コラムVol.87 敵は本能にあり:へそ曲がりの『投資の考え方』第4回 短期投機と長期投資は、何が違うのか?

2020年11月17日
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荒 和英 (あら かずひで)
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「鳴かぬなら鳴くまで待とう長期投資(元句:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス)」

一口に「投資」と言いますが、「短期投機」と「長期投資」では考え方や手法が全く違います。これまで短期相場変動の謎を追ってきた当コラムも、今回は長期投資へ寄り道してみたいと思います。長期投資と言えば、一代で世界有数の資産家となった株式投資家ウォーレン・バフェット氏が有名で、その言葉に「私が買うのは株式でなく企業です。それも、永遠に持ち続けたいと思いたくなる企業を買うのです」というものがあります。一体、どういう意味なのでしょうか?

相場で価格が変動する背景には、大きく分けて2つの要因があります。それは資産の「成長性」と「人気」。たとえば、図表1のように「株価=業績×人気」という関係が成立する株式の場合、業績と人気が動く中で株価が変動します。そして、長期投資と短期投機の手法が根本的に異なってくる原因は、成長性と人気のどちらに注目するかという考え方の違いにあるのです。

図表1 長期投資の考え方
図表1 長期投資の考え方

長期株式投資は、業績が伸びる企業の株価は最終的に上昇するという発想を基に、長期の業績成長性に注目する考え方です。図表1のように、「業績の成長性(右肩上がりの傾き)」が高い企業の株式は時間が経てば経つほど大きく上昇するため、バフェット氏が言うように出来るだけ長く持ち続けたくなります。実際の株価は、その時々の期待や不安という人気の変化を受けて上下動しますが、軸となる業績の成長性が続くのであれば、短期的な株価変動に惑わされる必要はありません。つまり、長期株式投資の本質は企業の業績にあり、株価は後から付いてくるということ。このような長期投資が成功する決め手は成長性の高い投資先の発掘であり、バフェット氏の成功の秘訣も企業の目利きにあったと思われます。一方、有望な投資先を選べなくても長期投資は可能で、世界経済の成長性に注目し世界全体へ投資を続ける図表2の国際分散投資は、日本をはじめ世界各国の年金基金が採用している、投資先を選ばない長期投資の代表例です。

図表2 国際分散投資の考え方
図表2 国際分散投資の考え方

出所:「国内債券:シティ世界国債インデックス(日本)」、「国内株式:配当込みTOPIX」、「外国債券:FTSE世界国債インデックス(除く日本、円ベース)」、「外国株式:MSCI コクサイ・インデックス(円換算ベース)」、IMF「World Economic Outlook」データより三菱UFJ信託銀行作成

以上のように、投資対象の長期的な成長性に注目するのが長期投資の基本的な考え方だとすると、短期投機を行う場合は、何に注目すればよいのでしょうか?

「鳴かぬなら殺してしまえ短期投機(元句:鳴かぬなら殺してしまえホトトギス)」

投資を嫌う代表的な理由の一つに「ギャンブルのようなもの」がありますが、ゼロか100かのギャンブルと違い、相場変動を背景に資産が増減する投資の場合、元本がいきなりゼロになるケースは稀です。それでも、短期投機とギャンブルが双方とも「ゼロサム」である点には、注意が必要。「ゼロサム」とは、参加者全員の損益を合計(sum)するとプラスマイナスゼロになるという意味で、外れた人の購入代金から当たった人の配当金や当選金が支払われる競馬や宝くじは、代表的な「ゼロサム」です(正確には、JRA日本中央競馬会や国の取り分があるため、「マイナスサム」ですが・・・)」。

図表1・2の長期投資は、業績・経済という全体のパイが拡大している中で、投資している全員が恩恵にあずかれる「プラスサム」の世界です。一方、図表3の短期投機は、全体のパイが一定であるため、誰かが損した分だけ誰かが儲かるという「ゼロサム」の世界。長期的に成長が可能な企業や経済でも、短期では成長する暇がないことから、短期投機は人気の変化に注目せざるを得ないのです。

図表3 短期投機の考え方
図表3 短期投機の考え方

「人気が相場を買う」「相場は人気七分に材料三分」という相場格言のように、短期相場は投資家の期待や不安という人気の変化で動きます。前回「何故、天邪鬼(あまのじゃく)が儲かるのか?」で、短期投機の3つの特別ルール(「皆の考えを当てると儲かる」「儲けるため、他人より早く売買しなければならない」「収益確定の反対売買をしなければならない」)をご説明しましたが、このようなルールが必要になるのも「ゼロサム」の宿命。何故なら、投資家同士が食い合う「ゼロサム」の短期相場で儲けるためには、他人の先回りをして売買を行い、間違いに気付いた時は他人より早くやり直す機動性が重要になるから。しかし、何故、このような短期投機が選ばれるのでしょう。

バフェット氏は「ゆっくりお金持ちになるのは簡単だけど、ゆっくりお金持ちになりたい人なんていない」と皮肉っぽく指摘していますが、Withコロナなどで先行きが不透明な現代は、ゆっくりお金持ちになる長期投資でなく、短期の儲けを確保する短期投機が選ばれる時代なのかもしれません。つまり、短期投機が増えると相場の変動性も高まるため、我々を驚かすような相場急変の続く局面に今後も覚悟が必要ということ。次回は、我々をビビらせる相場急落のきっかけとなる、投資家の「損切り(ロスカット)」について考えてみます。

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