コラムVol.83 敵は本能にあり:へそ曲がりの『投資の考え方』第3回 何故、天邪鬼(あまのじゃく)が儲かるのか?

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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「早買いは三文の徳(元句:早起きは三文の徳)」

「麦わら帽子は冬に買え」という相場格言がありますが、夏に必要な麦わら帽子を冬に買う理由は何なのでしょう?この格言は、皆が買う夏場は値上がりするので、需要の少ない安い時期に買っておいた方が良いというアドバイスですが、だったら春でも良いのでは?

前回「相場を短期的に動かす要因は、何なのか?」は、経済学者ケインズの「株式投資(短期投資)は美人投票のようなものである」をご紹介しましたが、短期投資という美人投票の難しさは「儲けるため、皆が選ぶグランプリを当てなければならない」という特別ルールにあります。つまり、投資家は自分の意見だけでなく、他の投資家の思惑も考慮に入れて最終判断を下す必要があるということ。また、後出しジャンケン方式が通用しないのも、短期投資の辛い点です。何故なら、「儲けるため、他人より早く行動しなければならない」という第2の特別ルールも存在しているから。

図表1 もし世界が10人のマーケットだったら
図表1 もし世界が10人のマーケットだったら

「他人より早く行動しなければならない」という第2ルールが必要な理由は、誰かが売買するとその分だけ価格が動く相場の仕組みにあります。図表1のように、最初の購入者は最安値で買えますが、買い遅れると購入価格が高くなるマーケットで、安く買って儲ける秘訣は他人より早く買うこと。皆が買い始めたら春でも冬でも値上がりする麦わら帽子の場合も、大切なのは季節に関係なく他人より早く買うことなのです。そして、冬場に麦わら帽子が値上がりするように、短期相場が訳のわからない動きとなる原因もこの第2ルール。たとえば、新型コロナウイルス感染拡大にも関わらず、今年の世界株式市場は3月下旬から上昇しましたが、その原動力は将来の景気回復やウイルス開発を見越した投資家からのフライング気味の買いでした。

しかし、将来を先取りして見切り発車をするのは容易でなく、逆に、気が付いたら他の投資家が買い終わり、相場が大きく上昇していることもあります。では、このように取り残されてしまった場合、取るべき次の一手は何なのでしょう?ここで考えなければならないポイントは、「買った後は、売らなければならない」という第3の特別ルールです。

「人の売りみて我が売り直せ(元句:人の振りみて我が振り直せ)」

相場格言には、「人の行く 裏に道あり 花の山(他人と違った投資行動を取らないと、花の山(儲け)には巡り合えない)」や「幽霊と相場はさびしい方に出る(幽霊が寂しい場所に出るように、相場も大勢が待っている方向には動かない)」など、皆と逆をやる天邪鬼を勧めるものが目立ちます。そのような格言の中でも一風変わっているのが、「相場は買うから下がり、売るから上がる」。いくら相場が天邪鬼だと言っても、「買うから下がる」なんてことが起こるのでしょうか?

短期投資家は、収益を確定させるために「買ったら売る」「売ったら買い戻す」という反対売買を行います。逆に言うと、その時点でいくら儲かっていたとしても、反対売買をしない限り含み益という架空の数字に過ぎません。それでは、図表1の10人のマーケットで9人が買い終わった後、相場はどのように動くと予想できるでしょうか?投資家に買い余力が残っていない中で更なる上昇は難しく、逆に、買い終わった投資家から収益確定の売りが出てくるため、相場下落の可能性が高いと予想できます。実際に、順調に上昇してきた米国大手ハイテク企業の株式が今年9月に理由なく下落したのは、満腹になった投資家からの利食い売りが原因の一つと言われています。

図表1のマーケットで買い遅れた最後の一人が取るべき起死回生の一手は、買いでなく売りです。何故なら、「10人中最後の買い手」でなく「10人中最初の売り手」になれば、「最も高い価格で売れる」から。皆の買いで上がった相場は反対売買の売りで下がり、売りで下がった相場は買い戻しで上がるため、ワンテンポずらして逆をやることも有効な戦術。米国の相場格言「Buy the rumor, sell the fact(噂(rumor)の段階で買い、事実(fact)が発表されたら売れ)」が教えるように、短期で儲けるための投資行動は、誰よりも先に動き、皆が動いたら逆をやることなのです。

これまで、短期投資の3つの特別ルール、「皆が選ぶグランプリ(皆の投資行動)を当てると儲かる」、「儲けるため、他人より早く売買しなければならない」、「収益確定の反対売買をしなければならない」をご説明してきました。しかし、何故、このようなルールが存在するのでしょう?ここで忘れてならないのが、「ゼロサム(投資家全員の損益を合計(sum)すると、プラスマイナスゼロ)」という短期マーケットの宿命。つまり、誰かが損した分だけ別の誰かが儲かる「ゼロサム」の中で勝ち残るために、3つの特別ルールを守る必要があるということ。次回は、「ゼロサム」が短期投資家に与える影響について考えてみます。

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