コラムVol.84 マネーライターの取材裏話――マネー誌に書かなかったこと&書けなかったこと コロナ不況下、家計も“手元流動性”を高めよう

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森田 聡子 (もりた としこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、地方紙勤務を経て日経ホーム出版社、日経BPにて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は書籍や雑誌、ウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に対し、難しい投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく「書く」(=ライティング)、「見せる」(=編集)ことをモットーに活動している。著書に『節税のツボとドツボ』(日経BP)、編集協力に『マンガ 定年後入門』(日本経済新聞出版社)、『教科書には書いてない 相続のイロハ』(日経BP)。

コロナ不況下、家計も“手元流動性”を高めよう

初っ端から景気の悪い話で恐縮ですが、猛暑を経て秋を迎え、コロナ不況の想像以上の深刻さをひしひしと感じています。
9月に発表された経済統計には、惨憺たる数字が並びました。
2020年4〜6月期の国内総生産(GDP)改定値は年率換算でマイナス28.1%。リーマンショック直後の2009年1〜3月期のマイナス17.8%を大きく上回り、戦後最大の下落幅です。
国土交通省が発表した7月1日時点の基準地価を見ると、銀座(最大マイナス5.9%)、新宿(同5.0%)といった日本の名だたる商業地の地価が、全国平均(マイナス0.3%)を大きく超えて下落しています。
編集者時代も含め、20数年に渡って金融分野の記事を書いてきましたが、ここまでの惨状は初めてです。

世界的な量的緩和の影響で株式市場や不動産市場は好調を維持しており、そちらに目を奪われがちですが、実体経済は相当傷んでいるのではないでしょうか。
コロナ不況で経済的なダメージを受けた人が、テレビやネットのニュース画面の中だけでなく、自分の周囲に生身の存在として現れつつあるのも、不安を増幅させます。
派遣切りに遭った人、パート先が倒産してしまった人……影響を被ったのはこうした派遣ワーカーや短時間労働者だけではありません。立場が安定しているはずの一流企業の社員からも、「残業代や通勤定期代に加えて諸手当までカットされ、手取りが3分の2以下になった」と愚痴られました。
筆者がマネーライターだとはいえ、普通なら自分の懐事情をおいそれと明かしたくはないものです。実際、コロナの前まではそうでした。それが昨今、立て続けにこうした話を聞かされるようになり、本人たちの困惑や悩みの深さを思うと胸が痛みます。

派遣切りに遭った知人のひとりは、「洋服やエステなど自分をブラッシュアップするためにお金を使いたいから、自宅は安アパートでいい」という、20年ほど前にオンエアされた「月9」のドラマを地でいく“なでしこ女子”です。お金に変えられそうな服やバッグは片っ端からネットで売り払ったそうですが、コロナ前の日常とのあまりの落差に心が折れそうだと意気消沈していました。
彼女たちは、今まで当たり前のように払ってきた家賃や住宅ローン、光熱費や携帯電話代などが払えないという理不尽な現実に直面しています。特別定額給付金10万円だけでは到底足りません。家族や郷里の親からお金を借りることができればまだいいほうで、中には社内融資やカードローンに手を出している人もいました。これは決して他人事ではなく、“今、私たちの隣にある危機”です。
だからといって、有益な助言ができるわけでもないのがもどかしいところです。せいぜい国や自治体の給付金を紹介する程度ですが、こうしたセーフティネットも、いざ利用しようとすると網の目からこぼれてしまう人のほうが圧倒的に多いのです。

そこで改めて思うのが、“緊急予備費”つまり“いざという時のお金”を確保しておくことの大切さです。
コロナ禍で、内外の企業は手元流動性(会社が保有する現預金と、株式などのすぐに市場で売却できる有価証券を合わせた資金)を積み上げています。日本経済新聞の報道によると、今年3月末で世界の企業の手元流動性は月商の2.4か月分と、史上最高水準を記録しました。日本の“キャッシュリッチ企業”の中には、なんと3年半分の月商を確保しているところもあるというから驚きです。
コロナ対策として、家計も「手元流動性=緊急予備費」をもっと手厚くしておく必要がありそうです。
ある日突然職を失ったとしても、当座の生活費を賄う預貯金があれば、次の仕事探しに集中でき、結果的に比較的短期間で状況を立て直せる公算が大きくなります。

公的年金を受給するようになれば、今のようなご時世でも、ある程度、安定した収入を得ていくことはできます。しかし、現役世代はそうは行きません。つまり、現役で住宅費や子育て費など毎月の支払いが多い人ほど、緊急予備費が欠かせなくなるということです。
これまで家計管理の記事には「生活費の3か月分の緊急予備費を用意しておきましょう」と書いてきましたが、今後は独身者が「最低3か月、できれば6か月分」、ファミリーなら「最低6か月、できれば1年分」の緊急予備費の確保をお勧めしたいと思います。
緊急予備費は文字通り家計の緊急時に使うためのお金ですから、特定の目的のための貯蓄とは別枠で持っておく必要があります。さらに、すぐに引き出せなければ意味がないので、解約のハードルが高い保険などに預けてしまうのはご法度です。
住宅ローンを組んだりする際も、この最低ラインは手元に残します。なかなか貯蓄ができない独身の方は、預金通帳の残高がこのラインを下回らないよう気を付けなければなりません。

さて、夏の終わりと共に7年8か月の歴代最長を記録した安倍晋三政権が幕を閉じ、9月には菅義偉新内閣が発足しました。新総理が掲げたスローガンは奇しくも「自助・共助・公助」でした。まずは自分で何とかする(自助)、それが無理なら家族や仲間や地域で支える(共助)、それでもダメなら国が助ける(公助)という図式です。
「最後の最後まで助けてくれないのか」と批判も浴びましたが、国の借金が過去最大の1100兆円超まで膨れ上がっている現状を鑑みれば「すぐに助けます!」とは言えないはず。各社の世論調査で高い支持率を得た背景には、そうした実直な政治姿勢への評価もあったのではないでしょうか。

今世紀に入って以降、自然災害やテロ、組織犯罪などが次々と勃発し、政府や企業のリスク対応能力が問われてきました。公助に全面的に頼れないとなれば、個々の家計にも、より高次なリスクマネジメントが求められそうです。
“隣にある危機”に備えて、今すぐ家計のリスク対策を始めませんか?

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