コラムVol.192 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと ポイント封印後の「シン・ふるさと納税」との付き合い方

2025年5月13日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

個人住民税納税義務者の6人に1人が利用

ふるさと納税は、住所地の自治体に本来納めるべき住民税の一部を自分の故郷や応援したい自治体に付け替えることができる制度です。納付する税額自体が減るわけではありませんが、住所地以外の自治体への寄附だと返礼品として地域の特産品などが受け取れることから人気を集めています。

返礼品の充実に伴い、ふるさと納税の市場規模は年々右肩上がりに拡大し、令和5年度(2023年度)は自治体の受入件数が約5894万6000件に、受入総額は約1兆1175億円と初めて1兆円の大台を突破しました(総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」令和6年度実施)。

ふるさと納税の利用者も約1000万人に上り、これは個人住民税(所得割)の納税義務者約6017万人(「令和5年度市町村税課税状況等の調査」)の約17%に相当します。有資格者の6人に1人が利用していることになります。

10月以降はふるさと納税の“ポイ活”不可に

筆者が取材したふるさと納税の達人が教えてくれた得するポイントが、①同じ返礼品なら還元率(寄附額に対する返礼品の市場価格の割合)の高い方を選ぶこと、②ポイント還元がある仲介サイトを選んでクレジットカード払いで寄附をし、ポイントの二重取りをすること、③ポイントアップのキャンペーンを狙うこと――の3つです。

一部の仲介サイトでは利用者獲得のためのポイント還元競争が激化していることから、3つのうち2つはポイント絡みでした。

とはいえ、ふるさと納税では「返礼品は寄附額の3割以下、経費も含めると5割以下とする」という厳格なルールが定められていて、ポイントの分を加えると基準をオーバーしてしまう可能性があります。

こうした状況を踏まえ、総務省は2024年6月、自治体に対して「2025年10月以降はふるさと納税にポイントを付与する仲介サイトの利用を認めない」旨の通達を出しました。

9月末までの“駆け込み寄附”もあり?

誤解も多いようなので改めて説明すると、規制の対象はあくまで仲介サイトが付与するポイントです。クレジットカードで寄附をした場合のクレジットカードのポイントまでは規制されません。

それでも筆者の周辺のヘビーユーザーには「ポイントがないと、ふるさと納税の魅力が半減する。2025年の寄附は9月までに決着をつける」と息巻いている人がいます。3月には大手サイト楽天の三木谷浩史会長が石破茂首相に同サイトで募ったポイント付与禁止に反対する300万件近い署名を提出するなど、通達をめぐる騒動の余波はまだ収まっていないように見えます。

一方で、10月以降の大変更は、ふるさと納税との付き合い方を見直す好機になるように思います。

2024年12月からはAmazonが、ふるさと納税の取り扱いをスタートしました。自社の配送網を活かして最短翌日配送を可能にしただけでなく、他の仲介サイトより安い寄附額を提示し、横並びの金額設定(一物一価)に風穴を開けました。

2025年3月にはファミリーマートによるふるさと納税サービスも始まっています。PB商品など手頃な寄附額の返礼品を揃え、自社アプリ「ファミペイ」で支払いをし、近くの店舗ですぐに受け取れるのが特徴です。

既存の仲介サイトを見ても、ふるなびが宿泊予約サイトを立ち上げ、他のサイトでも独自の返礼品を開発するなど“ポイント封印後”を見据えた動きが出てきており、ふるさと納税新時代の到来を予感させます。

ふるさと納税は物価上昇時代の救世主

では、制度の利用者はどのように考えたらいいのでしょうか。

2024年は消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が43年ぶりの高水準となりました。食料品価格をはじめとする物価上昇の勢いは一向に衰える気配がなく、2025年春闘の賃上げラッシュも焼け石に水の観があります。2025年3月に発表された1月分の実質賃金はマイナスに転落しています。

ふるさと納税関係者によると、そうした中で返礼品人気がいわゆる“自分へのごほうび系”から“日常使い系”へとシフトしてきていると言います。とりわけ、2024年度は“令和の米騒動”を受けて米の返礼品への寄附が殺到。米どころとして知られる新潟県や富山県などの自治体では、受け付け中止が相次ぎました。

米などの主食や卵、野菜など値上がりが続く食料品の一部をふるさと納税でカバーできれば、その分の出費を抑えることができます。トイレットペーパーや紙おむつ、洗剤など生活必需品のラインアップも充実しており、こうした雑貨を返礼品にすれば、節約だけでなくスーパーやドラッグストアから運ぶ手間も省けます。

ふるさと納税の返礼品には電力もあります。返礼品を提供する電力会社に契約を切り替える必要があり、違約金が発生する場合などは注意が必要ですが、高止まりする電力料金をふるさと納税である程度賄うことができれば、家計にとっては大きな助けになります。

旅の軍資金や社会貢献にも使える!

近年はふるさと納税のスタイルも多様化しており、仲介サイト経由の寄附以外にもいろいろなやり方があります。

たとえば、家族や友人と出かけた旅行先で専用サイトに寄附をすると、寄附額の30%相当のデジタル商品券がすぐに受け取れ、現地での食事や買い物に使える制度を導入する自治体も増えています。観光名所や駅、空港などにふるさと納税の自販機が置いてあって、お土産を買う感覚で寄附ができたりもします。

旅好きな人や出張の多い人なら、上記のような使い方も一考に値しそうです。

能登半島地震のような災害の被災地を支援する時も、ふるさと納税の仕組みを使えば、思い立った時にすぐに寄附ができます。実は、ふるさと納税による支援は被災地にもメリットがあります。義援金だと決められた手順を踏む必要があり被災者の手元に届くまで時間がかかってしまいますが、ふるさと納税の寄附金は被災した自治体に直接送付されるので、被災地に必要な物資を届けたり、医療従事者を派遣したり、その時々で必要な支援活動に機動的に活用できるのです。

経済的な援助を必要とする組織や慈善活動家によるクラウドファンディングも多数行われており、社会貢献にもぜひ、ふるさと納税を役立てていただきたいと思います。

シングルの人や投資で儲けた人にお勧め!

特に、ふるさと納税の利用をお勧めしたいのが、シングルの人と高額納税者の人です。

シングルの人は給与の支給額が同じでも配偶者や子どもの控除がない分、手取りが低くなりがちです。2026年4月からは「子ども・子育て支援金制度」が導入され、拡充された児童手当などの支払い用に健康保険から月額で平均数百円(年収に応じて変わる)が徴収されますが、シングルの人たちは抗議の意も込めてこの制度を「独身税」と呼んでいるようです。

しかし、ことふるさと納税に関しては、納税額が多いシングルの人が有利な仕組みになっています。ふるさと納税の制度を利用できる寄附の限度額は、年収600万円だとしたら専業主婦(夫)の配偶者と高校生や大学生の子ども2人を扶養する会社員が4万3000円なのに対し、シングルの会社員は7万7000円もあります(総務省「ふるさと納税ポータルサイト」による)。

要は、高額納税者ほど寄附の限度額がアップし、より多くの、より価値の高い返礼品が受け取れるわけです。高給取りの人だけでなく、暗号資産やゴールドなど投資で大きな利益を得た年にも、ふるさと納税の有効利用を考えたいものです。

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