コラムVol.75 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと 長く付き合うDCこそ“コスト意識”が大切

2020年8月24日
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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

長く付き合うDCこそ“コスト意識”が大切

ニューノーマル(新しい日常)の中でストレスを感じてしまうのが、大好きな食べ歩きが思うようにできないことです。最近はいわゆる高級店までテイクアウトグルメを用意しています。さすがと思うクオリティのものが多いのですが、やはり、その場で出来立ての料理をいただくのとは臨場感が違います。
などと偉そうなことを言っても、ライフスタイル雑誌でグルメ記事を手掛けたことがあるくらいで、正直、人に自慢できるほどその方面の知識が豊富なわけではありません。むしろ、編集者だった頃に出会ったグルメライターさんに、おいしいお店に連れていっていただくのを楽しみにしている、という感じでしょうか。

そうしたグルメライターさんの中に、密かにリスペクトしている人がいます。『ミシュランガイド』に掲載されたお店や新しくオープンした話題のレストランのハンターは珍しくありませんが、この人が案内してくださるのは、怪しい外国語が飛び交うガード下の中華から、レンタカーを借りなければ行けないような山中にある和食店まで多岐に渡り、しかも、その1軒1軒の料理が、ひと際、筆者の舌と心に刺さるのです。
この人がお店を選ぶ基準は“コストパフォーマンス”に尽きるのだそうで、いわく、「腕のいいシェフが高級食材をこれでもかというくらい使えば、おいしい料理ができるのは当たり前。私はそういう料理を食べたいわけじゃない。地道にいい食材を仕入れ、手間暇かけた料理を、『この値段でいいの?』というような値段で提供しているお店を発掘するのが楽しみなの」。こういう人に巡り会えた自分は、本当に幸せ者だと思います。

食や持ち物についてはもちろん個人の嗜好もありますから、絶対的なコスパを測定するのは難しいかもしれません。これに対し、万人共通のコスパが存在するのがマネーの世界です。例えば、税金や社会保険料は原則、その人の収入(所得)や世帯構成に応じて決まってきます。
筆者自身、フリーランスになってから、会社員時代の自分にいかにコスト意識がなかったかを思い知らされる出来事が幾度となくありました。以前、国民健康保険料の話を取り上げましたが、あれなどほんの一部に過ぎません。とはいえ苦い経験を経て、会社員の頃は給与明細や源泉徴収票を“チラ見”する程度だったのが、今は確定申告書の控えを手に住民税や健康保険料をチェックするくらいのレベルには改善しています。

そんな筆者が最近思わず見とがめてしまったのが、20代の身内のコスト意識の欠如です(遺伝なのかもしれませんが)。社会人になった彼は晴れて会社の確定拠出年金(DC)に加入することになったのですが、どうやら会社にDCで着々と資産を築いている先輩社員がいて、同期とつるんで先輩と同じインデックスファンドを選択したようです。「これで僕の老後は安泰さ」というわけです。

筆者としては、この選択には大きく2つの問題があるように思えます。

1つは、「先輩が成功しているから」「同期が皆これにしたから」という“人任せ”の姿勢です。ご存じのように「過去にいい成績を残したものが、これからもいい成績を出し続ける」保証はありません。今のように先行き不透明な時代は、なおさらです。
このファンドでの運用がうまくいかなくても、先輩や同期が助けてくれるわけではありません。ビギナーであっても、“投資は自己責任”という意識を強く持つことは大切です。その意識こそ、ビギナーから中級、やがて上級への階段を上っていくエンジンになるのですから。

2つ目がまさにコスト意識の問題で、同種のインデックスファンドが何本かある中で、筆者の身内はよりによって一番信託報酬(運用管理費用)の高いファンドを選んでいたのです。TOPIX(東証株価指数)への連動を目指すタイプのファンドですから、過去の実績も、そして恐らくは今後の運用結果も、ファンド間でそう大きな差は出ないはずです。となると、毎年信託報酬を多く払う分、他のTOPIX連動型ファンドで運用している人たちに比べて少しずつ手元に残る金額が減っていくことになります。1年や2年の運用ならまだしも、この先40年以上持ち続けるかもしれないDCのファンドですから、これは賢明な選択とは言えません。

「拠出(積み立て)」「運用」「給付(受け取り)」の3つのフェーズで、それぞれ節税効果のあるDCは、元来が非常にコストコンシャスな制度と言えます。
積み立ての場合を例に取れば、所得(年収から各種控除を引いたもの)が500万円の人が月額2万7500円、年間33万円を拠出すれば1年につき9万9000円(所得税20%+住民税10%)も税負担が減ります。これを40年間続けたら、余裕で高級車が買えるくらいのコストカットになります。
運用益から20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金が徴収されないのも大きな魅力でしょう。だからこそ、商品選択の際には信託報酬などのコストもしっかり見ておく必要があります。DCや個人型確定拠出年金(iDeCo)専用ファンドは一般のファンドと比べてコストが抑えられている半面、運用スタイルが同じファンド同士で比べても信託報酬が倍近く違うことがあります。

運用手法が極めて斬新だとか、運用担当者に魅力を感じるといった動かしがたい理由があるのなら話は別ですが、同じような運用スタイル・実績を持つ投資信託の中ではなるべくコストの低いものを選び、DCのメリットを最大限に享受したいものです。

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