コラムVol.97 地方クリエイターの仕事とお金の話13「クリエイターのコロナの影響」

2021年2月2日
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平川らいあん (ひらかわらいあん)
ゲームクリエイター、シナリオライター。大手ゲーム会社でゲームディレクションを多数手がけ、その後独立。株式会社Megg(ミグ)代表取締役。独立後は複数の会社のゲーム開発に携わる。専門学校にて企画シナリオ講師やゲームを題材とした小説の執筆も行う。「お金の、育て方」内で配信中の「信託クエスト」のシナリオを担当。著書に「ゲームシナリオの教科書 ぼくらのゲームの作り方」、「ゲームプランとデザインの教科書 ぼくらのゲームの作り方」(ともに共著・秀和システム)がある。

コロナとゲーム業界

ゲームクリエイターの平川らいあんです。2017年に20年過ごした東京から地元、九州の宮崎県宮崎市にUターンしました。地方クリエイターとなった私が地方での仕事とお金のお話しをさせていただいております。今回で第13回目。

今回は、ゲームクリエイターへのコロナの影響(2021年1月執筆当時)についてお話しします。ゲーム業界は、巣ごもり需要で好調というニュースが流れていますが、大きな影響が出ています。どういう影響が出ているのか。私と私の周りからの情報ですが、リアルな現状をお伝えしたいと思います。
ほんとうに未曽有の事態。これからどうなってしまうのか不安でいっぱいだと思います。でも必ず、必ず落ち着く時が来ます。その時まで、今何をするべきなのか、考えるきっかけになれば幸いです。

変わりゆく現場

コロナが広がってきてすぐにゲーム会社のほとんどがテレワークに移行しました。ゲーム業界は数百人での大規模な開発が主流となっています。同じフロアに数百人が揃っていることは稀で、部門ごとに建物が違うこともあります。さらには複数の外部の会社とも連携していることがほとんど。普段からテレビ会議やチャットツールを使い、ネットワーク上でデータを共有して開発を進めています。そのためテレワークへの移行は比較的にスムーズにいった所が多いようです。

今では普通にテレワークで開発は進んでいて、オフィスを縮小する会社も増えています。事務や法務、広報などオフィスに出る必要がある一部の社員のみ出社し、あとはテレワークという形になっています。先日、業界大手がこれからもずっとテレワークを行っていくと発表しました。ゲーム業界はテレワークが主流になっていくと思われます。

テレビ会議やチャットツールは、コロナによって使用する人が増えるにつれ、セキュリティが強化され技術もさらに加速すると考えられます。これからはあらゆる業界でテレワークが一般的になる可能性があります。テレワークに対応できるように、ツールやアプリなどを使いこなせるようになっておく必要も出てくるでしょう。

クリエイターへの影響

ゲーム業界は巣ごもり需要で売り上げは好調で、テレワークへもスムーズに移行したため、何の問題もないように見えます。しかし、現場ではある問題が発生していました。それは、コミュニケーションロス。
これは、私が宮崎に来て、東京と開発をしている時にも感じていた問題です。テレビ会議やネットでは、メンバーへの指示が正確に伝わらないことがあります。特に「温度感」が伝わりにくいのです。どこに力を入れるのか、ユーザーにどう遊んでもらいたいのか、集まってゲーム画面を見ながら意識を合わせた方がはやくて確実です。
また、ゲーム開発は、立ち話や雑談からアイデアが出ることが少なくありません。テレビ会議だとみんなで雑談することは少なく、新しい発想が生まれにくいのです。

これにより開発の遅延が多く発生しています。開発が遅延してしまうということは、それだけ人件費=開発費が増えてしまうということです。さらに発売日も遅れてしまうので、売上にも影響します。ゲームの開発には、数年かかります。昨年発売されたものは、数年前から準備をしていたものです。今年から発売数が減っていきゲーム業界全体に影響が出ることが考えられます。開発工程を見直した結果、開発中止になった話も聞いています。
遅延や開発中止の影響は、開発を請け負う中小企業やフリーのクリエイターにのしかかってきています。開発が終わらなければ、次の開発もはじまりません。契約が終了し、新しい案件もないという悪循環になっています。

先日、仲良くしている会社の方と話した時、会って話をする機会がないと、紹介での新しい繋がりがなく、新しい仕事に繋がらないと話をしていました。クリエイターは「求められるスキルが一致するかどうか」と、「一緒に仕事するメンバーとの相性」が重要。信頼できる人からの紹介で繋がり、新しいモノが生まれることも少なくありません。仕事は、人が人のために行うもの。人を楽しませるためのエンターテイメントの仕事は、顔を合わせて話をして、一緒にいいものを作りたいという気持ちが大切なのです。
そのためにも情報交換の打ち合わせや業界の飲み会などは非常に重要ですが、今はテレワークで会う機会が減っています。オンライン飲み会やWEBセミナーも多く開催されていますが、今の所、実際に会うものに勝るものはないですね。顔を合わせて話ができないことがクリエイターにとって1番影響が大きいと言えます。

今やれること

中小企業やフリーの方の1番の不安は、やはり資金面だと思います。当面の資金があれば次の案件が取れるまで余裕ができますし、いざという時にも安心です。コロナ関係の補助金・助成金・給付金がいくつかあります。調べてみて対象であればすぐに申請するべきです。資料作成が大変という声も多いかと思いますが、今はネットに書き方のサンプルもあります。また、コロナの影響が出ている中小企業には特別貸付もあり、利子補給を受けられれば当初の数年が実質無利子になる場合もあります。こちらも必要であれば調べてみてください。

ゲーム業界は声優との付き合いも多いのですが、収録スタジオも収録人数や時間が制限されていて仕事量が減っているということでした。そこで私の知り合いの声優は、自宅で収録できる設備を用意したそうです。すると以前よりも仕事量が増えたとのこと。今は収録機材も安価でいいものがたくさんあります。自分で勉強して動くことで、新しい道を切り開いたのです。

テレワークが広がることは、地方のクリエイターやクリエイター志望の人にはチャンスでもあります。テレワークが主流になれば地方の人材を採用することも増えるでしょう。事情があり地方から出られない人でもゲーム会社に入ってゲームクリエイターとして活動できるチャンスです。企業からすれば、埋もれている人材を発掘する可能性も増え、業界にとってもプラスになります。

いつかきっと落ち着く日がやってきます。その時までリスクヘッジをしながら、前を向いて、今やれることをやれば、新しい道が見えてくるかもしれません。

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