コラムVol.90 真面目に考える『投資の必要性』第5回 今は買い時?売り時?それとも・・・?

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荒 和英 (あら かずひで)
1990年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より為替ディーラー、ファンドマネージャー、エコノミストなど、資産運用の最前線で投資業務に携わる。25年以上にわたるキャリアを生かして、2011年からマーケットレポートの執筆や投資に関するセミナー講師、TV出演(BSジャパン「日経モーニングプラス」)や執筆活動(『資産活用いろはかるた“い”の巻、“ろ”の巻』)などを精力的に行っている。

「鳴かぬなら殺してしまえ短期投機(元句:鳴かぬなら殺してしまえホトトギス)」

注目を集めた11月3日米国大統領選挙の終了後、世界の株式市場は上昇に転じました。日本の代表的な株価指数である日経平均は約29年ぶりに25,000円台を回復し、米国株式のNYダウも30,000ドルへ接近。しかし、未だに米国大統領選挙の結果はハッキリしませんし、図表1のように新型コロナは感染第3波入り・・・世界の先行きが不透明なのに、何故株式市場は上昇しているのでしょう?(2020年11月13日時点の情報で記載しております)

図表1 2020年日米株価推移と新型コロナ感染状況(日次、2020年11月12日まで)
図表1 2020年日米株価推移と新型コロナ感染状況

出所:WHO(世界保健機関)、日本経済新聞社、YAHOO FINANCEデータより三菱UFJ信託銀行作成

相場が上がるのは購入者が多いからですが、その購入者が呉越同舟になっていることは珍しくありません。たとえば、「米国バイデン新大統領が誕生するから、株式を買う」と、真逆の「最終的にトランプ大統領が逆転するから、株式を買う」。「有効なワクチンが開発され、新型コロナの感染は収束する」とワクチンに期待する人も、「ワクチン開発は遅れるけれど、各国政府や中央銀行が経済対策を打ち出す」と期待していない人もいます。中には、「積立投資だから買う」「下落を予想して空売りしていたので、損切りのために買う」という人も・・・。このように上昇の原因でさえ特定できないため、上昇が終わるタイミングを当てることは至難の技なのです。

相場の先行きが分からない中で売買の決断を迫られると、人間は強いストレスにさらされます。日経平均23,000円の水準で株式を購入し、その後25,000円まで相場が上昇した時、皆さんなら次の一手をどうするでしょう?「売って利益を確定させる」「様子を見る」「買い増す」の選択に迷いますし、売った場合は次にどのタイミングで買うのか?様子見や買い増しの場合はどのタイミングで売るのか?と悩みは尽きません。儲かっていても悩むのですから、損を抱えている時は修羅場。このような手探り状態の中で、プロの投資家が決断できるのは何故なのでしょう?それは、間違えたら直ぐに方針を転換し、数多くの売買を繰り返すことで最終的に挽回できる自信があるから。では、このような決断に慣れていない普通の人は、どうすればよいのでしょう?

「鳴かぬなら鳴くまで待とう長期投資(元句:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス)」

今年の米国株式市場は、新型コロナ・ショックや米国大統領選挙を受けて混乱したものの、株価は図表1のように年初の水準まで戻っています。あり得ない話ですが、今年のニュースを全く知らない人が現在の株価を見たら、何もない平和な1年と勘違いするかもしれません。振り返ると、今年の株式投資は静観していても損にならない一方、もし下落局面で買えたらハッピーな1年だったということ。しかし、こんな結果論に意味はあるのでしょうか?

NYダウの長期推移を示した図表2を見ると、月次のNYダウ(黒点線)は2003年から右肩上がりを続ける長期傾向線(緑線)を中心に上下動を繰り返しており、「NYダウの推移=長期上昇傾向+短期変動」という関係が成立します。ここで、前者の長期上昇傾向に着目するのが長期投資、後者の短期変動に着目するのが短期投機であり、着目ポイントが異なる長期投資と短期投機は、それぞれ投資手法も異なってきます。

図表2 米国株式NYダウの長期推移(月次、2020年10月末現在)
図表2 米国株式NYダウの長期推移

出所:YAHOO FINANCEデータ、各種情報より三菱UFJ信託銀行作成

図表2のNYダウは、2003年からの18年間弱で約3.3倍、年平均7%弱の上昇となっており(米ドルベース)、この期間中の上昇を「Buy & Hold(購入したら持ち続ける)」でフルに獲得するのが長期投資です。これに対し、26,000ドルで買い29,000ドルで売って約10%を儲けるのが短期投機ですが、数回ならともかく何十年も短期売買で勝ち続けるのは、ギャンブルで生計を立てられるようなプロの領域。残念ながら、前回「その投資って、ひょっとしたら・・・」で書いたように、短期投機は普通の人と相性が悪いのです。一方の長期投資に関しては、土台となる長期上昇傾向が今後も続くのか?と心配になる人がいるかもしれません。確かに、過去の実績は将来を保証するものではありませんが、投資家の気分によって、いつ下落に転じるか分からない短期上昇と、実体経済に支えられる長期上昇傾向は信頼性が大きく違います。

NYダウの長期上昇の原動力は米国経済や企業の成長性であり、逆に言うと、米国経済や企業が成長してきたから、NYダウは長期に渡って上昇を続けてきたという関係。要するに、長期の実績は実力を測るバロメーターなのです。図表2を見ると、過去にも様々な事件や危機が発生し、大統領の交代もありましたが、少なくとも現在までの所、米国経済や企業の長期成長性は揺らいでいない様子です。同様に、新型コロナ感染の拡大や大統領選挙の混乱の中でも米国の成長性は崩れないと思えば、長期上昇傾向から逸脱した今年の急落相場が買いのチャンスに見えてきます。つまり、成長性が続く限り持ち続ける長期投資は短期売買の必要がないため、相場急変の中でも精神的なゆとりを持つことができる、普通の人向きの投資と言えるのです。次回は、長期投資を別の観点から考えてみます。

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