コラムVol.108 真面目に考える『投資の必要性』第10回 健康寿命を超えると、どうなるのか?

2021年5月10日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「百歳あって一利なし (元句:百害あって一利なし)」

最近「長生きリスク」という言葉をよく耳にしますが、「長生き」と「リスク」の組み合わせには、どうしても引っかかりを感じてしまいます。何しろ、長寿は人類が古代より追い求めてきた永遠の夢ですから、長生きによるリスクが気になると聞いたら、ご先祖様はさぞや驚くことでしょう。一方、歳を取ると若い頃に感じなかった様々なリスクが見えてくることも事実で、60歳代の私が今一番気になっているのは「健康寿命」の問題です。

図表1 日本人男女の平均寿命と健康寿命の推移
図表1 日本人男女の平均寿命と健康寿命の推移

出所:内閣府「高齢社会白書(令和2年版)」データより三菱UFJ信託銀行作成

「健康寿命」が気になる理由は、「平均寿命」より早く終わってしまう点にあります。図表1は、男女別に日本の平均寿命と健康寿命を比較したもので、最新の2016年時点で男性の健康寿命は72.1歳と平均寿命の81.0歳より約9年間短く、女性の場合、健康寿命の74.8歳は平均寿命の87.1歳より約12年間短くなっています。言い換えると、男性は健康寿命が尽きた後で約9年間、女性は約12年間、平均寿命が残っているということ。この平均寿命とは、前回「本当に、100歳まで生きるのか?」で書いた通り、「その年に生まれた赤ちゃんが、生涯何歳まで生きるかの予測寿命」という意味ですので、次に「一定年齢に達した人が、その後何年生きるかの予測年数」である平均余命を使い、健康寿命と「推計寿命(年齢と平均余命の合計)」を比較したものが図表2になります。図表1と比べ、図表2の健康寿命との差は男性で10〜14年間、女性で13〜15年間と拡大しており、健康寿命が一定であれば、長生きすればするほど健康寿命後の期間が長くなることが、「長生きリスク」の一つと呼ばれています。

図表2 日本人男女の推計寿命(※1)と健康寿命(2016年版)
図表2 日本人男女の推計寿命(※1)と健康寿命(2016年版)

※1:推計寿命=年齢+平均余命

出所:内閣府「高齢社会白書(令和2年版)」、厚生労働省「簡易生命表(平成28年版)」データより三菱UFJ信託銀行作成

ここで気になるのは、健康寿命を超えたら生活はどのようになるのかという点で、私の脳裏に浮かんできたのは「寝たきり」「認知症」「介護」という言葉でした。しかし、もしそうだとすると、男性72.1歳、女性74.8歳という年齢は、少し早過ぎるのではないでしょうか?

「健全な老後は健全な肉体に宿る (元句:健全な精神は健全な肉体に宿る)」

実を言うと、私は健康寿命を少しでも延ばそうと、スポーツジムに通っています。そこの会員は私より年長者が多く、平日の昼間に行くと私が若手になることも少なくないのに、皆さんは私より遥かに重いウェイトでマシン運動を繰り返し、スタジオで音楽に合わせ、飛んだり跳ねたりとハツラツなご様子。また、テレビの番組には、70歳・80歳代はもちろん、90歳代になってもお元気な方々が大勢登場されています。このような日本の実態とかけ離れている、男性72.1歳、女性74.8歳という健康寿命は一体何を意味しているのでしょうか?

健康寿命の「健康」という定義は大きく二つに分けられ、第一は「日常生活に制限がない」「自分が健康と自覚している」状態、第二は「日常生活の動作が自立している」状態を意味します。しかし、この定義は両者の違いが今一つピンと来ないため、今度は健康寿命を超え「不健康」になった時の状態を比べてみると、第一は「健康上の問題で、日常生活に制限が出てくる(健康時と比べ、できないことが出てくる)」「自分が健康でないと自覚する(自覚症状がある)」段階、第二は「自分だけでは日常生活が不自由になり、誰かの介助(見守りや手助け)が必要になる」段階となります。ちなみに、私が個人的に不安だったのは第二段階なのですが、世の中で言われている健康寿命とは、図表3のように第一段階を指しているのです。

図表3 日本のおける「健康寿命」の定義
図表3 日本のおける「健康寿命」の定義

出所:厚生労働省「健康寿命のあり方に関する有識者研究会 報告書(2019(平成31)年3月)」データより三菱UFJ信託銀行作成

それでは、第一段階の健康寿命を超えた後で起こる「健康上の問題」とは、具体的にどのようなものなのでしょう?健康寿命の算定材料である「国民生活基礎調査(厚生労働省)」によると、入院以外の理由で上位を占める「健康上の問題」とは、「腰痛」「肩こり」「手足の関節の痛み」であり、私の恐れていた「寝たきり」「認知症」とは全くレベルが違いました。どうやら、体が思うように動かなくなり、元気な頃と同じように活動できなくなるのが、男性72.1歳、女性74.8歳という健康寿命を超える意味のようです。一方、私が心配していた「自分だけでは日常生活が不自由になる」という第二段階は、図表3のように現在の「要介護2以上」状態を意味しており、2016年における要介護2以上の平均年齢は、男性79.5歳、女性83.8歳と健康寿命よりも7〜9年間長くなっています(厚生労働省調べ)。つまり、健康寿命を超えたら体は多少不自由になるかもしれませんが、一人で生活を楽しむ時間はまだまだ残されているということ。この結論を受けてホッとした私が次に気になったのは、生活を楽しむために必要となるお金の問題でした。次回は、「老後2000万円不足問題」で注目を浴びた、「老後で必要となる金融資産」について考えてみます。

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