コラムVol.66 『敵は本能にあり』:新型コロナ・ショックと長期投資(2)

2020年5月22日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

新型コロナ・ショックにおける長期投資の考え方

当コラムは、新型コロナウイルス感染拡大を契機に起こった世界金融市場の急落(以下、「新型コロナ・ショック」)の背景と相場急落時における長期投資の考え方を、2回に分けてご説明しています。2回目の本稿は、「新型コロナ・ショック」における長期投資の考え方について(2020年4月30日時点の情報で記載しております)。

何故、バブルの発生や崩壊は繰り返されるのか?

世界の株式市場は、1987年のブラックマンデー、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショック、そして今年の新型コロナ・ショックのように、約10年に1度、「バブル発生の急上昇」と「バブル崩壊の急落」を繰り返してきました。では何故、バブルの発生や崩壊という異常事態が起こるのでしょう?その原因の一つは、欲望や不安などの感情に左右され易い人間の行動パターンにあると思われます。たとえば、相場が上昇すると欲の出た人の買いで上昇は続き、金融緩和やITブームなどの好材料が加わると多くの人が買い始めて上昇は加速し、最終的に焦った残りの人々も一気に買うという、「相場の上昇が人々の欲望を刺激して買いが増え、更に相場が上昇」する循環がバブル発生の背景。逆に、新型コロナウイルス感染拡大のようなショックで相場の流れが反転すると、「相場の下落が人々の不安を増大させて売りが増え、更に相場が下落すると皆がパニック的に投げ売りして相場は急落」する結果、バブルは一気に崩壊してしまうのです。

相場急変の原因となる感情の変化については、江戸時代の米相場の頃から伝わる「相場格言」も様々な教えを残しています。「相場は頂上において最も強く見え、底値において最も弱く見える」は、相場変動によって揺れ動いてしまう感情の危うさを戒めており、「行き過ぎもまた相場」は、集団パニックが引き起こす相場急変の怖さを警告しています。つまり、江戸時代の米相場でも現代の株式・為替相場でも最終的に売買を判断するのは人間であり、相場の材料こそ「好天と干ばつ」や「ITブームと新型コロナウイルス感染拡大」と異なるものの、人間の感情が短期的に相場を動かす構図に変わりはないということ。では、過去から何度も繰り返されてきたバブル崩壊の一種である新型コロナ・ショックにおいて、長期保有を前提とする長期投資家は何に注意をすればよいのでしょう?

このような時期だからこそ、知っておきたい「相場格言」

新型コロナ・ショックにおいて、長期投資家は何に注意すればよいのか?

そもそも長期投資とは、長期的に成長性の高い相手へ資金を投じ、自分の代わりに資金を大きく増やしてもらい、その分け前に預かる行為ですから、長期投資家が現在チェックすべきポイントは、新型コロナ・ショックを受けた投資先の成長性の変化です。もし成長期待が変わらないのであれば投資を続けるし、成長ストーリーが壊れたのであれば投資を止めるという、非常にシンプルな二者択一。現状、新型コロナウイルス感染拡大やワクチン開発状況が不透明な中、将来の予測などできないと思われるかもしれませんが、長期投資家にとって重要なのは、あくまで過去から綿々と成長を続けてきた大きな方向性であって、数年程度の好不調の波ではありません。この点は、相場格言も「鹿を追う者は山を見ず(目先の相場変動ばかり追っていると、大きな方向性を見失ってしまう)」や「漁師は潮を見る(目先の相場でなく、大きな流れに注目した方が良い)」と、大きな方向性に注目する投資の大切さを説いています。

一方、「世界経済は疫病や戦争などの危機を何度も乗り越えてきたのだから、今度の新型コロナ・ショックも乗り越えられる」と考えて投資を継続する長期投資家でも、実際目の当たりにするのは日々の現実ですから、揺れ動く感情が思わぬ行動の引き金となる危険性には注意が必要です。たとえば、連日新型コロナウイルス感染拡大の報道に接していると、ついつい将来の展望も弱気になり、相場急落につられて衝動的に売却してしまうというリスク。本来ならば長期成長性という将来へ向けた「大きな方向性」に注目すべき長期投資家ですが、人間は目の前の「大きな相場変動」に一喜一憂してしまう生き物でもあります。そこで、相場格言は「木は庭に植えず山に植えよ(相場を常に見ていると売買したくなるため、たまには離れた方が良い)」と、相場から距離を取る大切さを教えてくれます。つまり、新型コロナ・ショックのように不安定な社会情勢や相場急変が続く環境において、長期投資家が注意すべきは欲望や不安など己の感情であるため、「敵は本能にあり」と、冷静に相場を俯瞰する姿勢が重要なのだと思われます。

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