コラムVol.48 人生100年時代:健康への不安を「これは老化で当たり前」と片付けないように

2019年10月15日
コラム執筆者の写真
佐貫 総一郎 (さぬき そういちろう)
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、2級キャリア・コンサルティング技能士(国家資格)・産業カウンセラー。1981年、慶應義塾大学経済学部卒後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。個人財務相談、事務要員の算定、証券、年金、相続などのさまざまな業務を経験、支店次長、財形事務センター長などとしてマネジメント業務にも携わったのち、ライフプランセミナー講師を務めた。三菱UFJ信託銀行を退職後、オール・アセット・アンカー(株)を設立。ライフプラン・マネープラン・キャリアプランなどの支援や働き方改革の関連などでの執筆・セミナーなどで活動中。著書に『現場からはじめる働き方改革』(共著)(2019年3月発刊・金融財政事情研究会)がある。

加齢と老化

高齢ドライバーによる事故の多発を踏まえ、運転免許の自主返納や安全運転支援機能付きの車のみが運転できる高齢者向けの限定免許の創設、通学路への防護壁の設置などの対応策などについての報道が頻繁にされています。高齢者を事故の元と決めつけるような差別にも似た考えが横行しないことを祈りたいところですが、年齢を重ねる(加齢)に従い身体の機能や認知能力が落ちていくことも否定できないところです。いわゆる「老化」です。
ところで、なぜ老化が起きるのかには諸説あるようです。
その有力な説の1つにプログラム説というのがあります。動物には決まった寿命があり老化するようにプログラムされている、つまり遺伝子が老化をコントロールしているというものです。それぞれの細胞に分裂できる限界の回数を迎えると分裂ができずに老化が発生します。また、別な説として、染色体の末端にあり染色体を保護・補修する役割を持つ「テロメア」が、細胞分裂のたびに短くなりその機能が発揮できなくなることで老化するというテロメア短縮説があります。その他活性酸素の影響、ミトコンドリアの機能低下などの諸説があるようです。いずれにせよ、加齢に伴い細胞レベルでの機能低下や染色体の複製のエラーなどにより老化が進むことは否定できないということです。
ただ、そこには個人差もあり、自身の身体をケアしたり、状態をしっかり認識するなどが大事なのは言うまでもありません。

そもそも健康とは

私たちは、普段の生活の中で使っている身体に関する言葉がたくさんあります。例えば、健康・疲労・加齢・老化・介護といったものでしょうか。ただ、これらの言葉も人によりイメージする状態が違っていたりもするでしょう。
英文で、「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」。日本語に訳すと、「健康とは、完全に、身体面・精神面・社会面のすべてが良好な状態であり、単に病気や病弱でないことではない」。これが、世界保健機構(WHO)憲章に記載されている健康の概念です。「完全に」・「すべて」という言葉が使われているように厳格であるとともに、身体面に加え精神面・社会面も含めた概念とされています。
健康がどんな心身の状況かについての認識は、十人十色かもしれません。自身の心身の状況がどのような状態であることが「健康」なのか改めて考えてみるといいでしょう。

「フレイル」

老化などが原因となり、健康から不健康(あるいは要介護状態)へ移行する過程は、通常一足飛びではありません。
「フレイル」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。
「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」※1です。体が外部からのさまざまなストレスに対して弱くなり、不健康に至る可能性のある状態といえます。

フレイルのイメージ
フレイルのイメージ

このフレイルは、身体的問題(身体的フレイル)、精神心理・認知的問題(精神心理的フレイル)、社会的問題(社会的フレイル)3つの側面での出現に区分されています。身体的フレイルについては、以下のような日本版CHS基準という診断方法が提唱されています。年齢を重ねてもこのような状況に陥らないように体の各部位などのケアを考えるといった視点として、生活習慣づくりなどへの意識や身体の変化への気づきのヒントになれば幸いです。適切な対処により健康に戻るチャンスを逃さないようにせねばなりません。

【日本版CHS基準※2
日本版CHS基準

3つ以上該当→フレイル、1〜2つ以上該当→プレフレイル

ついでですが、経済的な困窮という事象も「社会的フレイル」の一側面とされています。勝手な記載をさせていただくと、人生100年時代にはもうひとつ「経済的フレイル」(筆者の勝手な造語)という概念を切り出して考えてもいいのかなと思っています。金融面でのリテラシー(知識や判断力)、的確なマネープラン(長期家計計画)やお金への向き合い方による家計の健康状態の維持・改善のために、「ここ1年で貯蓄の目減りが激しくないか?」などといった定期チェックの観点も必要でしょう。

  • ※1 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究 研究代表者 鈴木隆雄
  • ※2 一般社団法人日本老年医学会、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「フレイル診療ガイド2018年版」

「健康寿命」という言葉も健康管理の習慣化に生かす

健康寿命は、寿命のうち健康な期間(寿命から「健康でない期間」(不健康期間)を引いた期間)とされています。これもWHO(世界保健機構)が2000年に提唱した概念ですが、近頃はよく耳にするようになった感があります。この「健康寿命」についてのイメージが不安に結びついていることはないでしょうか。
平成28年「健康寿命」は、おおよそ、男性72年・女性75年となっています(厚生労働省公表)。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされ、各種の取り組みが功を奏し毎年延びています。

  • 数値は厚生労働省の公表データ(平成28年の簡易生命表・第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料など)

この健康寿命ですが、「男性ならば72歳、女性ならば75歳までは健康でいられるけど、その後の平均寿命との差(表内の「差:A−B」の男性9年・女性12年程度)は体の自由が効かなくなるのが普通」といった誤解もあるようです。健康寿命は、それぞれの年齢毎の健康な人の割合を用いて算出されています。健康でいられる年齢の上限の平均ではなく、年齢が進むに従い、不健康な状況の割合は高くなりますが、「一定年齢以降はみんな不健康」ということではありません。
「健康寿命の年齢までいったら不健康になっても仕方ない。」といった不安をあきらめに変えてしまうようなことがあってはいけません。個人差なども踏まえて、自身の健康をしっかり管理することが大事になります。

ご留意事項

  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。