コラムVol.202 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 4月からの“独身税”は「国のシングルいじめ」という残念な誤解

2026年3月10日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

「払いたくない(泣)旦那探します」

2026年4月から“独身税”が導入されます。
「今年一番モヤる」、「今の日本は税金だらけ、独身税も仕方ない」、「払いたくない(泣)旦那探します」――SNSでは年初からさまざまな意見が飛び交っています。
毎年賃上げがあるのに税金や社会保険料の負担が重くなるだけで手取りが全然増えない。
そんな不満を溜め込むシングルの人にとって、独身税とは聞き捨てならない話ですよね。
今回は、気になるその中身についてご紹介しましょう。

少子化のブルガリアで導入も失敗

独身税とは文字どおり、シングルの人にだけかかる税金のこと。実際の導入例もあり、たとえば、ブルガリアでは1968年から約20年間にわたって適用されていました。

ブルガリアの独身税は25歳以上のシングル(離婚した人も含む)に対し、収入の5〜10%の税金を追加徴収するというものでした。当時のブルガリアは人口減少が深刻で、共産党政権が経済的なペナルティを課すことで独身の男女に結婚を促したのです。

しかし、この施策はとても成功したとは言えません。収入の少ない若年層にとっては税負担が重くて結婚資金が貯められず、逆に結婚したくてもできない人が増加。国民からの反発も強く、結局、この制度は1989年のブルガリア民主化の年に廃止されました。

税金でも、シングルだけが払うものでもない

翻って日本の独身税です。

2026年4月から導入されるこの制度を独身税と呼ぶのは、2つの理由から違和感を覚えます。まず、これは税金ではありません。さらに、シングルの人だけが負担させられるものでもないのです。

正式な制度の名称は「子ども・子育て支援金」。日本では予想を上回るピッチで少子高齢化が進行しており、2030年代には若年人口が大きく減る見込みです。待ったなしの対策として2023年に当時の岸田文雄政権が取りまとめたのが、予算規模で3兆6000億円に上る「こども未来戦略」でした。

具体的な施策としては、児童手当が大幅に拡充(所得制限を廃止し期間を高校卒業まで延長、第3子以降を増額)され、出生後休業支援給付(育児休業給付と合わせて最大28日間、休業前の手取りの10割相当額を給付)や育児時短就業給付(時短勤務中の賃金の10%を給付)などが創設されており、これらの財源確保のために新たに徴収されることになったのが子ども・子育て支援金なのです。

2026年度は年収600万円の人で月額575円

支援金は高齢者や企業を含めた全世帯、全経済主体から拠出し、皆で子育て世帯を支えるというのが制度の大前提です。

徴収は公的医療保険の保険料とセットで行われます。一般保険料とは別区分になりますが、あくまで健康保険料の一部という位置付けです。従って、会社員の場合は健康保険料同様、半分を勤務先が負担します。

総徴収額の目安は2026年度が約6000億円、2027年度が約8000億円、2028年度が約1兆円……となっており、段階的に増えていきます。

健保組合や協会けんぽ、共済組合などの被用者保険では2026年度の支援金率は一律0.23%。個々の標準報酬月額(給与の額を第1級から第50級までの等級に当てはめたもので健康保険料の算出ベースとなる)にこの半分の0.115%(勤務先と折半)をかけた金額が5月分の給与から天引きされるようになります。国の試算では、年収600万円の人だと月額575円、年収1000万円の人は同959円です。

健康保険料と同じようにボーナスからも徴収され、産休中や育休中は支払いを免除されます。

子育て世代は給付や支援を積極活用すべし

ここまでお読みくださった方は、子ども・子育て支援金がブルガリアの共産党政権下で導入された独身税とは全く別物であることが、ご理解いただけたかと思います。

シングルだけでなく、当事者の子育て世帯も、子どものいない世帯も、子育てを終えた世帯も、高齢者も、企業も、皆が“オール・ジャパン”で支援金を負担するわけですから、支払いを回避するのは困難です。

ならば、発想を変えて制度を目一杯活用しませんか?
こども未来戦略には給付金の他にも、6カ月以上3歳未満の未就園児を毎月10時間まで保育所や認定こども園などに預けられる「こども誰でも通園制度」や、放課後児童クラブの受け入れ児童数の拡大などの支援策があります。子育て世帯の方は制度を目一杯活用して育児に伴う経済的・時間的負荷を軽減し、家族との生活やご自身のキャリアをより一層充実させていただきたいと思います。

非子育て世帯は組合のサービスを積極利用しよう

一方で、子育て世代以外の方は、これを機に、ご自身の健康保険料の“費用対効果”を見直してみてはいかがでしょう?

健康保険の最大のメリットは、加入者本人や扶養家族が幅広い医療を3割負担で受けられ、組合によっては上乗せ給付でさらに自己負担が抑えられることです。保険が適用される範囲は年々拡充されており、近年は不妊治療(体外受精などの基本治療)、歯科のセラミック治療の一部などもOKになっています。

さらに、医療費の自己負担分については高額療養費の制度もあり、月ごとに一定額(収入によって段階的にアップする)を超えた分は払い戻しが受けられます。また、加入者が病気やケガで仕事ができなくなり、勤務先から給与が払われない時には傷病手当金も支給されます。

加入者向けサービスのフル活用で“元を取る”

ただ、自分や家族がこうした恩恵を受ける機会がないと、なかなか健康保険のメリットを実感しにくいかもしれません。そういう方には、組合の加入者向けサービスの積極活用をお勧めします。

人間ドックやスポーツジムの割引、保養所などはすでに「使っている」、「使ったことがある」という方が多いと思います。しかし、組合によっては、他に、アミューズメント施設やテーマパークの入場料補助、映画やミュージカルのチケット代助成、レストランの利用料金助成などの制度もあります。

毎年の値上げで“高嶺の花”と化したテーマパークや、“推し”の出演する映画やミュージカルが割引価格で利用できるとなれば、使わない手はありません。4月は年度の切り替えで新しい案内が届くタイミングでもあり、加入している健保組合のウェブサイトなどを確認してみてください。

年収600万円のシングル(40歳未満)を例に取れば、健康保険料負担は約30万円(月額約2万5000円)! 少しでも“元を取る”ことを考えたいものです。

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