コラムVol.198 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 注目は雇用統計や物価指数!投資も“データ思考”が必要なワケ

- 森田 聡子 (もりた としこ)
- 早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。
個人投資家が知っておきたいアメリカの経済指標
NISA(少額投資非課税制度)やDC(企業型確定拠出年金)では、S&P500に代表されるアメリカ株式や、MSCIオール・カントリー・ワールド指数(ACWI)など世界株式のインデックスに連動する投資信託を使った運用が増えています。
投資可能な世界の株式の85%をカバーするACWIも、国別構成比では7割近くをアメリカ企業が占め、2位の日本の5%弱を大きく引き離しています。
“世界のセンター”アメリカの経済や株式市場の動向は、日本の個人投資家にとっても気になるところでしょう。株式市場にインパクトを与えるアメリカの雇用統計や消費者物価指数も、昨今、頻繁にニュースメディアで取り上げられています。
そこで今回は、個人には馴染みが薄いかもしれませんが市場関係者や投資のプロがウオッチしているアメリカの各種統計と、データを見るポイントをご紹介したいと思います。
雇用統計は「雇用者が増加すれば良し」ではない
市場関係者がウオッチするアメリカの代表的な経済指標の1つが「雇用統計」。米労働省労働統計局(BLS)が毎月第1金曜日に発表する前月の雇用情勢調査の結果です。中でも注目されるのが「失業率」や、製造業やサービス業といった農業以外の産業で前月比どれだけ雇用者数が増えたかを示す「非農業部門雇用者数」です。
雇用が増えるのは、その国の経済活動が活性化している証と言えますし、税収の増加や社会保険料の安定徴収にもつながります。とはいえ、雇用者数は必ずしも大きく増えるのがいいとは限りません。マーケットに影響を与えるのは、「市場関係者による事前予想との乖離」です。“好ましい方向”への乖離が大きければポジティブサプライズとなりますが、逆ならネガティブサプライズでマーケットは下落します。
“良い方向”でなく“好ましい方向”としたのは、たとえば、マーケットで利下げ(金融緩和)への期待感が高まっている時には、雇用者数の伸びが鈍化するといった景気悪化のサインが好感されるからです。
「新規失業保険申請件数」は重要な先行指標
同じくBLSが毎月発表している「雇用動態調査(JOLTS)」もマーケットが重視しているデータの1つです。これは、商工業やオフィスの求人件数、採用、離職などの動向を表すことから、景気の「先行指標」と目されています。
先行指標とは、物事の先行きを示し、将来の経済活動やマーケットの動向を予測するのに使われるデータのことです。これに対し、経済やマーケットの変化に遅れて反応し、後から変化を確認するために使われるデータを「遅行指標」と呼びます。前述した雇用統計には先行指数が多いのですが、「失業率」は遅行指標です。景気が良くなり雇用が回復してきても、失業率が低下するまでにはタイムラグがあるからです。逆に、景気が悪化して雇用を維持できなくなった場合も、人員整理には時間がかかります。
雇用関連の代表的な先行指標としては、「新規失業保険申請件数」もあります。文字どおり、失業者が初めて失業保険の受給を申請する件数を意味し、この増加は雇用情勢の悪化、ひいては景気後退を示唆するものです。2025年9月に初週の新規失業保険申請件数が26万3000件を記録、市場予想を上回って約4年ぶりの高水準となり、FRB(米連邦準備制度理事会)への利下げ圧力が強まったことは記憶に新しいところです。
「消費者物価指数」もFRB金融政策への影響大
雇用統計と並ぶ代表的な指標が、「消費者物価指数(CPI)」です。CPIは主に都市部の消費者が日常的に購入する商品やサービスの価格を指数化したもので、アメリカの物価動向を見る指標です。このうち、変動率の大きい食料品とエネルギーを除いたのがコアCPIです。
アメリカが政策目標(インフレターゲット)に採用しているのは全米の財やサービスの消費額を合計した「個人消費支出(PCE)デフレーター」であり、CPI(2%)を政策目標とする日本とは事情が違います。にもかかわらずCPIがマーケットから注目されるのは、CPIがPCEデフレーターと似た動きをしており、かつ、発表時期(毎月15日前後)の関係で同時期のPCEデフレーターにくらべて半月ほど早くデータが公表されるためです。
FRBは「雇用の最大化」とともに「物価の安定」を使命に掲げ、こうした指標を睨みながらバランスシートの調整(量的緩和と量的引き締め)、政策金利の誘導などの金融政策を行っているのです。
消費者意識から景気の先行きを見る指標も
消費者マインドの変化から景気動向を読み解く指標もあります。主な指標としては、ニューヨーク連邦準備銀行消費者調査や、アメリカ・コンファレンスボードやミシガン大学の消費者信頼感指数が挙げられます。
ニューヨーク連銀調査は1年先・3年先・5年先のインフレ期待率や、失業や自主退職の可能性、1年先の賃金の伸びといった労働市場の今後を予測するもので、毎月第2週に発表されます。
アメリカ・コンファレンスボード消費者信頼感指数は、非営利の民間調査機関である全米産業審議委員会が5000人の消費者に調査を行い、1985年を100として現在と6カ月後のビジネスや労働市場の景況感を指数化したものです。発表は毎月最終火曜日です。
ミシガン大学消費者信頼感指数の方は300〜500人の消費者へのアンケート調査に基づく現在の景況感(現状判断指数)と先行き(先行き期待指数)を示したもの(1964年を100とする)。毎月第2または第3金曜日に速報値、最終金曜日に確定値が発表されています。
いずれも数値が高いと消費者支出が増加するとされ、個人消費の動向を見る上で重要なデータとなっています。
関連産業への影響が大きい「住宅着工件数」
住宅関連の指標も、景気の先行指標として注目されています。有名なのは米商務省国勢調査局(USCB)が毎月第3週に発表している「住宅着工件数」でしょう。アメリカ国内で特定月に建設が始まった新規住宅の件数の増減を示し、関連産業への波及効果が大きい住宅市場の実需の強弱が分かります。住宅取得に動くのは、家計が将来に対して強気だという見方もできます。
こうした数々の指標が日々、株式のみならず、為替、債券、さらには2025年話題の金(ゴールド)など広範なマーケットに影響を与えているわけです。ウェブサイト上に主要指標の発表スケジュールをまとめて開示している証券会社やFX(外国為替証拠金取引)会社もあるので、ブックマークしておくと便利です。
データを読み解いて自分なりの投資ストーリーを描く
企業は事業環境や経営のデータを起点にビジネスのストーリーを創出していく“データドリブン”経営を進めています。個人の投資においても、こうしたデータを基に経済やマーケットの動きを予想して自分なりのストーリーを組み立てられたら、投資の幅が広がり、よりレジリエントなポートフォリオの構築が期待できそうです。
データを自分の仕事やキャリアアップにつながる勉強とリンクして活用することができれば、より実現可能性は高まります。
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