本には、弁護士や司法書士などの成年後見人を立てて財産を管理する成年後見制度がありますが、この制度は今後大きく変わる予定で、2026年度の法改正を目指して議論が行われています。この議論の行方にも注目しておきましょう。
お子さんのいらっしゃる方なら、お子さんは親が祖父母をどのように介護したのかを見ていますし、あなた自身が要介護となった時には、その“学び”が生かされることになるかもしれません。
親の意思を踏まえるのはもちろんですが、全体を俯瞰する立場から、何より自分自身が後悔することのない介護の形を選んでいただきたいと思います。